達観した紫の上と、年上旦那様

旦那様の怒り？

　……で、どうしてこうなったのでしょう。
　小さなテーブルを挟んで、旦那様が座っております。旦那様はお仕事、私は宿題です。

　宿題を取りに来たら、不機嫌そうな顔でこちらを睨んでくるわけですよ。なので、私はさっさと部屋を出ようとしたら、思いっきり腕を掴まれました。痛かったです。

　パチパチと旦那様が文字を打つ音と、私の唸り声だけが部屋にこだまします。……数学めっちゃ難しいです。訳わからん。

「ここは、こっちの数式を当てはめたほうがいいですよ」
　なるほど。……って旦那様！？　お仕事は？
「ここ間違えています。この数式には……こうなってですねｘを代入して」
「……あ、あのっ」
「私の仕事ならめどがつきましたので。送信も終了しています。私の心配よりもご自分の宿題の進み具合を心配したらどうですか？」
　おっしゃる通りです。
　ぱたんとPCを閉じた旦那様が私の後ろに回ってきました。
　私を包み込む感じで手が添えられます。ちょっ……ハードル高すぎですよ！

　それにしても旦那様は教え上手ですね。あっという間に終わりました。ってかいまだに高校時代の勉強を覚えているもんなんですねぇ。克人さんだと「俺忘れちゃった」って言われて大変だと千夏が言ってましたし。

「麻帆佳さん、基礎はしっかり出来ているんですから、きちんと考えれば分かるはずですよ」
「……ハイ」
　くすっと笑う声がします。

　そんな話をしながらも、宿題はいつもよりも早く終わりました。さて、お義母様とお義姉様と一緒に寝るために部屋を移動……え！？　旦那様？
「今から、どこに、行くんですか」
　私をがっちりとホールドした旦那様が、声のトーンを落として聞いてきました。
「えっと……お休みなさい」
　ぎゃぁ！　痛いです！　腕から力抜いてください！
「私たちは夫婦、のはずですよね」
「は……はい。戸籍上は」
「戸籍上は？」
　いやぁぁぁ！　何か失言しちゃったでしょうか。背中からブリザードが！！
「では、名実ともに夫婦になりましょうか」
　……え゛！？　どういうことですか？

　パニックを起こした私をよそに、旦那様は私の顎に手を当てて上を向かせると、いきなりキスをしてきました。