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第2章
食べ物の力
しおりを挟むいっぱいの人達がいて、いっぱいの声が聞こえてきて、色んな感情が目まぐるしく交差する。
思わず目をギュッって閉じて、感情を読み取らないようにつとめる。そんな私を見て、エリアスは私の頭を優しく撫でてくれる。
「ちょっと静かにして聞いてくれ。紹介したい子がいるんだ。」
「それってその子の事だよねー?」
「新しい入居者ってやつか。」
「なんか、アシュリーに似てるよな?」
「うん、アシュリーだ!」
「え?俺にも見せてくれよ!皆どいてくれ!」
「もう!押さないでよ!」
「分かったから!皆しずかに!」
エリアスはそう言うと、私を抱き上げて皆に見えるようにした。いきなりそうされて、ビックリして辺りを見渡す。いっぱい子供達がいる。皆が私を見てる……
「この子はリュカって言うんだ!今日から一緒に住むことになっから、皆仲良くしてやってくれな!」
「分かったー!」
「可愛いねー!」
「よろしくな!」
「ねぇ!リュカってアシュリーの子供なのー?」
「やっぱりそうなのか?!」
「って事は、エリアスの子供ってことなのかー?」
「えー?そうなのー?」
「分かった、ちゃんと説明すっから!リュカは俺とアシュリーの子供だ。訳あって離れて暮らしていたけど、やっと一緒に住めるようになったんだ!だから皆、よろしく頼むな!」
エリアスが皆にそう言うと、またあちこちで声が聞こえる。これは……動揺してるっぽい感じかな……
エリアスが私を下ろす。するとまた、色々話しかけられる。それらのどれに答えて良いのかに困惑する。言ってることも全部分かってる訳じゃない。どうしよう、ドキドキする……
どうして良いか分からずに、またエリアスの腕を掴んでしまう。エリアスの少し困った感情が入り込んできた……
「皆すまねぇ、リュカは今日は疲れてっから、ちょっと休ませてぇんだ。また後でな!」
そう言って私の手を取って、エリアスは部屋へと向かう。皆の「えーっ!」って声を聞きながら、私も部屋へと向かう。
部屋に入って、ソファーに腰掛ける。やっぱりこの部屋が一番安心する。エリアスが私の頭を撫でるから顔を上げて見ると、さっきと同じ困惑した顔をしていた。
「リュカ、大丈夫か?」
「だいじょうぶ、けど……」
「うん、少し驚いたかな?」
「うん……いっぱい、いた、こえ、いっぱい」
「そうだな。皆、リュカに興味があるんだ。リュカを知りたいって思ってるんだ。」
「わかる、けど、なにいうといいか、わからない」
「こんなに多くの人達に話し掛けられる事はないもんな?ごめんな?」
「ううん……」
「俺がいない時は、ルーナを頼れば良いからな?他にもいっぱい職員……ここに働く大人がいるから、その人達を頼っても良いし。」
「エリアス、いない?!」
「え?あぁ、仕事に行ってる間は、リュカはここで過ごすことになるから、その間は……」
「いや!エリアス!いっしょ!リュカもいっしょ!」
「それは……無理なんだ。俺が行く所は危険も多いしな……」
「リュカ、だいじょうぶ、つよい!」
「魔物を倒す事も多いんだ。俺はそう言う仕事をしている。知ってるだろ?」
「エリアス……でも……!」
「ここでな、野菜を作ったり、食料となる動物の世話をしたりしてんだよ!それとな、勉強もしてるんだ!言葉をもっと詳しく知ったり、お金の計算が出来るようにするんだ!だから……」
「エリアス……」
「リュカ……頼むから泣かないでくれ……」
エリアスがいないこの場所で過ごすのが凄く怖い……ルーナも怖いし、ここでどうやって過ごして良いか分からない……
でも、魔物を倒すのを見るのは辛い……分かってる。私が言ってるのはワガママなんだ……
でも……
「リュカ、大丈夫だから。な?ちゃんとしてくれるようにルーナにも言っておくし、皆良い子達ばっかりなんだよ。俺もリュカがここにいてくれたら安心するし……」
「エリアス、あんしん?」
「あぁ、俺にとっちゃあここが安心できる場所なんだ。だから、ここにリュカがいてくれるのが嬉しいし安心する。」
「……わかった……」
「そっか!良かった!俺もなるべく早くに帰って来るから!な!」
「うん……」
エリアスが安心できるんなら……これ以上ワガママを言っちゃいけない……怖いけど、何とか頑張らなくちゃ……
涙をなんとか堪えて、また涙が出てきそうな目を、手をグーにしてグリグリ押さえる。そんな私を、エリアスは優しくギュッてしてくれる。優しいエリアスを、これ以上心配させてはいけない……
しばらくそうやってエリアスと一緒に部屋で過ごしていると、陽はゆっくりと傾いてゆき、やがて暗い闇がやって来る。
けれどここは明るい。部屋の中もそうだし、外を見ても、道を照らす灯りがある。私がいた洞窟の中はいつも暗くって、その暗闇から抜け出すように外に出て陽の光を浴びる。夜がやって来るとそこは途端に暗くなって、月の光が唯一の明かりとなる。
暗闇は嫌い。自分が一人だって思い知らされるようで、心が寒くなる。あの場所では、私はいつも迫ってくる暗闇が怖くって、洞窟の中で自分の体を守るように膝を抱えて丸くなっていた……
そんな事を思い出しながら窓からその様子を見ていると、扉がコンコンって鳴った。それはルーナだった。私を見るとニッコリ笑って、それからご飯だよ!って言いに来た。けれど、またルーナの表情と感情はチグハグだった。
エリアスに連れられて一階に下りていくと良いにおいがしてきた。一階では、既に席に座ってる子供達が多くって、でもまだ食べ物の周りに人がいる。
「ここは自分で食べたい物を食べたいだけ持っていくんだ。これがトレーで、ここに容器を置いて取っていく。一緒に取りに行こう。」
「うん」
トレーというのを持って、お皿とかスープを入れる容器を乗せて、食べ物を置いてる場所まで行く。大きなスプーンとかトングって言われる掴む物で、食べ物を食べたい分置いていく。パンもあって、形が違うのが2つあったからその2つを取ると、エリアスが「パン、もっと食べて良いんだぞ?」って笑って言う。そう言われて私も笑って、もう1つパンを取って、エリアスを見てまた笑った。
エリアスの横の席に座って、皆で手を合わせて「いただきます!」って言ってから、食事が始まった。
スープを口にすると、凄く美味しかった!それに、黄色いヤツも美味しいし、お肉も美味しい!パンも美味しいし、夢中になって食べてしまう。
「リュカ、旨いか?」
「うまい?」
「あっと……美味しいか?」
「うん!おいしい!パンも!きいろのも!」
「きいろ……卵か!それな、うちで取れた卵なんだぞ!うま……美味しいだろ!?」
「うん!スープも!みんな、おいしい!」
「ルーナがこれ全部作ってくれてんだよ!すげぇだろ?!この人数分!」
「食材切ったりは手伝って貰ってるよ!まぁやることが多いから、ずっとキッチンにいるけどね!リュカ、美味しい?」
「うん!パンもおいしい!」
「そう?良かった!」
ルーナの言葉と感情が一致した!良かった!
美味しい物が食べられるっていいな。いつもは肉とか野草とか茸とか、そういうものばかりだった。味付けとかも無かったから、こうやって同じ食材でも違った味になるとか、それだけでビックリする。
生きるためにだけ食べるって感じだったけど、それだけじゃないのかな。人間ってスゴいな。だって、美味しい物を食べてる時って、すごく嬉しいし、暖かい気持ちになるもん。
パンを割って、その中に卵ってのを入れて、緑の葉っぱも入れて、お肉も少し入れてたら、エリアスがこれをかけたら良いって言って、薄い黄色のを上からウニーって掛けた。それを大きく口を開けて食べる。うん、美味しい!スッゴく美味しい!
明日からの事は凄く不安だけど、こんなに美味しい食事が食べられるなら、ちょっと頑張ってみようかな……って、少し気持ちが前向きになった。
美味しいってスゴいな。周りを見ると、皆ニコニコしながら食べてる。こんな美味しい食事を作るルーナは、きっと良い人だ。そうなんだ。
うん、だからきっと大丈夫!
応援ありがとうございます!
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