王子様に重めに愛されてます

朔月ひろむ

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第一章 出逢い

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離宮に来てから、何とも不思議な生活が始まった。
基本的にリオネルはユクシーと一緒に食事を取る。
寮にいた時も味気ないからと、お茶は一緒のテーブルに座っていたが、離宮では飲食の時は共に食べる事になってしまっていた。
これは、彼が幼少の時から母親と時にはカールのような使用人と共、テーブルを一緒にしていたことかららしい。
寮とは違いフランクに接してくるリオネルに、ユクシーは慣れないでいた。
まるで昔からの友人のような感覚に陥っている。
今は食後の運動だと彼の近衛立場と手合わせ中で、ユクシーはそれを眺めていた。
リオネルはとても楽しそうだ。
こうして環境を整えられ、大事にされ、甘やかされてきたリオネルには、あの学園ではさぞかし生き辛かったのではないだろうか。
彼の友となる候補も何人かいたようだか、リオネルを扱いかねて離れていったのが想像がつく。
王太子がリオネルを心配するわけだ。

「本は読まないのか?」
打ち合いを汗をかいたリオネルが、タオル片手にこちらにやってくる。
ユクシーの手には、離宮の図書館で借りた貴重な蔵書がある。
リオネルに食後の鍛錬に誘われることに辟易したユクシーは、読書をすることにしていた。
しかし、ついついリオネルを見てしまい本のページは進まない。
「午後からの授業のことを考えておりました」
ユクシーがそう言えば、リオネルが嫌そうな顔をする。
リオネルは勉強はできるが、長時間座っているのが苦手らしい。
学園入学前は、勉強がきちんと進んでいることをいいことに、付いていた教師に早めに授業を切り上げさせていたとはカールからの情報だ。
それでもきちんと教師の課す課題はクリアしていたのだから、誰も苦言は呈せなかったのだろう。
「さて、気分もよろしくなったようですし、リオネル様の苦手なことをお勉強しましょう」
テーブルの上に置いたのは、貴族名鑑やマナー大典、王宮の役職など様々だ。

「そんな顔をしてもダメです」
汗がひいてはいるがまだ暑いのかシャツの胸元を開け、眉尻を下げるリオネルは可愛く見える。
媚びるような彼に絆されてはいけない。
王家主催の夏の夜会までにある程度王族としての知識を身に着けておいてもらわなければならない。
「リオネル様も騎士となられるなら、これらの知識からは避けて通れません。王族は貴族名鑑を隅から隅まで覚えた上で家同士の関係も把握する必要があります」
げぇ…と王子らしからぬ声がリオネルから発せられる。
「リオネル様が難しいというなら、常にフォローしてくれる人材を側にお置き下さい」
彼の側にいようとした者を鬱陶しいと振り払ったのはリオネルだ。
それを繰り返してしまい、学園で満足に他の生徒とも交流できていない可能性が高い。
「…………なんですか?」
横に立つユクシーに、座っているリオネルが上目遣いで何かを訴えているようだ。
「お前じゃ、ダメ…なのか?」
リオネルにしたら、昔から自分を世話する人間以外に信頼できて自分をフォローしてくれる人間なんてユクシーくらいだ。
学園で寄ってきた生徒は、リオネルの雰囲気に飲まれてまともな会話も成立しなかったのだ。 
後は王族や公爵家の人間で、彼らは幼少より感情を出さない訓練をしているのでリオネルは苦手だった。
もしかしたら、身分関係なくこうしてリオネルと対等に付き合ってくれたのはユクシーが最初だったかもしれない。

「リオネル殿下は騎士の道に進まれるのでしょう?」
「そうだ」
「剣をろくに振れない僕は騎士となり将来国軍を任される方の補佐は務まりません」
「な…んだよ、それ……」
衝撃に固まるリオネルに、ショックを受けるほどに自分は彼に受け入れられていたのかとユクシーも驚く。
「リオネル殿下が望まれるなら、学園の間はお世話させていただくことはできるでしょう」
リオネルの側には、きちんと補佐する役割の人間が必要になってくる。
それはきっとユクシーではない。
もちろんリオネルが望めば、ユクシーがリオネルの側仕えになれるだろう。
しかし、それにはユクシー側の負担が大きい。
学園を卒業してから、世捨て人のように研究に没頭してきたユクシーにとって、華やかな表舞台に立つ野心もない。
ユクシーにとっては覚悟のいる決断だ。
おいそれと受け入れるわけにはいかない。

「しょせん、お前は兄上に頼まれただけ…だものな」
「リオネル様…」
あからさまな傷ついた表情をするリオネル。
この人は人と付き合う度にこうして壁を感じて、その都度傷ついてきたのかもしれない。
リオネルに関わる人間とって、どうしても第三王子という肩書きは消えない。
それがリオネルにはもどかしい。 
「不快な思いをさせてしまったのならすいません。でも、僕は別に王太子殿下に言われたからここまでしてるんじゃないんですよ」
恐らく、家庭教師としてリオネルの成績だけ上げてもユクシーは文句は言えない。
学園での世話役に、友人のように離宮で時間を共にしているのは、ユクシー自ら進んでやっていることだ。
そう説明したら、リオネルは少し落ち着いたらしい。

一度仕切り直そうと、お茶を頼む。
「リオネル様、座っても?」
二人分のお茶を頼んだが、リオネルに拒否をされないかドキドキしてしまう。
「少しお話ししましょう」
そうユクシーが言えば、リオネルは頷き座ることを許してくれる。
ユクシーはホッとして息を吐いた。
「僕はあなたのことをいっぱい知ってますが、あなたは僕のことを知らない。それじゃ、フェアじゃないですよね」
もう、今日は授業どころではない。
まずは二人の間の嫌な空気を払拭しなければ。
「王太子殿下や兄上は言及してませんが、僕がリオネル様に適任だと考えたから僕はあなたの元に遣わされたのだと思います。僕なら、リオネル様のお心に添えるのではないかと…」
「なぜだ?」
「僕はリオネル様と同じような立場なんです」
リオネルが平民の母親を持つように、ユクシーは第二夫人の子供だ。
母親こそ男爵家の生まれだが、侯爵家で侍女をしている時に見初められた経緯がある。
前侯爵夫婦、つまりユクシーの祖父と祖母はユクシーの母親を許さなかったらしい。
父は第二夫人になった妻と息子を守るために別邸へと移らせた。
「僕は第二夫人の母と王都の別邸で育ちました。10歳の頃に母が亡くなり、その後本邸に引き取られました」
リオネルの母親はまだ健在だが、父と正妻達家族と離れて暮らしていたのは同じだ。
「本邸に引き取られても、第一夫人のクリスタ様は我が子同然に接していただきましたし、兄達も優しかったです。でも、やはりどこか負い目というか、ここが自分の居場所じゃない…と感じることがあって…」
ユクシーには侯爵家を相続する権利は与えられていない。
女性ではないので政略結婚にも使えない。
自分に価値を見出すため、ユクシーはひたすら勉強を続けた。
最後は意地になって、学園で主席を取り続けた。
きっとリオネルも同じだ。
彼が鍛錬に励むのは、そこに自分の居場所を見出しているからだろう。
「だから、本当は僕はリオネル様に偉そうに説教できる立場じゃないんです。貴族社会も社交界も苦手です。でも、うまく生きるためにはやっぱり知っておかなくちゃいけない」
それが武器となるから。
「剣以外の戦い方を知って下さい。僕が会得した戦い方を伝授します」
「良いのか、そんなこと教えて。ユクシーは困らないのか?」
「それでリオネル様のお役に立てるなら」 
ふふっと笑みを漏らしたユクシーにつられるように、リオネルも笑うのだった。
「さ、ということでお勉強を始めましょうか」
「なんでだよ!?」

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