192 / 537
8章
タルゴー商会と中敷き問題
昨日は馬車で寝落ちしてしまったらしく、起きたらグレンとジルに挟まれて眠っていた。
多分グレンは私を運んでくれたんだろうけど、ジルは私がジルの服を握りしめていたから離れられなかったみたい。申し訳ない。
私のせいで二人共夜ご飯はグレンに渡していたパンで済ませたらしい。今度から二人にちゃんとご飯を渡しておくことにした。グレンは従魔だから食べなくても大丈夫ではあるけど、これから成長するジルが栄養失調になったら大変!
昨日の夜ご飯分を取り戻そうと、朝ご飯は追加注文させてもらった。
イペラーさんは「食いっぷりがいいね!」と笑いながらご飯を運んできていた。
◇
朝ご飯を食べた後、私達はタルゴー商会を訪れた。
昨日作った中敷きを見せて説明すると、いつもカミカミなのにさらにカミカミ度が増してグレンに〈落ち着け〉と言われていた。
グティーさん用のを作ったときに王都の一般的なサイズも作ってグレンに届けてもらったんだけど、試したギルド職員が大絶賛していて商会の中でも話題になっているらしい。
「ここここここコレは、すすすす素晴らしいどころでは……ありありありませんっ!」
身振り手振りで大げさに感動するリシータさんに苦笑いがこぼれてしまう。
紅茶を運んできてくれたスタッフの人もリシータさんのテンパり具合に目を丸くさせていた。
「これはお試しだから、おそらく一般的だと思われる形にしてあるの。もし自動サイズ調整が付与できるならその人に合わせられると思うし、ブーツとセットで売ったりしてもいいと思うよ」
「ななななるっ、なるほど!」
「ランク付けて値段設定してもいいと思うけど、その辺はリシータさん達タルゴー商会にお任せするよ」
「か、かしこまりましたっ! ああああああの! 消臭はどうなったのでしょうか!?」
「それはまだできてないんだ。ごめんね。実験もしたいからちょっと時間かかっちゃうかもしれない」
私が謝ると、リシータさんはカミながら「とんでもございません!」とブンブンと頭を左右に振っていて、そんなに振ってクラクラしないのかと心配になった。
案の定クラクラしてしまったらしく、しばし頭を押さえていたけど、そのおかげで少し冷静になれたみたい。
「い、いつでも構いませんので、レシピ登録の際は当商会で販売させてもらえたら嬉しく思います」
「うん。そのつもりだから安心して。現状で蒸れない機能付きで思いつくのはこれくらいなんだけど、リシータさんはどれをレシピ登録すればいいと思う?」
「すっ、全てです!」
中敷きの形も登録しちゃえば、私が許可を出さない限りこの形は販売できないんだそう。似ているものが発売されたら発売者にペナルティがあるらしい。地球より著作権みたいなの厳しすぎじゃない?
「お、おそらく爆発的に売れると思いますので、工房を作らないといけないと思いますっ」
「その工房って貧民とか孤児とか雇ってもらえる?」
「セ、セナ様はお優しいのですね……セナ様がお望みでしたらそういたします」
「ありがとうございます!」
この前、チラっと見た子供達も働けるかもしれない。飢えてはいなさそうだったけど、お金を稼げる手段があればボロボロだった服も新調できると思う。
(寮とかあったら住む場所も確保できるだろうけど、雇う人全員住まわせるとしたら大変だもんなぁ……)
「セナ様、リョウとはなんでしょうか?」
「へ? 声に出ちゃってた?」
「はい」
「わ、わたくしも気になりますっ」
ジルとリシータさんに聞かれたので“働いている人のための集合住宅みたいなもの”だと説明したんだけど、全員が同じ部屋に住むのかと誤解されてしまった。
絵を描きながらバストイレ共通の宿舎だと説明して納得してもらえた。ついでに絵の中に食堂とかも描くと、「商会長に相談してもよろしいでしょうか?」なんてリシータさんに聞かれてしまった。
この世界では騎士団や兵士なんかは訓練とかがあるため宿舎があるけど、一般人には馴染みがないんだそう。タルゴーさんが乗り気になったら従業員の宿舎が作られるかもしれないらしい。
◇
リシータさんの馬車に一緒に乗せてもらって商業ギルドにレシピ登録をしにきた。
満面の笑みのボンヘドさんに迎えられて応接室に案内された。
「グティーにセナ様が作った中敷きが素晴らしいとお聞きしましたヨ! ワタクシもぜひ使いたいですナ!」
「疑っておられたではありませんか」
ジルがあのときのことを蒸し返すと、「そんな画期的なモノができるなんてとても信じられなかったのデスヨ。イヤー、セナ様の着想は素晴らしいですネ」なんて調子のいいことを言っていた。
信じてなかったけど、効果があるなら自分も使いたいんだと思う。あわよくばグティーさんみたいに私に作ってもらいたいってところじゃないかな?
グレンとジルの冷たい視線も気にした様子は見られないのは、さすが商業ギルドのギルマスだと思う。
一応ボンヘドさんのも作ってはあるんだけど、みんなから“謝罪がなければ渡しちゃダメ”と言われているから渡せないね。
「オ、オーダーメイドも承る予定なので販売されたらぜひ当商会からお買い上げいただければと思います」
「……カシコマリマシタ」
意図せずリシータさんからの援護が入り、グレンとジルの口角がちょっと嬉しそうに上がった。ボンヘドさんはちょっと不服そうだったけど、すぐに取り繕った。
「ではレシピ登録ですネ」
「か、画期的な中敷きの形もです」
「形ですカナ? 見せていただいてもよろしいですカナ?」
「これです」
「オオオォォォォーーー! これは、これは! 面白い形ですネ!」
ボンヘドさんは私が出した中敷きを手に取って、オーバーリアクションをしながら裏表と食い入るように見つめている。
クッションや土踏まずのアーチの説明を、ボンヘドさんは中敷きから目を離さずに「フムフム」と聞いていた。
「グティーに見せてもらった中敷きとは違うのですネー!」
「あれは蒸れ防止機能付きのノーマルなやつだよ。アレの方が作るの簡単で、今見せてるのは疲れにくさの機能が付いた感じかな? 冒険者みたいに動き回る人はこの山型の方がいいと思うけど、その辺は買いにきた本人が好きな方を選べばいいと思う」
ボンヘドさんは私の説明で納得したらしく、やっと中敷きから目を離してレシピ登録の書類を書き始めた。
レシピ登録の書類を書き終わると、リシータさんにタルゴー商会のサンドスライムのドロップ品の確保情報を聞きだした。
「フムフム。それですと王都では問題になるかもしれませんネ。話題になれば、冒険者も平民も貴族もこぞってタルゴー商会へ押しかけると思いマス。幸い、街から近いダンジョンにサンドスライムは出ますが、買い取りをしたとしても短期間では集まりにくい。冒険者を雇ってダンジョンに向かわせ、買い取った後に販売したとすればドロップ品を使ったと容易に想像できマス。冒険者の中には情報を売ろうとする者も出てくるでしょうナ」
「で、では集まるまでは販売は無理そうですね……」
二人共悩み始めてしまった。
核があれば大量に作れるけど、核の話しをすると面倒なことになるのがわかりきってるし、キアーロ国で冒険者の腕がやられちゃった話をジルから聞いたから話さない方が良さそう。
集まるまで待つのはダメなのかと聞いてみると、アーロンさんも欲しがっているんだそう。私がリシータさんとバタバタ帰ったあと、詳しい話を聞いていないと気が付いたらしい。
そう言えばアーロンさんからの手紙に、いつ発売になるのかと書かれていたのを思い出した。
結局、アーロンさんにしばらくは無理だと説明するためにお城に向かうハメになった。
あなたにおすすめの小説
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
フェンリルに育てられた転生幼女は『創作魔法』で異世界を満喫したい!
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
旧題:フェンリルに育てられた転生幼女。その幼女はフェンリル譲りの魔力と力を片手に、『創作魔法』で料理をして異世界を満喫する。
赤ちゃんの頃にフェンリルに拾われたアン。ある日、彼女は冒険者のエルドと出会って自分が人間であることを知る。
アンは自分のことを本気でフェンリルだと思い込んでいたらしく、自分がフェンリルではなかったことに強い衝撃を受けて前世の記憶を思い出した。そして、自分が異世界からの転生者であることに気づく。
その記憶を思い出したと同時に、昔はなかったはずの転生特典のようなスキルを手に入れたアンは人間として生きていくために、エルドと共に人里に降りることを決める。
そして、そこには育ての父であるフェンリルのシキも同伴することになり、アンは育ての父であるフェンリルのシキと従魔契約をすることになる。
街に下りたアンは、そこで異世界の食事がシンプル過ぎることに着眼して、『創作魔法』を使って故郷の調味料を使った料理を作ることに。
しかし、その調味料は魔法を使って作ったこともあり、アンの作った調味料を使った料理は特別な効果をもたらす料理になってしまう。
魔法の調味料を使った料理で一儲け、温かい特別な料理で人助け。
フェンリルに育てられた転生幼女が、気ままに異世界を満喫するそんなお話。
※ツギクルなどにも掲載しております。
過保護すぎる家族に囲まれて育ったら、外の世界が危険すぎました 〜冷酷公爵の父と最強兄たちに溺愛される日々〜
由香
恋愛
過保護な父と兄たちに囲まれて育った少女。
初めての外は危険だらけ——のはずが、全部“秒で解決”。
溺愛×コメディ×ほんのり成長の、ほっこり家族物語。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。