慟哭の時

レクフル

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第六章

やっぱりさっぱり

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朝食をすませて、聖女の部屋へ戻る。

そこでまた、着替えをさせられ、化粧を施されて髪を結われる。

ディルクの体調はまだ万全では無かったけれど、今日ここを発つんだそうだ。
やることが多くて、ゆっくりしていられないって、愚痴っぽく笑いながらディルクは言っていた。
でも、本当にそうなんだろうな……

ひとまず馬車で出てから、途中で降りて歩いてオルギアンまで行く。

ディルクの事が心配だけど、私がこのまま一緒にオルギアンまで行ったとしたら、私の事はどう紹介するんだろうか?
どこの誰とも分からない者を突然連れてきて、ディルクが私を傍におく事を、周りはすぐには納得等しないだろう。

ディルクは自由になれるようにする、と言ってくれていた。

どうするのかは分からないけど、ディルクにはディルクの考えがあるんだと思う。

だから今は、私はただの旅人として、依頼を受けた冒険者として、オルギアンの依頼を全うさせる。

出発の準備が整い、盛大に見送られる。

私の元に、治癒で元気になった者達が集まってきて、皆が頭を下げてお礼を言い続けていた。
シルヴィオ王も、爆破事件の首謀者を捕らえられたとして、ディルクにお礼をしようとしていたが、ディルクはそれを断り、その分爆破事件で亡くなった人の遺族と今回の被害者に、手厚く手当を渡すよう伝えていた。

沢山の人達に見送られながら、ディルクと馬車に乗って、グリオルド国、王都ウェルヴァラを後にした。

馬車の中、まだ体が痛むディルクが横になっていたので、私が膝枕をして熱くなった体を冷やしていた。
暫く走った所で馬車を止めて、私はここから歩いてオルギアンまで行く事にする。
ディルクも空間移動でオルギアンまで戻るそうだ。

馬車が止まってそこから降りるまで、ディルクが私をなかなか離さずに、ずっと抱き締めていた。
それから何度も何度も、魅了の抑制を怠らない様に注意された。
そんなに効果があったんだろうか……?

口づけの後、名残惜しむ様に、ゆっくり手を離して別れる……

ディルクは、エリアスに「頼んだ」と念を押すようにしっかりと伝えていた。

私は去っていく馬車を、暫くの間見えなくなっても、そのまま見送り続けていた……


「アシュレイ……そろそろ行くか?」

「あ、うん……ところで、エリアス……この馬は?」

「あぁ、アルベルトに借りた。ギルドの馬だ。こいつを返しにいかなきゃなんねぇんだ。一度、ギルドに行っても良いか?」

「それは構わないけど……」

「アシュレイ、馬に乗った事、あるか?」

「え?ない……」

「じゃあ乗せてやるよ!気持ちいいぜ!」

「え?!私、まだ着替えてないからドレスだし、馬に触れないし……」

「大丈夫だ!俺の前に、横向きに座れば良い。で、俺にしがみついてたら大丈夫だから!」

「え?!そんなので行けるのか?!本当に大丈夫?!」


言ってるそばから、エリアスは馬に乗って、私の手を取って私も馬に乗せる。


「すごい高い!目線が高いっ!」

「じゃあ行くぜ?!しっかり掴まっとけよ!」


エリアスが黒馬のティトルを走らせる。
風をきって、ティトルは爽快に駆けて行く。


「すごい!速い!エリアス!馬って凄いんだな!」

「そうだろ?!風が気持ちいいだろ?!」

「うん!エリアス!凄く楽しいっ!」


暫くそうやって、ティトルに乗って走って行った。

それから馬に乗ったまま、空間移動でインタラス国の王都、コブラルまでやって来る。


「エリアス、私、ドレスのままなんだけど……!」

「あぁ、そうか……でも、そのままでも良いんじゃねぇか?」

「え?!なんで?!」

「もう無理に男にしなくても良いだろ?」

「そんな事は……」


言いながら、エリアスはティトルに私を乗せたまま、ギルドまで向かって行く。
皆が通り過ぎる私達を見ている様な気がして、凄く恥ずかしい……!

ギルドに着くと、馬宿にティトルを置いて、それから報告するからと言って、私も一緒にギルドへ連れていく。


「エリアスっ!恥ずかしいっ!ギルドでこんな格好なんて!着替えたいんだけど!」

「大丈夫だ。アシュレイは綺麗だから。」

「な、何言ってるんだ!エリアス?!」


ギルドに入ると、皆が私達を見ている様な感じがして、凄く緊張する……!
私はエリアスと手を繋いで、エリアスの後を下を向いて歩いて行く……


「アシュレイ……さん?」

「コレットっ!」

「やっぱりアシュレイさん!どうしちゃったんですか?!良いんですか?!そんな姿で!すごく綺麗ですけど!!」

「コレット!エリアスが着替えさせてくれないーっ!!」

「そんな泣きそうな顔しないで下さいっ!美人が台無しですよっ!エリアスさん!女の子を苛めちゃダメですっ!」

「苛めてねぇよ……」

「エリアス!戻って来たか!……そのご婦人は……?」

「よう!アルベルト!ティトルはよく働いてくれたぜ!ありがとな!」

「あ、私の為にティトルを貸し出してくれたそうだな!アルベルト、ありがとう!」

「え……?……もしかして……アシュレイか?!」

「見りゃあ分かんだろ?」

「えぇーーっ!!アシュレイっ!女だったのかっ!?」

「アルベルトっ!声が大きいっ!!」


その声で、ギルド内にいた者達が私をガン見してくる。
その目から逃れる様に、エリアスの腕を掴んで後ろに隠れる。


「エリアス……恥ずかしい……っ!」

「何隠れてんだよ……ったく……可愛い事すんなよ……」

「ア、アルベルト!部屋、貸してっ!」

「あ、あぁ、分かった……」


急いでギルド奥の客室へ行って、いつもの服を着て、装備を身につける。
やっぱりこれが落ち着く……

着替えて出て行くと、また皆が私を見る。


「あの姿を見ると……もう女にしか見えないな。」

「アルベルト、あんまりそんな風に言わないで……」

「アシュレイ……可愛いな……」

「惚れんなよ?アシュレイは俺んだからな!」


エリアスが私の腰を引き寄せて、皆に聞こえる様に言う。


「えっ?!エリアス、何言ってるんだ?!」

「そう言う事だったか!エリアスがアシュレイにベッタリなのも頷けるな。ハハハハハっ!」

「そんなんじゃ……」

「あぁ、そうだぜ。俺はアシュレイにゾッコンだからな。誰もアシュレイに手を出すなよ!」

「心配なのは分かるがな。そんなに周りを威嚇するな。で、グリオルド国は問題無かったか?」

「あぁ。滞りなく済んだ。とか言いながら、俺はオルギアン帝国のSランク冒険者になっちまったけどな。」

「何?!それはどういう事だ?!」

「どういう事もなんもねぇよ。そうなったって事だけ伝えとく。」

「エリアスなら実力的に問題は無いが……なぜオルギアン帝国なんだ?」

「もう良いだろ。じゃあな!」


エリアスが私の手を掴んで行こうとする。


「あ、アルベルト、ありがとう!コレット、また!」


エリアスに連れられて、ギルドを出る。

なんでいきなりこんな事をするんだろう?


「エリアス、どうしたんだ?なんでいきなり……?」

「既成事実だ。」

「え?何?」

「俺、アイツに遠慮しねぇって決めたから。」

「何?何言ってるか分からない!」

「分かんなくて良い。あ、飯でも食ってから、さっきの場所まで戻るか?」

「あ、うん……」


エリアスのしたい事がいまいちよく分からなかった……

エリアスは何がしたかったんだろう……

色々考えてみたけど、エリアスの気持ちが、やっぱりさっぱり分からなかった……






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