悪役令嬢は、もう推しません

カシナシ

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本編

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 王族の新婚旅行は少し特殊で、結婚後以内を目処めどに、予定を立てる。



 執務の引き継ぎや顔見せなどを一通りこなしてから、という理由だ。


 そして旅行先の領地にも早めに通達しておくことで、盛大な宴の準備をさせる。新婚旅行地として自分の領地が選ばれたというのは、ほまれであるため、領主自ら乗り出す一大行事。

 たっぷりと金と時間をかけて、屋敷を建てたり、新婚にちなんだ縁起物を生み出したりして、王子たちが帰った後も観光地化出来るように動く。

 しかし、王子らは結婚してまだ一ヶ月。そして、3ヶ月後に新婚旅行に来ると言う。


「間に合う訳無いじゃない……!」

「いえ、今から即座に動けば、なんとか。ロゼにも……よろしければ、手伝いをお願いしたく」

「なんですって?」


 ダリアローズは眉をピクリと上げた。トリスタンは失言したかと、気まずそうな顔をした。


「すみません……貴女の采配さいはいがあれば、」

「手伝い、じゃなくってよ。これは、わたしに任せなさい」

「は……はい?」

「わくわくするわね。これはわたしへの挑戦状よ。受けて立つわ。トリスタン様、悪いことは言いませんので、わたしに全てを委ねるのです」


 ダリアローズの琥珀色の瞳は、爛々と輝いていた。






 ダリアローズはパールブレス侯爵領全土へ、闇魔法で作った使い魔を飛ばし、状況を把握した上で、新婚旅行に相応しい海沿いの街をピックアップする。その街は奇しくもダリアローズの秘密のコテージのある街だったが、コテージは街外れにあるためバレはしないだろう。

 別荘は幾つかあったが、どれも老朽化が目立つ。新しい屋敷を建てさせることにした。


「代官様、三ヶ月は無理ですって」

「どこの工程に時間がかかるのです?わたしが助力すれば、二ヶ月でいけるでしょう」


 街を出歩くのにドレスなど着ていられないため、今のダリアローズはシャツとパンツを着用していた。スラリとした脚の長さのよく分かるパンツに、やや大きめのシャツ。それは胸元が苦しくなってしまうための処置であった。


 次期当主の妻ではなく、遠縁のツテで雇われた、文官出身の、ワケアリの男装女として自己紹介をしたのは、いちいち恐縮されるのが面倒だからである。

 長い髪は一つに括り、背を凛と伸ばしたダリアローズは、時間のかかる工程を魔法で解決していく。


 闇魔法で出した大きな手で支柱をドーン、ドーンと建てたり、影収納を利用して一気に運搬したり。

 漁師と共に航海へ出て、身体の何倍も大きな魚を捕獲し、影収納に納めたり。

 黒いヒヨコの形をした使い魔を街へ徘徊させ、何かあれば傭兵に知らせたり。


 新婚旅行の日程に合わせて、三日間の祭りを催す予定だ。食事所、甘味処を食べ歩き、時に日本の食べ物のアイデアを吹き込み、形にしていく。単に食べたいだけだったりする。

 もうユリアナに転生者だとバレたところで意味はないので、自由にやらせてもらう。


 潮風に強い塗料を取り寄せ、家々をカラフルに染め直させた。そう、遠くから見ると絶景に見えるあの街のパクリである。一望できる展望台も建てたので、今後も観光地として栄えさせる作戦だ。


 男装の『代官様』に向けられる市民の視線は、英雄に向けられるもののように、熱を高めていった。


 もちろん、ダリアローズの闇魔法でちょいとズルをして支持を得てしまったことは、トリスタンには内緒にしている。


(なんとなく……知られたくないわ。ドン引きされるかもしれないもの)


 トリスタンを思い浮かべると、胸の辺りがもぞもぞする。金色のひよこカナリアが騒いでいるのかもしれない。

 幸い、トリスタンは屋敷で仕事を、ダリアローズは影移動を使って遠く離れた海街に通っているため、強力な魔法が使えることは知られていないはずだ。ただ、影移動を使えることだけは、移動時間の削減のためにも、伝えざるを得なかった。


「今日もお疲れ様でした、ロゼ。潮風の匂いの貴女も新鮮ですね」

「あ、ありがとう……?きゃ、」


 屋敷のロビーにふわりと着地した瞬間、トリスタンに捕まった。一つ結びをした緋色の髪を撫でたかと思えば、鼻先を付けて深く息を吸っている。入浴がまだだと言うのに!


「なっ、なっ、トリスタン様!女性にいきなり触れるなんて……!」

「髪はセーフ、でしたよね?ロゼ。貴女はいつも良い香りです。日中は会えなくて寂しかったので、少しくらい堪能させて下さい」

「たんの……っ!?」


 動揺するダリアローズを面白がるように眺めて、トリスタンはそっと手を取る。


「夜も遅いですから、軽食でも一緒にいかがでしょうか」

「……そ、そうするわ。報告もしたいし」


 ダリアローズはコホン、と咳払いしつつ、素直にエスコートされる。

 真っ赤な頬を隠すように顔を背けたダリアローズを、トリスタンは愛しいものを見る目で見つめていた。









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