王子様に重めに愛されてます

朔月ひろむ

文字の大きさ
9 / 16
第一章 出逢い

しおりを挟む
どんなに好きでも想っていてもどうしようもないこともある。
この貴族社会では、好きな人と共にいるという自由が一番手にすることが難しい。
男の恋人というものは日陰の存在だ。
正妻がいる貴族男性は、子供のできる危険性のない遊び相手として男性を選ぶことがある。
女性なら、体の関係があると妻として娶る必要ご出てくるからだ。
「ユクシー…」
あの日、離宮に戻ってからのリオネルの態度があからさまに変わってしまった。
「もう、ちょっと離れて下さいっ」
隙あらばユクシーにくっつこうとするのだ。
「さっさとこの一覧をすべて暗記して下さい」
勉強の時間なのに、課題が一つ終わればユクシーに腕をのばしてくる。
そもそもサボり癖のあるリオネルなのだ。
ここは厳しくして絆されるわけにはいかない。
ユクシーはリオネルの手をパシリと払い落とし、暗記用のリストを机に置いた。
「これを覚えたら、今度の夜会もある程度対応できるでしょう」
これは今度の夜会に出席する外国の要人リストだ。
それぞれの国の特徴や名産などの情報がまとめられている。
王子なら必須なのだがまともに社交界に出ることが無かったリオネルは、この辺の知識が抜けてしまっている。
だから学園の成績も悪かったのだ。
貴族や王族なら当然のように知識として知っていて、テストも余裕のはずなのに点数が取れていない。
それは教師も頭を抱えるしかないだろう。
「頑張ってるんだから、ご褒美もらえるよな?」
期待を込めて見上げて来るリオネルに、ユクシーは呆れた目線を送る。
「調子に乗らないで下さい。これはあなたが今までサボってきた分なんですか、出来て当然です」
厳しく指摘すれば、リオネルは唇を尖らせて拗ねる。
「やればできるんですから、頑張って下さい」
「ん、もう一声……」
そして、リオネルが強請る。
ユクシーは恥ずかしさに耐えて、口を開く。
「頑張って、リオネル。あなたならできる」
どんなプレイなんだ、これは。
リオネルを頑張らせるために強要されている言葉。
これでリオネルが頑張ってくれるのなら安いのだが、最後の方はだんだんと声が小さくなってしまう。

コンコン。
「お勉強中のところ申し訳ございません」
カールが扉越しに声をかけてくる。
リオネルが返事をして、カールが部屋に入ってきた。
勉強中に来るなんて珍しい。
「どうした?」
「王城より使者が参りました。リオネル様とユクシー様にご同席いただきたいそうです」
「僕もですか?」
「はい。ユクシー様に書状があるようです」
リオネルとユクシーは顔を見合わせる。
ユクシーには直接王城の使者から名指しされるようなことは思い当たらない。
「お待たせできませんから、とにかく参りましょう」
「そうだな」
カールの案内で、王城の使者が待つ部屋へと向かう。
リオネルに続いて部屋に入れば、使者が立って待っている。
ユクシーはリオネルの近くの椅子に腰を落とした。
使者を見れば、王城でユクシーを案内した男性だった。
つまり、王太子とケイセルが派遣してきたのだろう。
「ファンダー様、まずはこちらを」
リオネルより先にユクシーに封書を渡され、驚いてユクシーは使者を見る。 
しかし、彼は表情一つ動かすことなくユクシーに白い封書を差し出した。
カールが横からペーパーナイフを渡してくれる。
「兄上の印だな」
封蝋の紋章は王太子を示すものだ。
なぜそれがユクシー宛なのか、不安と緊張で手が震えるがなんとか開封する。
「招待状ですね…」
それは夏の夜会の招待状であった。
「王太子殿下より伝言を預かっております」
リオネルが頷いて先を促す。
「夜会にはリオネル殿下とユクシー様と共に同じ馬車でおいでになるようにとのことです」
それを聞いて、ユクシーが顔を顰める。
リオネル、つまり王子と同じ王家の馬車で王城に行くということで、かなりユクシーは目立つだろう。
「夜会の後は、リオネル殿下はしばらく城に留まるようにとのことです」
「しばらくとは?」
「一週間ほどになります。その間ユクシー様はご実家にお戻り下さいということです」
使者が再び封書をユクシーに差し出す。
「ユクシー様には兄君ケイセル様よりお手紙を預かっております」
ユクシーが受け取ると、無言で見つめられる。
ここで開けて返事をしろということだろう。
封蝋はファンダー家のもので、筆跡もきちんとケイセルだ。
「どうした?」
手紙を読み進めるユクシーの顔色が冴えないものになっていく。
リオネルはユクシーを心配そうに見つめる。
「ご覧になってもかまいません」
ユクシーは兄の手紙をリオネルに手渡す。
「夜会の後には家に戻ると、兄にお伝え下さい」
「承知しました」
使者はすべての使命を果たしたらしく、静かに退室していった。
カールが気をきかせて、お茶の用意をして部屋を出ていく。
「リオネル様…」
リオネルがテーブルの上に手紙を置き、ユクシーの隣へと座り直す。
「ユクシー」
リオネルがユクシーの肩を抱き寄せる。
ユクシーは抵抗することなく、リオネルに体重を預けた。

兄からの手紙の内容は、ユクシーの今後を問うものだった。
これからもリオネルの側に仕えるのか、それとも実家に帰るのか。
研究を続けるにしても、これから先のことは相談になるという話であった。
そんなこと、この話を受ける時にケイセルはユクシーには言わなかった。
騙し討ちのようなケイセルのやり方に、ユクシーは臍を噛む。
ここでのリオネルとユクシーの状況は報告されているだろうし、ユクシーもリオネルの勉強に対することは報告書に上げて送っている。
自分の働きを認められたから、リオネルの側にいる選択肢も与えられたと、そう前向きに解釈するしかない。
だが、リオネルの側にいるだけでも前途多難だ、

「リオネル…」
リオネルの背中にユクシーの手が回る。
まだ夜会の後も夏季休暇は残っている。
リオネルとの関係は色事へと変化してしまった。
そのせいでユクシー自身、まだ戸惑いが大きい。
これが王子の一夏の遊びであっても、ユクシーは受け入れるつもりだ。
だけど、それさえもまだ判断できていない。
「ユクシー、来て」
「え?」
硬い表情のリオネルに引っ張られるまま、ユクシーは立ち上がり廊下へと出ていく。
「リオネル様…」
リオネルの怒気に似た表情を見てギョッとしたカールが、心配そうにユクシーを見る。
「晩は部屋で軽い夜食をユクシーととる。呼ぶまで部屋には近寄るな」
リオネルにユクシー腕をキツく握りしめられていて、痛みをこらえている。
そんな様子は見て取れるが、カールは短い返事を返して一礼して去っていった。
「リオネル…さ…ま…」
リオネルは早足で自室へと向かう。
荒々しくドアを開け、ユクシーをベッドへと放り投げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

かわいい王子の残像

芽吹鹿
BL
 王子の家庭教師を務めるアリア・マキュベリー男爵の思い出語り。天使のようにかわいい幼い王子が成長するにつれて立派な男になっていく。その育成に10年間を尽くして貢献した家庭教師が、最終的に主に押し倒されちゃう話。

処理中です...