王子様に重めに愛されてます

朔月ひろむ

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第一章 出逢い

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「…よし……よし……あぁ……次!」
ユクシーが手を動かす横で、一喜一憂しているリオネル。
正解が積み重なって、どうやら合格点には達しそうだ。
そんな期待に満ちた瞳で見ないで欲しい。
息抜きも必要だし、やる気になるかと提案したテスト。
最初は一緒に出かけるだけの話だったはずなのに、ユクシーがリオネルの要望に一つ応えることになってしまっている。
どうしてこうなった。
日々を共に過ごすにつれて、リオネルとの距離は生徒と教師、主従、友人、そんな関係より近くなっている気がする。
それをユクシーは嫌じゃないと思っていることが一番の問題だ。
リオネルはこの国の第三王子で、ユクシーの身分なら生涯一度も話すことはおろか視界に入ることさえ無かっただろう方だ。
その方とこんな気安くなってしまうなんて。
「よっし、合格だな!!」
「………だな」
「なんだよ、もっと嬉しそうにしろって」
テンション高く、リオネルが歓喜のあまりユクシーの背中をバシバシ叩く。
「ちょっと痛いって…」
背中を擦るユクシーの手をリオネルが取る。
「さあ、今日は出かけるんだろ?行くぞ!!」
「え?は?今からですか!?」
「そう。昼御飯は頼んであるから、外で食べよう!」
「ちょっと、聞いてませんよっ!?」
「ほら、準備するぞ」
リオネルはユクシーの手を引張って、私室へと向かう。
そしてお互いの部屋の扉の前で別れた。
ユクシーは渋々乗馬服に着替える。
「あ、片付けしてきてないや」
テストは3問しか間違えがなかった。
ほぼ完璧な出来栄えは、ついこの間まで成績を心配されていた人間とは思えない。
やはり環境と教える人物が大事ということなのだろう。

「おい、準備できたか?」
扉越しでもはしゃいでいる声。
「もう少しで準備できますので、先に下におりていて下さい」
リオネルの警戒な足音が去っていく。
ユクシーもここに来て庭を散歩するくらいしかしていなかったから、久しぶりの外出といっていい。
離宮の敷地内なら危険もないので護衛を連れて歩く必要もない。
剣の腕がないユクシーにとって、リオネルの身が危険に晒されない状態だからこそ外出に乗り気になれる。
いつぶりかわからない乗馬服に着替え玄関まで下りると、待ち切れないリオネルに出迎えられてしまった。
嬉しそうに笑うリオネルは、やっぱりまだ17歳のコドモだった。
「ファンダー様はこちらの白い馬にお乗り下さい。とても優しい馬ですので、乗馬に慣れてらっしゃらない方でも安心して乗れます」
「それはありがたい」
馬丁の説明に、ユクシーはちょっと不安が和らぐ。
本当に馬に乗るのは数年ぶりなのだ。
「いってらっしゃいませ」
カール達に見送られ、ユクシーの乗る白馬はリオネルが乗る栗毛の馬に先導されて離宮の敷地内にある森へと向かった。

「その馬はこの地に慣れているヤツだから、ユクシーが乗ってれば勝手に目的地まで連れてってくれるよ」
おっかなびっくりといったユクシーを見て、リオネルは笑いを噛み殺している。
「この草原の中じゃ、ユクシーより馬の方が偉いなきっと」
「………うるさいなぁ。僕はほとんど領地には行かなかったからしょうがないだろ」
いつもは教師役としてしっかりとしているユクシーの怯えたような姿は新鮮だ。
今日はリオネルの方が先生らしい。
「ほら、ユクシー。手元ばっかり見なくても大丈夫だから、景色を楽しんで」
リオネルが向こうの方を指す。
「わぁ……すごっ……」
暑い夏の陽射しの中、瑞々しい草原と緑の濃い森、そして青空が広がっていた。
王都の端にあるので、街は視界に入ることはない。
今、ここには二人しかいなかった。

「あっちに湖があるだろ。小さいんだけど、水遊びができる」
森の手前には湖があり、いくつか建物が立っているようだ。
「今日の目的地はあそこだ。行くぞ、ユクシー」
「あっ、ちょっと、待ってくださいっ」
リオネルが馬の腹を蹴り駆け出す。
ユクシーが反応できなくてあたふたしていると、馬がユクシーの指示を待たずにさっさと駆け出してしまった。
ユクシーは振り落とされないように、しっかりと手綱を握る。
そしてあっという間にリオネルの言う目的地にとたどり着いた。
「はあ……疲れた」
リオネルに白馬の手綱を渡し、ユクシーはへたり込む。
「ちょっと軟弱すぎじゃないか、ユクシー。明日からは少しは鍛えるか」
「ええっ!?無理です!!」
明日は筋肉痛になりそうな予感しかないユクシーだが、リオネルはユクシーでもできそうなトレーニングを考えてそうだ。
「ほら、立って。移動するぞ」
差し出されたリオネルの手を取り、ユクシーは立ち上がる。
ここはどうやら湖の畔で寛ぐために整備された施設らしい。
簡単な小屋と馬留め、それに大きなガゼボがある。
リオネルはユクシーの手を握ったまま、ガゼボへと連れていく。
そこには、ティーセットや昼食などが準備されていた。
自分たちが来る前に使用人が準備したくれていたのだろう。
「今日合格できなかったら、これどうするツモだったんですか?」
「そんなことにはならないように頑張ってたからな」
リオネルは自信満々な笑顔だ。
「本当に頑張りました…」
「ほら、座って」
「僕がお茶を入れますよ」
「いいからユクシーは座ってて」
リオネルは王子なんだから、紅茶など淹れれなくても仕方ないのだが、彼は慣れた手付きで野外用の器具を使ってお茶を淹れてくれた。
籠から出したお菓子をお皿にのせてくれる。
「慣れてるんですね」
「小さい頃から、外でよく母とお茶をしていた。母は自分でお茶を淹れたがったから、教えてもらったんだ」
「……美味しいです」
リオネルがホッとしたように笑う。
リオネルの母の味をユクシーに振る舞ってくれている。
平民だったリオネルの母親の、せめてもの自由が外でのティータイムだったのだろうか。
ユクシーの母親もよく庭に出ては、花壇を手入れしていた。
「素敵なお母様ですね…」
リオネルが親しみやすいのはきっと母親の影響だろう。
もっとこんなリオネルを周りが知れば、彼の理解者も増えるのに。
でも、そうなればユクシーなんて側にいられない。

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