慟哭の先に

レクフル

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その正体

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 その日の夜はアシュリーの事が気になって気になってあまり眠れなくて、でも翌朝すぐに目覚めてゴーレムと感覚共有する。

 まだ目覚めていないのかテントは立てられたままで、テーブルには昨日と同じように一人分の食事が置いてあった。

 ゴーレム越しにアシュリーの様子を確認しながら、俺はキッチンで自分の朝食を用意する。
 
 あ、アシュリーが起きてきた。

 食事が一人分無いのを見て、アシュリーは「エリアス……?」って俺の名前を呼んで辺りをキョロキョロ見渡してる。その様子がすっげぇ可愛い……!


「って……ちゃんと食べてるし! 本当にエゾヒツジのクリームスープが好きなんだな!」

「ったりめぇだろ! アシュリーの作るエゾヒツジのクリームスープは絶品だからな!」


 届く筈のない言葉だけど、そう言わずにはいられなかった。
 アシュリーがそう言って笑ってる。それを見てるだけでも、すっげぇ幸せな気分になる。
 ひとしきり笑った後、アシュリーは一言


「本当に……かわいい人だな……」


 そう呟いた。
 
 え? それって俺の事か?
 マジで俺ってかわいいのか?! 何処がなんだ?! うわー、聞きてぇー! 確認してぇー! って、自分から姿を見せないようにしてるのに、こんな所で隠れて見てるのに何言ってるんだって感じだよな。

 けど、そう言ったアシュリーの微笑んだ顔を見たら、胸がキュンってしてしまう……!
 ヤバい、俺、なんか恋する乙女みてぇになってる! うわぁ、すっげぇドキドキする! このドキドキを誰かに伝えてぇっ! って誰にだ?!

 朝からジタバタ身悶えて、一人でテンションが高くなっちまう。もうこれだけで飯何杯でも食えるよな。いや、そんなに食わねぇけど。ってか、逆に胸がいっぱいで食欲とか無くなった。でもせっかく朝食を用意したから食べるけどな!

 一人で悶えて自分でツッコミを入れて、ハタから見たら俺は今ヤバい奴なんだろうな。けど、そんなのは関係ねぇ。俺は今嬉しくて仕方がねぇんだ!

 朝から嬉しくなって、俺はご機嫌にいつもの仕事をする。

 今日はインタラス国に行くか。ここで管理させてる奴がいる。と言っても、俺が作り出したゴーレムだけどな。
 このゴーレムには高ランクの魔物の魔石を埋め込んであるから、滅多な事では機能が停止することはない。あの辺り一帯を中心にそのゴーレムに管理させているが、このゴーレムは回復魔法に特化させている。俺の能力の一部を与えているのだ。
 だから、そんじょそこらの奴より強い。滅多な事ではヤられたりしない。
 
 とは言え、俺も治療が必要な人には回復させてるけど、このゴーレムは治療をメインに動いてくれる。人の苦しむ声や嘆く声に敏感に反応するようにさせたから、その場所まで即座に行って、怪我人や病人がいれば回復させるのだ。
 こうやってたまにはメンテナンスと言うか、上手く周りと協調してやっていけてるのかを確認しないといけねぇけどな。

 他にも強いゴーレムを何体か作り出している。

 剣に特化させた奴と魔法に特化させた奴。それから魔物を従えさせる事が出来る奴。
 そうやって何体か作り出しておいて、何かあった時にその事案に見合った奴が対応して事なきを得るようにしていく。
 それでもヤバそうだったら俺が出向くって感じだな。

 お陰でコイツらはゴーレムなのに英雄だとか言われてるが、定期的に容姿を変えているから正体が見破られても問題はない。

 そろそろインタラス国にいるゴーレムの容姿でも変えておくか……
 敬ったり崇められたりは、何の特にもなんねぇ。それよりも普通に暮らせるのが一番だ。こうなって俺はよりそう思うようになった。
 
 愛する人と一緒に質素でいいから仲良く暮らしていく。

 それが一番良いんだ。幸せなんだ。

 インタラス国のイルナミの街にある孤児院で、治癒のゴーレムは働かせている。このゴーレムは俺の願望を表現させちまってる。
 どういう事かと言うと、アシュリーにソックリに作ってしまったのだ。

 しかしよく見ると、やっぱりアシュリーとは違う。アシュリーの方が断然可愛い! これを作った時は、すっげぇソックリに出来たって思って、俺マジ天才! とか有頂天になってたけど、本物を見た後じゃその違いがハッキリと分かる。

 ……うん、顔を変えよう。

 アシュリーっぽく男装させて腰に俺がアシュリーに贈った剣も持たせてたけど、剣は没収して大幅にイメチェンしよう。
 今度は普通に、そこらへんにいる女の子にしよう。聖女って役目だから女の子でいいよな。

 とか思いながら容姿を変えるけど、どうもアシュリーっぽくなっちまうんだよなぁ……
 アシュリーはもろに俺のタイプだから、そうなっても仕方がないんだろうけどな……
 
 そうやって治癒のゴーレムを自分なりにカスタマイズしてから、また他の仕事をしに行く。たまにアシュリーの様子を確認しながらその日の仕事は終えた。

 家に帰って来て、今日のアシュリーの一日を確認する。

 ロヴァダ国の街に着いたか。
 ……ってなんだ? この門番! 腹立つ奴だなぁ! ってか、ここは街っていうか村っぽい寂れた所だけど、なんでこんなにボロボロなんだ? ロヴァダ国には行った事は無かったけど、あ、上空を飛んだ事はあるかな、くらいでちゃんと見たわけじゃないけど、この国がどんな国かは詳しく分かってなかった。
 隣国のシアレパス国ともあまり仲が良くないらしいし、オルギアン帝国の属国じゃねぇ所は俺の管轄外としてるからな。

 って……リュカの……『黒龍の天使』像が……こんなにボロボロにされて……

 それにはアシュリーも悔しかったのか涙を流していた。
  
 そうか……そうだよな……悔しいよな……俺も悔しい。そして、この街の奴らに憤りを感じる。けど、それはこの国の情勢が整っていないからなんだろうな。
 この広場に来るまでに、アシュリーを狙う奴らのなんと多いことか……
 それをアシュリーは難なく往なしていく。流石だ。俺の出る幕はねぇな。良かった。

 その場からアシュリーは突然姿を消した。空間移動が使えたのか?! 
 何処に行った?! 
 ゴーレムは何処に行くことも出来ず、ずっとそこに佇んでいたから、取り敢えずシアレパス国の宿屋へ行くように指示をする。そこしか知らない。俺はそこ以外アシュリーが立ち寄りそうな所を知らないんだ……!

 ゴーレムじゃ時間が掛かるから、俺がゴーレムの元まで空間移動で行って、ゴーレムと共にシアレパス国の宿屋へ空間移動でやって来た。
 ゴーレムに部屋の前へ行かせて様子を見させる。俺は外でその様子を見ていた。

 アシュリーは帰って来ていたようだ。良かった。けどそこでもアシュリーは泣いていたみたいだ。微かに泣き声と鼻をすする音が聞こえる。
 
 ……慰めてやりてぇ……

 他でもない、リュカの事だ。今この気持ちを共有できんのは俺だけだろう。分かっているけど今はまだ……
 複雑な思いを胸にしながら、会いたい気持ちを何とか押し留める。切ない気持ちになりながらも一安心して、今現在のアシュリーを確認しつつ家へと戻った。
 
 アシュリーは宿屋の食堂で夕食を摂るんだな。うん、いっぱい食えよ? どんなアシュリーも好きだけど、あまり痩せすぎてると心配なんだよ。また倒れないように、ちゃんと食ってくれよな。

 アシュリーに合わせて、俺も買ってきておいた飯を一緒に食う。離れているけど、なんかこうやってるのが嬉しいよな。
 
 夕食を済ませるとアシュリーは部屋へ戻った。部屋の外でゴーレムに待機をさせておく。プライベートの侵害はしちゃダメだからな。
 俺も寝室に横になって、アシュリーを想って眠ることにする。昨日はあまり眠れなかったから、すぐに眠りへと誘われる。

 アシュリー……また明日な……

 

 
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