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第一章 出逢い
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「何でこんな国内の物流や名産や流通まで網羅しておかなくちゃいけないんだよ…」
各領地の名産、主要都市と幹線道路が書いてある国の地図に、リオネルが頭を突っ伏した。
「相手のことを知っておけば、それだけ好感度もあがるってものだろう。全く面識の無い貴族相手でも、領地の街と名産品くらいを知っておけばその場は繋げる。基礎中の基礎だ」
王族も上位貴族も、社交界デビューする前には必ず覚えさせられている知識だ。
「軍を指揮することになるリオネル様は有事の際のことを考えて、これに加えて大まかな地形も頭に入れておくことになる」
騎士課程では地理や地形の座学が多い。
リオネルはこの授業を率先してサボっていたらしく、担当教師は可哀想に窶れていた。
「ここができなければ、騎士課程も卒業できません」
鬼教師となったユクシーが、コツコツと地図を叩く。「一つずつ単体で覚えていくから効率が悪いのです。その土地の地形や気候を知れば、特産品の傾向がわかります。細かくきちんと覚えていなくても、領地いちがだいたいわかれば絞り込めます」
リオネルの頭をどかせたユクシーは、新しい地図をテーブルに広げる。
「これが地形と特産品が書いてある物です」
そこからツラツラと各地方の説明がユクシーの口からなされる。
「うう……」
急に多くの知識に接したリオネルは、疲れて天を仰ぐ。
「三日後にテストをします」
「えーーー!?」
リオネルが子供のような抗議の声をあげる。
「そのテストに合格したら、次の日はお休みにします」
「ホントか!?」
「あなたに付き合って差し上げます」
「よっしゃ!」
もう合格した気でいるのか、リオネルが拳を作る。
「約束だからな、ユクシー」
「ええ。僕も楽しみにしてますので、暗記、頑張って下さいね」
それから三日間は簡単なおさらいで、後は課題にした地図を覚えることに重点を置いた。
本当なら夏季休暇中に覚えてしまえば問題はない。
しかし、半月後に控えた王家主催の夏の夜会。
リオネルは学生の身分であるから、社交はしなくても許されるかもしれない。
けれど、知識として頭に入れているだけで違ってくるだろう。
多くの令嬢からダンスを申し込まれるかもしれない。
その時の会話の手助けになればいい。
ユクシーは夜会には出席しない。
だから、夜会までには必要な知識を教えこむ。
ユクシーは王家の夜会には出席したことはない。
だからリオネルがどんな評価を社交界でされているかはわからない。
学園に通わせている子供がいれば、リオネルの様子は伝わっているだろう。
これを機にリオネルを少しでも良く思って欲しい。
「テストで8割できたら、何をしたいんです?」
日課になった勉強合間のお茶の時間。
各地域の特色をまとめた一覧を横に置き、疲れ見せているリオネルに尋ねる。
「ここに来てろくに遠出ができてないからな。馬に乗って森まで行こう。馬に…乗れるよな?」
「嗜む程度に馬には乗れますから」
リオネルはどれだけユクシーがそっち方面ができないと思っているのか。
剣や槍を扱いながら馬を片手で乗りこなす騎士のスキルには及ばないが、狩りのために馬を駆けることくらいはユクシーにもできる。
「そんな拗ねるなって。乗れないなら、俺が乗せてやるつもりだっただけだから」
「なっ…どこの令嬢ですか!」
確かにユクシーは線が細いし、筋肉も付いていない。だからといって、馬の相乗りはさすがに遠慮したい。
「馬鹿なことを言ってないで、ちゃんと勉強して点数取って下さい」
「合格したら、俺の言うこと叶えてくれるんだよな?」
「は?そんなこと言ってないですよ。テストに合格したら、遠乗りするって話だったじゃないですか」
ユクシーの知らない内に、ご褒美が勝手に増えている。
「良いだろ?俺、すっごい頑張ってると思うんだ」
だから、上目遣いでお願いしてくるのはやめて欲しい。
それにユクシーが弱いと知っていて、リオネルはわざとやっているに違いない。
眉目秀麗、隙がない文字通り王子様のリオネルに、甘えられて勝てる人間はいないだろう。
鍛えられた筋肉を持ち、ユクシーよりも背も体も大きいのに、たまに見せる可愛さは反則だ。
リオネルを世話する使用人や王太子が、なんだかんだと甘やかしてきたのがわかる。
ユクシーもそろそろそちら側に行きそうだ。
「……頑張って絶対にいい点とるから」
リオネルの低く呟かれた声には、決意の重さが含まれていた。
各領地の名産、主要都市と幹線道路が書いてある国の地図に、リオネルが頭を突っ伏した。
「相手のことを知っておけば、それだけ好感度もあがるってものだろう。全く面識の無い貴族相手でも、領地の街と名産品くらいを知っておけばその場は繋げる。基礎中の基礎だ」
王族も上位貴族も、社交界デビューする前には必ず覚えさせられている知識だ。
「軍を指揮することになるリオネル様は有事の際のことを考えて、これに加えて大まかな地形も頭に入れておくことになる」
騎士課程では地理や地形の座学が多い。
リオネルはこの授業を率先してサボっていたらしく、担当教師は可哀想に窶れていた。
「ここができなければ、騎士課程も卒業できません」
鬼教師となったユクシーが、コツコツと地図を叩く。「一つずつ単体で覚えていくから効率が悪いのです。その土地の地形や気候を知れば、特産品の傾向がわかります。細かくきちんと覚えていなくても、領地いちがだいたいわかれば絞り込めます」
リオネルの頭をどかせたユクシーは、新しい地図をテーブルに広げる。
「これが地形と特産品が書いてある物です」
そこからツラツラと各地方の説明がユクシーの口からなされる。
「うう……」
急に多くの知識に接したリオネルは、疲れて天を仰ぐ。
「三日後にテストをします」
「えーーー!?」
リオネルが子供のような抗議の声をあげる。
「そのテストに合格したら、次の日はお休みにします」
「ホントか!?」
「あなたに付き合って差し上げます」
「よっしゃ!」
もう合格した気でいるのか、リオネルが拳を作る。
「約束だからな、ユクシー」
「ええ。僕も楽しみにしてますので、暗記、頑張って下さいね」
それから三日間は簡単なおさらいで、後は課題にした地図を覚えることに重点を置いた。
本当なら夏季休暇中に覚えてしまえば問題はない。
しかし、半月後に控えた王家主催の夏の夜会。
リオネルは学生の身分であるから、社交はしなくても許されるかもしれない。
けれど、知識として頭に入れているだけで違ってくるだろう。
多くの令嬢からダンスを申し込まれるかもしれない。
その時の会話の手助けになればいい。
ユクシーは夜会には出席しない。
だから、夜会までには必要な知識を教えこむ。
ユクシーは王家の夜会には出席したことはない。
だからリオネルがどんな評価を社交界でされているかはわからない。
学園に通わせている子供がいれば、リオネルの様子は伝わっているだろう。
これを機にリオネルを少しでも良く思って欲しい。
「テストで8割できたら、何をしたいんです?」
日課になった勉強合間のお茶の時間。
各地域の特色をまとめた一覧を横に置き、疲れ見せているリオネルに尋ねる。
「ここに来てろくに遠出ができてないからな。馬に乗って森まで行こう。馬に…乗れるよな?」
「嗜む程度に馬には乗れますから」
リオネルはどれだけユクシーがそっち方面ができないと思っているのか。
剣や槍を扱いながら馬を片手で乗りこなす騎士のスキルには及ばないが、狩りのために馬を駆けることくらいはユクシーにもできる。
「そんな拗ねるなって。乗れないなら、俺が乗せてやるつもりだっただけだから」
「なっ…どこの令嬢ですか!」
確かにユクシーは線が細いし、筋肉も付いていない。だからといって、馬の相乗りはさすがに遠慮したい。
「馬鹿なことを言ってないで、ちゃんと勉強して点数取って下さい」
「合格したら、俺の言うこと叶えてくれるんだよな?」
「は?そんなこと言ってないですよ。テストに合格したら、遠乗りするって話だったじゃないですか」
ユクシーの知らない内に、ご褒美が勝手に増えている。
「良いだろ?俺、すっごい頑張ってると思うんだ」
だから、上目遣いでお願いしてくるのはやめて欲しい。
それにユクシーが弱いと知っていて、リオネルはわざとやっているに違いない。
眉目秀麗、隙がない文字通り王子様のリオネルに、甘えられて勝てる人間はいないだろう。
鍛えられた筋肉を持ち、ユクシーよりも背も体も大きいのに、たまに見せる可愛さは反則だ。
リオネルを世話する使用人や王太子が、なんだかんだと甘やかしてきたのがわかる。
ユクシーもそろそろそちら側に行きそうだ。
「……頑張って絶対にいい点とるから」
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