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5章

考察ともう1つの問題

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みんなで書庫に着き、グレン達にリバーシを出してあげると早速プルトンが結界を張った。
ちゃんとウェヌスに教えてあげている姿に安心して私は読書。


前回も読んだ“世界グルメ日誌”続きから読み進めていく。
始めのうちはちゃんと本を読んでいたが、段々と気が逸れて考えるのは悪徳の金貸しの件。


首謀者とされる青年が殺されたために終わった。しかも顔をぐちゃぐちゃにされて。
なぜ仲間割れをした?
金貸しの重要人物ならば、殺したらもう金貸しが出来なくなる事は分かるはずだろう。
そもそもなぜ青年が首謀者だと分かった?
貴族が絡んでいるならどう絡んでいた?
なぜ貴族が金貸しに絡む必要があったのか…

奪われたお店がどうなったかを聞くのを忘れていた。
ブラン団長から渡された資料には確かにゲハイトさんが言っていた様に自殺・奴隷など書かれていたがほとんどは行方不明と書かれていた。
事件が頻発していたら騎士団も捜査しているはず。分からないくらい期間が空いたとは思えない。
それに問題になっていたならお店を持っている人も警戒しているのが普通だろう。
なぜサインをしたのか。

狙いはお店じゃなかった?
人身売買や奴隷がいる世界だ。
有り得なくはない。
そうするとなぜそのお店が狙われたのか…
資料に載っていた限りではお店の系統も立地もバラバラだった。

ネライおばあちゃんの孫娘さんはちょうどその頃亡くなった。
サルースさんの言い方だとおそらく病死や事故死では無さそうだ。
もしかしてみずから死を選んだ?
婚約が破談になったと言っていたけど、なぜ破談になった?
孫娘さんと金貸しの関係は?

もしその金貸しが今回関係しているとしたらなぜ今更ネライおばあちゃんを狙う?

目的はネライおばあちゃん達かお店なのか…お店なら手に入れるとどんな利点がある?
おばあちゃん達なら職人としての腕だろうか?

どんどん思考の海に沈んでいく。

〔((ゴシュジンサマ。ヒトガ キマシタ))〕
唐突にポラルからの念話が聞こえて意識が浮上した。

「((見つからない様に気を付けてね))」

〔((ハイ))〕

その後ポラルから誰かが話している内容を教えてもらった。

(ふーん。なるほど)
やはりおばあちゃんは巻き込まれたらしい。
そして前回の事件の時と今回のおばあちゃんの事件の黒幕は別。
前回の事件を真似して起こしたと。
残念ながら名前は言わなかったらしいけど、一応従っているものの慕っているとかでは無く命令されたから。との事だった。

「((なるほど。ポラルありがとう!そのまま見つからない様に気をつけてね))」

〔((ハイ))〕


ポラルのおかげで殺された青年は首謀者ではない事が確実となった。
ポラルが中継してくれた内容から推察するとおそらくリーダーとかでもない。
下っ端か関係のない人物が仕立て上げられたんだと思われる。
真似出来る程内容を知ってるって事は前回の黒幕に近い人物。


ふと今何時だろうと時間を見るといつもならとっくに寝てる時間だった。
どっぷりと思考の海に沈んでいたらしい。
リバーシをやっているみんなを見てみるとまだまだ盛り上がっている。

(ん。トイレ行きたい…)
同じ階にトイレがあったはずなのでトイレに向かう。

廊下は魔道具でボワァーっと所々にライトが付いていた。
(ちょっと不気味だわ)
急ぎめでトイレを済ませて書庫に戻るために歩く。

(あれ?ここどこだ?)

マップを確認すると書庫とは反対側に歩いて来ちゃったらしい。

(あー。失敗した。…ん!?)
ふと人の気配と話し声が聞こえて咄嗟に隠れてしまった。

(怒鳴ってない?)

怒鳴っているのは分かるが内容までは聞き取れない。怒鳴り声の方向に気配を殺しながらコソコソと移動して、話している内容と顔が分かる位置まで来た。
確認すると、横柄おうへいそうなおじさんとトリスタン君だった。

「側付きにしてやったのになぜ仕事をしない!?」

「…それは…」

「このグズが!パーティーが終わり旅立ったら利用出来なくなるのだぞ!?」
―バシッ

「…うっ…ですが…」

「口答えするな!育ててやったワシに恩返しをしようとは思わんのか!本当にゴミだな!」
―バシッ

「…くっ」

「せっかく宿を荒らし、城に来る様にしたというのにワシの苦労を水の泡にする気か!?何のためにお前を付き人にしたと思っている!?」
―バシッバシッ

「…も、申し訳…ございません…」

(あんのクソジジイィィィ!ムチなんかで叩きやがってぇぇぇぇ!あんたが宿荒らしの犯人かぁぁ!)

「母親共々使えないとは!我が家系の汚点だ!今日中に隷属の首輪を付けろ!あんな子供に好き勝手にさせるな!分かったな!?」

クソジジイに天誅を喰らわせてやろうと近付いていたが発言にビックリして足が止まってしまった。
(ん!?隷属の首輪!?トリスタン君が側付きになった子供って私だよね?私に隷属の首輪付けるつもりなの?)


「…い、や…です…」

―バシッバシッバシッバシッバシッ

「口答えは許さん!お前は“はい。分かりました”とワシの言う事を聞いていればいいんだ!今夜だ!今夜中に付けろ!分かったな!?」

―バシッバシッバシッバシッ

「…くっ…わかり、ました…」

―バシンッ!

クソジジイは最後に思いっきりムチで叩くと去って行った。

トリスタン君は倒れていて服がやぶれて血が滲んでいる。
「セナ様……セナ様…僕は…」
助け起こそうと近付くがトリスタン君に震える声で名前を呟かれて足が再び止まってしまった。

トリスタン君がギュッとこぶしを握り、ヨロヨロと立ち上がって去って行くのを呆然と見送ってしまう。

ハッと気付いて後を追うがもうトリスタン君は見当たらなかった。

(何やってんの!なんで助けなかった!!)

『((主様!?どこにいるの!?))』
自分の有り得なさにイライラしているとクラオルから念話が届いた。

「((ごめん。トイレ行ったら反対方向に来ちゃったみたい。訳は後で話すから急いで部屋に戻るよ))」

トリスタン君は今夜と言われていた。急いで部屋に戻らなければ。

『((主様?何か…分かったわ!みんなに伝えておくわ!))』

急いで書庫に戻りリバーシを回収したらみんなと急いで部屋に戻る。
先程の事を手短に話してみんなでスタンバイしてトリスタン君を待つ。



夜中ドアが開き、トリスタン君が入って来た。
気配を殺して私のベッドの元へ。

「付けないの?」

寝たフリをしているのに5分経っても隷属の首輪を付けようとしないトリスタン君に話しかける。

「!」

「付けないの?」

「…気づいてらっしゃったんですか?」

「うん。元々何か事情があって私に付いたのは分かってたんだけど、さっき話し聞いちゃったんだ。ごめんね……首輪付けないの?」
ベッドから起き上がり、ベッドに座って首を傾げる。

「僕は……僕には無理です……申し訳ございません……どんな罰でも受けますので……」
うつむき震えながら手が真っ白になるくらいに握り締めている。

「トリスタン君。こっち来て。ベッド上がって」

「……はい…」
隷属の首輪を付けようとした負い目があるからか素直に従ってくれた。

「脱いで」

「…え」

「いいから脱いで。ぬ・い・で」

「……いや……」
脱いでくれないので着替えたんであろうシャツを強引にめくる。

「酷い…こんなになるまでムチで叩くなんて…」

トリスタン君の体は無数のムチの傷痕があった。ミミズ腫れの痕や切られた傷など様々だ。
どれだけしいたげられて来たんだろうか。
きっとずっと昔から。
先程打たれていたムチ痕はヒールをかけたのか、ポーションを飲んだのか少し良くなっていたけど、血が滲んでいて痛々しい。

「ごめんね…さっきあの人止められなくて…ごめんね……」

あまりの痛々しさに涙がこぼれる。
さっき止められていればこんなに赤く血が滲む事は無かったのに。

「セナ様…」

「治すから…なるべく治すから…」

「いえっ!そんな!セナ様のお手をわずらわす訳にはっ!」

許可を取らずにトリスタン君の傷と傷痕が治る様にヒールをかける。
隣りにウェヌスも来て治すのを手伝ってくれた。

「あぁ…暖かい……本当に…………女神様…全ての罪が清められていく様です…」

本当はチートなリンゴを食べさせたかった。
でもみんなに止められた。
そんな理由で近付いて来た者にはダメだと。

もうこれ以上は治せないところまでかけ続けていると、泣きながら謝り続けていたトリスタン君は眠ってしまった。

私も寝た方が良いと言われ、トリスタン君を精霊達に任せてグレンのベッドにお邪魔して一緒に眠る。

止められ無かった後悔で泣き続けている私を眠るまでグレンが撫でて慰めてくれていた。



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