王子様に重めに愛されてます

朔月ひろむ

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第一章 出逢い

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「ユクシー、何を考えてる?」
リオネルの手がユクシーの手に重なる。
「ほら、せっかく遊びに来たんだから楽しむぞ!」
「うわっ…」
リオネルに引っ張られ、足を縺れさせながらもなんとかついていく。
「ちょっとっ…待って……」
乗馬用の靴から簡素な靴に取り替えた、そのままリオネルは水の中に突進していく。
「濡れてしまいますっ」
焦って岸の方へとユクシーはリオネルを引っ張ろうとするが、力で勝てるわけもない。
結局二人は、膝上くらいまで水につかってしまう。
「気持ちいいだろ!」
パシャリと、リオネルが水をユクシーにかける。
「冷たっ」
夏でも冷たい湖の水。
「もう、やめてくださいっ。濡れたじゃないですか!」
多めの水をかけられて、ユクシーは頭からしっとり濡れてしまう。
「すぐに乾くって」
そう言ってさらに水をかけてくるリオネルに、ユクシーもバシャバシャとやり返す。 

「楽しいか?」
「リオネルさ…ま…」
先程まで子供のようにはしゃいでいたはずなのに、リオネルのそれはオトコの顔をしていて。
ユクシーを見つめる瞳は夏の陽射しよりも熱い。
「………っ!」
思わず逃げようとしたユクシーより早く、リオネルがユクシーの腕を掴む。
「俺、こんなに誰かと過して楽しいのは初めてだ」
パシャリと水が跳ねる。
リオネルがユクシーの体を引き寄せ、腕の中へと閉じ込めた。
「ユクシーは小さいな」
「なっ!?」
「普段はあんなに威張ってるのに…」
「威張ってません!」
グイグイと胸を押しても、逞しいリオネルはビクともしない。
「ほんと細すぎ。折れてしまいそうだ」
サワサワとユクシーの腰をリオネルが撫でる。
湿ったシャツ越しのリオネルの手の感触に、ユクシーは背筋を震わす。
「……も…いい加減に離してくださいっ」
ユクシーの抵抗をものともせずに平然としているリオネルがクスクスと笑う。
「うわぁ…っ!?」
急にリオネルが腕を緩めたせいで、ユクシーはリオネルから解放されその勢いで水面に尻もちをついてしまう。
「ちょっと、何してくれるんですかっ」
全身ずぶ濡れになってしまったユクシーはリオネルを睨む。
「水遊びしに来たんだからいいだろ」
「でも、殿下は濡れてないじゃないですか!」
ユクシーの抗議も、リオネルはハハッと笑うのみだ。
「ほら、ユクシー」
いつまでも水に座りこんだままのユクシーを、リオネルが腕を取って立ち上がらせる。
「ビショビショだな」
「誰のせいですか」
プリプリと怒るユクシーは、ザブザブと大きな音をたてて水から上がる。
リオネルはまだ笑いながら、ユクシーの後をついていくのだった。

「ほら、脱いで。干せば帰る頃には乾く」
ちょっと恥ずかしいけど、リオネルの言われた通りに濡れた服を脱ぎ、ガゼボの柵にかけてユクシーは大きなバスタオルを体に巻きつける。
不貞腐れた表情をしたユクシーは、動くことはできないのでリオネルがガゼボで準備を進めていく。
リオネルは半裸なままで昼御飯を並べる。
鍛えられた筋肉を惜しげもなく晒すリオネルを、ユクシーは恥ずかしくて直視できない。
先程抱き締められた感触を思い出しそうで、ユクシーは皿の上に置かれたサンドイッチを注視した。
「さ、食べよう」
「すみません、準備してもらって」
「寮ではいつもユクシーにしてもらってたんだ。今くらいやらせてくれ」
リオネルは傅かれる側なのに、自然と給餌をしてくれる。
自分よりもよほど手慣れた様子に、ユクシーは見入ってしまう。
「そんなに見つめられると、照れるんだけど…」
居心地悪いそうに、リオネルが顔をポリポリとかく。
差し出されたたのは果実水。
ひんやりとしたそれは、喉越し爽やかだ。
いたれりつくせり。
「………リオネル様、食べにくいです」
何かをしている時でも、リオネルの視線がユクシーに固定されている。
サンドイッチは美味しいが、ものすごく食べ辛い。
「だって、ユクシーかわいい」
リオネルの指が頬に付いたソースを拭う。
「ちょっと……ほんと…もう……」
ソースの付いた指は、ユクシーが布巾を差し出すより早くリオネルは自分で舐め取ってしまう。
艶めかしい仕草に、ユクシーはついにリオネルを直視できなくなって手元のサンドイッチに集中することにした。


なんとか昼ごはんを食べ終えた。
昼食の間に服も乾き、ようやくユクシーは落ち着くことができる。
ガゼボもある程度は片付けたので、後は使用人が回収に来てくれるだろう。
「今日は何かいっぱいお世話させてしまった気がします」
「俺がやりたかったから、気にするな。いつもユクシーが俺のために色々してくれるから、俺も何かしたかったんだ」
ガゼボから眺める湖が太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
「連れて来て下さってありがとうございます。こんなところ、もう来れないかもしれないですから」
王家の離宮なんて、ユクシーはまう二度と足を踏み入れることはないだろう。
そんな場所で、リオネルと遊んで、王子である彼に給餌までしてもらって。
「………なんか夢のようです」
こんな時間がずっと続けばいいのに。
ユクシーはそう思わずにはいられない。
「夢にしてくれるなよ」
真剣な声音のリオネルに、ユクシーはハッとして隣を見上げる。
「俺はこれからもユクシーに側にいて欲しいんだ」
「リオネル様……」
「側にいてくれ、ユクシー…」
隣にあったはずのリオネルがユクシーの視界いっぱいに広がる。
ユクシーはまた、リオネルに抱き締められていた。
「ユクシー、君だけだ。今まで色んなヤツが俺の側に来たけど、俺が側にいて欲しいと思ったのはユクシーだけだ」
少し緊張でかすれたリオネルの声が直接ユクシーの耳に届く。
「ユクシー…好きだ。君のことが欲しい…」
「リオネル様…」
ユクシーは抵抗しなきゃいけないのに、身じろぐことさえできないでいる。
「なぁ、リオネルって呼んでくれ」
自分を抱きしめるリオネルの逞しい腕を、ユクシーは嬉しく感じてしまっている。
リオネルの甘い囁きに、体が麻痺しているようだ。
「俺はユクシーが呼び捨てにしてくれる距離がいいん
だ」
「ぁ………」
「ユクシー、呼んで」
腕が緩み、リオネルがコツンとユクシーの額に自分のそれをつける。
「リオ…ネル……」
ユクシーが呼べば、幸せそうにキラキラと光っているんじゃないかと思うような顔をリオネルがする。
「………好きです」
思わずユクシーの口からこぼれていた。

「ユクシー、それはほんとか!?」
腕から解放さらたかた思うと、今度はがっしりと肩を掴まれる。
「え…ぁ…僕、いま…」
何も考えてもなかった。
自分で言った言葉が信じられない。
「俺と同じ気持ちだって思っていいのか?」
真っ直ぐリオネルがユクシーを見つめる。
逃げることは許さないとばかりに、肩を掴む手に力がこもる。
「ユクシー?」
はくはくと声がでないまま、口だけが動く。
ユクシーの頭は真っ白で、思考も停止してしまっている。
そんなユクシーを、リオネルはもう一度抱き締めた。
「同じ気持ちだって、そう思っていいのか?」
「うっ……」
ユクシーはリオネルの腕の中で、ただ頷くことしかできなかった。
ユクシーは耳まで真っ赤に染まっていた。
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