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第12話 正体
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「ん……? ここは……」
エシラが目を開けて、一番に飛び込んできたのは既視感を感じる天井だった。
『エシラ起きたか! 心配したぞ~~‼ あ、テウォンは無事に捕まったから安心しろよな‼ あとみんな無事だ‼』
「アイおはよ。でもなんか……すごいおなかすいた……」
『当たり前だろ⁉ 一週間も眠ってたんだぞ‼』
「いっ、しゅうかん……?」
魔力の訓練や路地裏の出来事、次期領主との戦いの時点で既に六日ほど経過している。
それを踏まえて一週間眠っていたとなると、明日までに日喰子を討伐しなければならないということだ。
『うわーん! もうオイラたちは終わりだ‼ 一生実験されて人生を終えるんだーー‼』
「……だいじょうぶだよ、アイ」
『なにがだよぅ! ここから日喰子を見つけ出すなんて無理だろがい‼』
「いや……ヒグラシはもうみつけた」
置かれていた白湯をゴクゴクと飲み干し、服の袖で口を拭う。
ベッドを降り、一週間眠りっぱなしだった千鳥足で外へと向かった。
「――エシラ様。一体どこへ向かうおつもりですか」
「……あかがみのメイド」
エシラの行く手を阻むように、赤髪のメイドが彼女の前に立ちはだかる。
「一週間も眠りっぱなしだったんです。もう夜も来ます。部屋に戻ってお休みになりましょう」
「あなたは、まるでわたしがヒグラシをたおしてほしくないみたいだね」
「……そんなことございません。さあ、はやく」
「ねぇ、ヒグラシのしょうたいがバレてないとでもおもってるの?」
「っ……‼」
エシラの言葉でメイドの顔が歪む。
一歩踏み出すと一歩下がり、すっかりエシラの圧に圧倒されていた。
「だから――どいて」
「くっ……。うぅ……っ‼」
「だいじなんだね。でも、そのはんのうでかくしんになった。ヒグラシは――」
# # #
「――ヒグラシはあなたなんでしょ? ――りょうしゅ」
領主邸から場所を移し、領主邸の裏手の先にある危険地帯。
そこでエシラは、領主であるフィオレンツォ・エスターテにそう問いかけた。
「……なぜ、そう思ったのかな。エシラ」
「だいたいのきしは『りょうしゅにこんやくしゃがいる』ってなってる。けど、あなたはハッキリ『いない』っていった」
「それだけかな?」
「ううん。さいしょ、たたかったときにあなただけが、ちをながさなかった。
ほかにも、ツクヨミのまじょをあきらかにさけてたきがする。はながきいてバレるからでしょ?」
「あはは、まるで探偵だ。君はよく人のことを見て、忘れないんだね」
「うん……わすれられたくないから、わすれない」
危険地帯であるこの場所は崖で、目と鼻の先には海が広がっていて対岸の陸がかろうじて見える。
漣が耳を洗い、月が二人を照らしていた。
「でも、いちばんはわたしのまじゅつの【ゆがんだひとみ】でみたとき。あなただけ、うちがわに〝どすぐろいもの〟がみえた」
次期領主のテウォンを破る重要な一手となった彼女の魔術【ゆがんだひとみ】。
その能力の中には看破があったのだ。
「あー……なんだ。当てずっぽうじゃなくてちゃんとわかったんだね」
「…………」
「うん、そうだよ。正解さ。俺がその日喰子だ』
領主の肉体からメキメキという何かが軋む音が響き、内側から黒が吹き出してくる。
内側が裏返り、あの時であった日喰子の姿へと変化した。
『……騙し続けて悪かったね』
「あなたは、あのヒグラシみたいにおそわないの?」
『まあね。日喰子は好戦的な者はもちろんだが、人間と友好的なものもいる。
いい記憶を喰らおうが悪い記憶を喰らおうが、どっちに成るかはわからない。人間と同じなんだよ』
「……いいヒグラシになったから、あのメイドはあなたについていったのかな」
あの赤髪のメイドのことを口に出すと、肩が落ちたように見える。
『彼女は、領主の腹違いの妹でね、召使との間にできた子だったから身分を偽って傍に置いていたんだ。だからこそ、あの時テウォンにはいいように利用されそうになったよ。
でも、あの子を巻き込む予定はなかったよ。事情が事情だとしてもね』
その事情は何? と、エシラがその質問をしたのだが、日喰子は一瞬口を紡いだ。
首をかしげる彼女の頭に、日喰子は自分の手のひらを置く。
今までは頭を撫でられることを避けていたエシラだったが、今回だけは避けなかった。
『本来、日喰子に喰われた記憶は周囲の者にまで影響し、記憶を改ざんする。だが彼女はそれに耐性がある体質でね。
本来は領主の婚約者はまだいる、という記憶になるはずが、そうはならなかったんだ』
「……りょうしゅのこんやくしゃは、なんでいなくなっちゃったの?」
エシラが、口を開いてそう問うと、頭を撫でていた手を離す。
『そうだね……。それじゃあ、その答えを知るために記憶を戻すとしようかな。本物の領主もそろそろ返そう』
「ほんもののりょうしゅはどこにいるの?」
『ああ、ここだよ。おえ゛っ』
「うわっ、きもちわるい」
『ヒドイ……』
鎖骨から鼠径部まで伸びる大きな口から領主が吐き出される。
眠っている、というより気絶させられており、目蓋が開く様子はない。
『それじゃあエシラ、そろそろ介錯をお願いしてもいいかな』
「かいしゃく?」
『倒してほしいってことだよ。俺はいい日喰子寄りなんだろうけど、人の記憶を食べたのは間違いない。存在してはならないんだ。お願い、できるかな』
「……うん、いいよ。〝開〟・【まっくろなうで】」
エシラは魔術を発動させ、黒い腕を出現させた。
日喰子は自分の体をぐねぐねと動かし、中から紅蓮色の、彼岸花の柄をした宝玉を体内から取り出す。
『これを割れば、領主の記憶も元に戻る。それに、君にも記憶が流れ込む可能性があるから、妹がなぜここまで俺に協力したかもわかるだろう』
「わかった。じゃあ、いくよ」
『うん……。短い期間だったけど、楽しかったよ。最後に頭を撫でさせてくれてありがとう。君のことは……決して忘れないよ』
「わたしも、であいはさいあくだけど、たのしかった。ありがと。わたしもぜったい、わすれないから」
パリンッ。
エシラはその球体を左腕で握りつぶした。
刹那、自分のものではない誰かの記憶が、頭の中に流れ込み始めた。
エシラが目を開けて、一番に飛び込んできたのは既視感を感じる天井だった。
『エシラ起きたか! 心配したぞ~~‼ あ、テウォンは無事に捕まったから安心しろよな‼ あとみんな無事だ‼』
「アイおはよ。でもなんか……すごいおなかすいた……」
『当たり前だろ⁉ 一週間も眠ってたんだぞ‼』
「いっ、しゅうかん……?」
魔力の訓練や路地裏の出来事、次期領主との戦いの時点で既に六日ほど経過している。
それを踏まえて一週間眠っていたとなると、明日までに日喰子を討伐しなければならないということだ。
『うわーん! もうオイラたちは終わりだ‼ 一生実験されて人生を終えるんだーー‼』
「……だいじょうぶだよ、アイ」
『なにがだよぅ! ここから日喰子を見つけ出すなんて無理だろがい‼』
「いや……ヒグラシはもうみつけた」
置かれていた白湯をゴクゴクと飲み干し、服の袖で口を拭う。
ベッドを降り、一週間眠りっぱなしだった千鳥足で外へと向かった。
「――エシラ様。一体どこへ向かうおつもりですか」
「……あかがみのメイド」
エシラの行く手を阻むように、赤髪のメイドが彼女の前に立ちはだかる。
「一週間も眠りっぱなしだったんです。もう夜も来ます。部屋に戻ってお休みになりましょう」
「あなたは、まるでわたしがヒグラシをたおしてほしくないみたいだね」
「……そんなことございません。さあ、はやく」
「ねぇ、ヒグラシのしょうたいがバレてないとでもおもってるの?」
「っ……‼」
エシラの言葉でメイドの顔が歪む。
一歩踏み出すと一歩下がり、すっかりエシラの圧に圧倒されていた。
「だから――どいて」
「くっ……。うぅ……っ‼」
「だいじなんだね。でも、そのはんのうでかくしんになった。ヒグラシは――」
# # #
「――ヒグラシはあなたなんでしょ? ――りょうしゅ」
領主邸から場所を移し、領主邸の裏手の先にある危険地帯。
そこでエシラは、領主であるフィオレンツォ・エスターテにそう問いかけた。
「……なぜ、そう思ったのかな。エシラ」
「だいたいのきしは『りょうしゅにこんやくしゃがいる』ってなってる。けど、あなたはハッキリ『いない』っていった」
「それだけかな?」
「ううん。さいしょ、たたかったときにあなただけが、ちをながさなかった。
ほかにも、ツクヨミのまじょをあきらかにさけてたきがする。はながきいてバレるからでしょ?」
「あはは、まるで探偵だ。君はよく人のことを見て、忘れないんだね」
「うん……わすれられたくないから、わすれない」
危険地帯であるこの場所は崖で、目と鼻の先には海が広がっていて対岸の陸がかろうじて見える。
漣が耳を洗い、月が二人を照らしていた。
「でも、いちばんはわたしのまじゅつの【ゆがんだひとみ】でみたとき。あなただけ、うちがわに〝どすぐろいもの〟がみえた」
次期領主のテウォンを破る重要な一手となった彼女の魔術【ゆがんだひとみ】。
その能力の中には看破があったのだ。
「あー……なんだ。当てずっぽうじゃなくてちゃんとわかったんだね」
「…………」
「うん、そうだよ。正解さ。俺がその日喰子だ』
領主の肉体からメキメキという何かが軋む音が響き、内側から黒が吹き出してくる。
内側が裏返り、あの時であった日喰子の姿へと変化した。
『……騙し続けて悪かったね』
「あなたは、あのヒグラシみたいにおそわないの?」
『まあね。日喰子は好戦的な者はもちろんだが、人間と友好的なものもいる。
いい記憶を喰らおうが悪い記憶を喰らおうが、どっちに成るかはわからない。人間と同じなんだよ』
「……いいヒグラシになったから、あのメイドはあなたについていったのかな」
あの赤髪のメイドのことを口に出すと、肩が落ちたように見える。
『彼女は、領主の腹違いの妹でね、召使との間にできた子だったから身分を偽って傍に置いていたんだ。だからこそ、あの時テウォンにはいいように利用されそうになったよ。
でも、あの子を巻き込む予定はなかったよ。事情が事情だとしてもね』
その事情は何? と、エシラがその質問をしたのだが、日喰子は一瞬口を紡いだ。
首をかしげる彼女の頭に、日喰子は自分の手のひらを置く。
今までは頭を撫でられることを避けていたエシラだったが、今回だけは避けなかった。
『本来、日喰子に喰われた記憶は周囲の者にまで影響し、記憶を改ざんする。だが彼女はそれに耐性がある体質でね。
本来は領主の婚約者はまだいる、という記憶になるはずが、そうはならなかったんだ』
「……りょうしゅのこんやくしゃは、なんでいなくなっちゃったの?」
エシラが、口を開いてそう問うと、頭を撫でていた手を離す。
『そうだね……。それじゃあ、その答えを知るために記憶を戻すとしようかな。本物の領主もそろそろ返そう』
「ほんもののりょうしゅはどこにいるの?」
『ああ、ここだよ。おえ゛っ』
「うわっ、きもちわるい」
『ヒドイ……』
鎖骨から鼠径部まで伸びる大きな口から領主が吐き出される。
眠っている、というより気絶させられており、目蓋が開く様子はない。
『それじゃあエシラ、そろそろ介錯をお願いしてもいいかな』
「かいしゃく?」
『倒してほしいってことだよ。俺はいい日喰子寄りなんだろうけど、人の記憶を食べたのは間違いない。存在してはならないんだ。お願い、できるかな』
「……うん、いいよ。〝開〟・【まっくろなうで】」
エシラは魔術を発動させ、黒い腕を出現させた。
日喰子は自分の体をぐねぐねと動かし、中から紅蓮色の、彼岸花の柄をした宝玉を体内から取り出す。
『これを割れば、領主の記憶も元に戻る。それに、君にも記憶が流れ込む可能性があるから、妹がなぜここまで俺に協力したかもわかるだろう』
「わかった。じゃあ、いくよ」
『うん……。短い期間だったけど、楽しかったよ。最後に頭を撫でさせてくれてありがとう。君のことは……決して忘れないよ』
「わたしも、であいはさいあくだけど、たのしかった。ありがと。わたしもぜったい、わすれないから」
パリンッ。
エシラはその球体を左腕で握りつぶした。
刹那、自分のものではない誰かの記憶が、頭の中に流れ込み始めた。
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