慟哭の先に

レクフル

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愛しい子

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 邪神を倒した。

 テネブレの力を抑えつけるように、私の中へと戻って貰う。

 途端に体は力を失うようにその場で崩れ落ちるようになって、倒れそうになったところをエリアスがしっかり抱き止めてくれる。

 邪神の触手は思ったより私の体を突き刺していて、そこからいきなり出血しだした。


「アシュリーっ!」

「ご、め……テネブレが、いたら……大丈夫、だった……んだ、けど……」

「すぐに回復させるから!」

「エリアス……私に……回復、魔法、は、効かない……」

「じゃあ……じゃあどうすりゃ良いんだよっ!」

「エリアス……エリアス……ギュッて、して……?」

「アシュリーっ!」


 エリアスが私を抱きしめてくれる。

 ずっとこうして欲しかった。
 ずっとこれを望んでた。
 体は痛むけれどエリアスの腕の中は暖かくって安らいで、気持ちは嬉しくて幸せで私はまた幻覚を見ているんじゃないかなって思ってしまう。

 
「アシュリー、アシュリー頼む! しっかりしてくれ! 頼むからっ!」

「泣かないで……エリアス……」

「セームルグっ!」


 エリアスがそう叫ぶと、私からセームルグが出てきた。いつの間にセームルグは私の中にいたんだろう? 知らなかった。段々寒くなってくる。目も見えにくくなってくる。あれ? 可笑しいな……


「セームルグ! アシュリーを助けたい! 死なせたくねぇっ! どうすりゃ良い?!」

「アシュリーさんは……回復魔法が効かないんでしたね……」

「そうなんだ! どうして助けりゃ良いんだよ?! 教えてくれ!」

「とにかくエリアスさんの生命力と魔力を与えるようにしてください」

「分かった!」


 エリアスとセームルグの声が聞こえる。けれど段々何を言ってるのか分からなくなってくる。
 抱きしめられているその心地良さの中、暖かいナニカが流れ込んでくるような感じがしてくる。少し痛みは無くなった。これはエリアスがそうしてくれてるからかな……?

 エリアスは私を助けようとしてくれている。
 
 けど、もう良いかな……これで……

 エリアスの胸でこうしていられるのなら、このまま命が無くなってしまっても良いかもしれない。 

 だって私は今、凄く幸せな気持ちなんだから……

 邪神に捕らわれたエリアスの気持ちが分かる。幸せを感じたままであれば、もうそれで良いんじゃないかと思ってしまう。

 だけどエリアスは泣いている。私の名前を何度も呼んで、意識をしっかりさせようとしている。

 エリアスはすぐに泣く。誰よりも強いのに、誰よりも涙脆い。だけど自分の事では泣かないんだ。そんなところも凄く愛しくて、大好きなんだ。

 でもまた泣かせちゃってるな……私が泣かせてるんだな……エリアスを笑顔にしたいのにな……

 あれ……エリアスの声が聞こえなくなってきた……

 目の前が暗くなって、見えなくなった……

 周りが暗くって何も見えない状態で、微かにエリアスの私を呼ぶ声が聞こえてて……

 
「エリアス、困ってるよねー?」

「え? あれ? ……リュカ!」


 声のする方を見ると、そこにはリュカがいた。ビックリして一瞬そのままリュカをじっと見つめて、だけどやっと会えたリュカに、私は何も言えずにそのまま抱きしめた。


「アシュリー、やっと私が分かったんだね! 良かったぁ!」

「リュカ……リュカ、今までごめんっ! 私、勝手にリュカを連れてきて……そんな事をしなければ、リュカは転生できて他の人生を歩めたのに……」

「ううん、良いの。私、ずっとエリアスに会いたかったし、言いたかった事も言えたから」

「でも……っ!」

「こうやってアシュリーと話せて嬉しい。あ、それとね、ごめんなさい。私勝手にアシュリーの体を借りちゃってたの」

「いいよ、そんな事くらい! 何もしてあげられなくて……私、リュカに母親として何もしてあげられなかった……」

「良いの。えっとね、私ね、エリアスとアシュリーの子供で良かったって思ってるんだよ?」

「リュカ……」

「でもね、私がここにいたらダメみたいなの。エリアスもね、すごく困ってる」

「え……どうして……?」

「えっとね、アシュリーに回復魔法が効かないのは私の魂があるからなんだって。だからね、そろそろお空に還ろうって思うの」

「え?! いやだ! リュカ!」

「でもね、そうしないとアシュリーの体がダメになっちゃうかも知れないんだよ?」

「でも……っ!」

「エリアスが悲しむよ? せっかくアシュリーに会えたのに。またエリアスを一人にするの?」

「けど……リュカ……!」

「あ、じゃあね、約束する! また絶対にアシュリーの子供に生まれてくるって!」

「本当に……?」

「うん! 約束! だから泣かないで?」

「リュカ……ごめん……ね? 私、何一つリュカに……」

「だから、謝るのとかもう無しだよ! 私、エリアスもアシュリーも大好きなんだよ?!」

「私も……リュカの事大好きだよ……愛してる」

「あいしてる?」

「大好きよりもっと大好きって事だよ」
 
「うん、分かった! アシュリー、愛してるよ! じゃあまたね! えっと……お母さん!」

「リュカ……っ!」


 リュカはニッコリ微笑んで、抱きしめていた私の腕の中から消えていった。

 辺りをまたキョロキョロ見て、どこに行ったのか確かめるように探す。けれどリュカは見つからなかった。

 私の中からリュカの気配が消えたのだ。

 やっとリュカと話ができて、やっとこの腕で抱きしめる事が出来たのに……っ!

 エリアスにリュカを返したかった。返してあげたかった。だけどそれも出来なくなった。

 リュカは、また私達の子供として生まれてきてくれるって言っていた。だけど、その約束に縛られないで……人の思いなんてその時々で変わってしまう。だからどうか、リュカがその時にしたいと思う方に行ってくれたらそれで良いから……

 あぁ、そんな事を言う間もなく、リュカは私から離れてしまった。

 気づくとディルクが傍にいて、私を慰めるように抱きよせてくれた。

 私は皆にこうやって想って貰えていたんだね。
 
 こうやって愛して貰えていたんだね。

 そんな事に、今やっと気づいたんだ。

 リュカを無くして初めてそうやって気づくなんて……

 ありがとう リュカ

 さようなら リュカ

 私の愛しい子


 
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