文字の大きさ
大
中
小
154 / 502
8章
タルゴー商会と中敷き問題
昨日は馬車で寝落ちしてしまったらしく、起きたらグレンとジルに挟まれて眠っていた。
多分グレンは私を運んでくれたんだろうけど、ジルは私がジルの服を握りしめていたから離れられなかったみたい。申し訳ない。
私のせいで二人共夜ご飯はグレンに渡していたパンで済ませたらしい。今度から二人にちゃんとご飯を渡しておくことにした。グレンは従魔だから食べなくても大丈夫ではあるけど、これから成長するジルが栄養失調になったら大変!
昨日の夜ご飯分を取り戻そうと、朝ご飯は追加注文させてもらった。
イペラーさんは「食いっぷりがいいね!」と笑いながらご飯を運んできていた。
◇
朝ご飯を食べた後、私達はタルゴー商会を訪れた。
昨日作った中敷きを見せて説明すると、いつもカミカミなのにさらにカミカミ度が増してグレンに〈落ち着け〉と言われていた。
グティーさん用のを作ったときに王都の一般的なサイズも作ってグレンに届けてもらったんだけど、試したギルド職員が大絶賛していて商会の中でも話題になっているらしい。
「ここここここコレは、すすすす素晴らしいどころでは……ありありありませんっ!」
身振り手振りで大げさに感動するリシータさんに苦笑いがこぼれてしまう。
紅茶を運んできてくれたスタッフの人もリシータさんのテンパり具合に目を丸くさせていた。
「これはお試しだから、おそらく一般的だと思われる形にしてあるの。もし自動サイズ調整が付与できるならその人に合わせられると思うし、ブーツとセットで売ったりしてもいいと思うよ」
「ななななるっ、なるほど!」
「ランク付けて値段設定してもいいと思うけど、その辺はリシータさん達タルゴー商会にお任せするよ」
「か、かしこまりましたっ! ああああああの! 消臭はどうなったのでしょうか!?」
「それはまだできてないんだ。ごめんね。実験もしたいからちょっと時間かかっちゃうかもしれない」
私が謝ると、リシータさんはカミながら「とんでもございません!」とブンブンと頭を左右に振っていて、そんなに振ってクラクラしないのかと心配になった。
案の定クラクラしてしまったらしく、しばし頭を押さえていたけど、そのおかげで少し冷静になれたみたい。
「い、いつでも構いませんので、レシピ登録の際は当商会で販売させてもらえたら嬉しく思います」
「うん。そのつもりだから安心して。現状で蒸れない機能付きで思いつくのはこれくらいなんだけど、リシータさんはどれをレシピ登録すればいいと思う?」
「すっ、全てです!」
中敷きの形も登録しちゃえば、私が許可を出さない限りこの形は販売できないんだそう。似ているものが発売されたら発売者にペナルティがあるらしい。地球より著作権みたいなの厳しすぎじゃない?
「お、おそらく爆発的に売れると思いますので、工房を作らないといけないと思いますっ」
「その工房って貧民とか孤児とか雇ってもらえる?」
「セ、セナ様はお優しいのですね……セナ様がお望みでしたらそういたします」
「ありがとうございます!」
この前、チラっと見た子供達も働けるかもしれない。飢えてはいなさそうだったけど、お金を稼げる手段があればボロボロだった服も新調できると思う。
(寮とかあったら住む場所も確保できるだろうけど、雇う人全員住まわせるとしたら大変だもんなぁ……)
「セナ様、リョウとはなんでしょうか?」
「へ? 声に出ちゃってた?」
「はい」
「わ、わたくしも気になりますっ」
ジルとリシータさんに聞かれたので“働いている人のための集合住宅みたいなもの”だと説明したんだけど、全員が同じ部屋に住むのかと誤解されてしまった。
絵を描きながらバストイレ共通の宿舎だと説明して納得してもらえた。ついでに絵の中に食堂とかも描くと、「商会長に相談してもよろしいでしょうか?」なんてリシータさんに聞かれてしまった。
この世界では騎士団や兵士なんかは訓練とかがあるため宿舎があるけど、一般人には馴染みがないんだそう。タルゴーさんが乗り気になったら従業員の宿舎が作られるかもしれないらしい。
◇
リシータさんの馬車に一緒に乗せてもらって商業ギルドにレシピ登録をしにきた。
満面の笑みのボンヘドさんに迎えられて応接室に案内された。
「グティーにセナ様が作った中敷きが素晴らしいとお聞きしましたヨ! ワタクシもぜひ使いたいですナ!」
「疑っておられたではありませんか」
ジルがあのときのことを蒸し返すと、「そんな画期的なモノができるなんてとても信じられなかったのデスヨ。イヤー、セナ様の着想は素晴らしいですネ」なんて調子のいいことを言っていた。
信じてなかったけど、効果があるなら自分も使いたいんだと思う。あわよくばグティーさんみたいに私に作ってもらいたいってところじゃないかな?
グレンとジルの冷たい視線も気にした様子は見られないのは、さすが商業ギルドのギルマスだと思う。
一応ボンヘドさんのも作ってはあるんだけど、みんなから“謝罪がなければ渡しちゃダメ”と言われているから渡せないね。
「オ、オーダーメイドも承る予定なので販売されたらぜひ当商会からお買い上げいただければと思います」
「……カシコマリマシタ」
意図せずリシータさんからの援護が入り、グレンとジルの口角がちょっと嬉しそうに上がった。ボンヘドさんはちょっと不服そうだったけど、すぐに取り繕った。
「ではレシピ登録ですネ」
「か、画期的な中敷きの形もです」
「形ですカナ? 見せていただいてもよろしいですカナ?」
「これです」
「オオオォォォォーーー! これは、これは! 面白い形ですネ!」
ボンヘドさんは私が出した中敷きを手に取って、オーバーリアクションをしながら裏表と食い入るように見つめている。
クッションや土踏まずのアーチの説明を、ボンヘドさんは中敷きから目を離さずに「フムフム」と聞いていた。
「グティーに見せてもらった中敷きとは違うのですネー!」
「あれは蒸れ防止機能付きのノーマルなやつだよ。アレの方が作るの簡単で、今見せてるのは疲れにくさの機能が付いた感じかな? 冒険者みたいに動き回る人はこの山型の方がいいと思うけど、その辺は買いにきた本人が好きな方を選べばいいと思う」
ボンヘドさんは私の説明で納得したらしく、やっと中敷きから目を離してレシピ登録の書類を書き始めた。
レシピ登録の書類を書き終わると、リシータさんにタルゴー商会のサンドスライムのドロップ品の確保情報を聞きだした。
「フムフム。それですと王都では問題になるかもしれませんネ。話題になれば、冒険者も平民も貴族もこぞってタルゴー商会へ押しかけると思いマス。幸い、街から近いダンジョンにサンドスライムは出ますが、買い取りをしたとしても短期間では集まりにくい。冒険者を雇ってダンジョンに向かわせ、買い取った後に販売したとすればドロップ品を使ったと容易に想像できマス。冒険者の中には情報を売ろうとする者も出てくるでしょうナ」
「で、では集まるまでは販売は無理そうですね……」
二人共悩み始めてしまった。
核があれば大量に作れるけど、核の話しをすると面倒なことになるのがわかりきってるし、キアーロ国で冒険者の腕がやられちゃった話をジルから聞いたから話さない方が良さそう。
集まるまで待つのはダメなのかと聞いてみると、アーロンさんも欲しがっているんだそう。私がリシータさんとバタバタ帰ったあと、詳しい話を聞いていないと気が付いたらしい。
そう言えばアーロンさんからの手紙に、いつ発売になるのかと書かれていたのを思い出した。
結局、アーロンさんにしばらくは無理だと説明するためにお城に向かうハメになった。
感想 1,825
あなたにおすすめの小説
親に放置された四歳の末娘ですが、前世の知識で家のお金の使い込みを見つけて追放されました〜もふもふ聖獣と、おいしいものを食べる旅に出ます〜
子爵家の末娘リリア、四歳。家族の誰にもかまわれず、屋敷のすみで育ちました。
でも私には、前の人生の記憶があります。数字を見ると、勝手に計算してしまうんです。
ある日、お父様の帳簿のお金の使い込みを、うっかりその場で言ってしまいました。
返ってきたのは「出来損ない」の一言と、追放でした。持たされたのは銅貨23枚だけ。
いいでしょう。それなら、この銅貨23枚を開業資金にします。
森で助けた銀色のもふもふな子犬のフェンと一緒に、つぶれかけのお店を立て直しながら、おいしいものを食べる旅に出ます。
つぶれかけのパン屋さんは村一番の人気店に。ガラクタだらけの雑貨屋さんは町一番のお店に。
私はただの経理顧問。なのに、まわりが勝手に大騒ぎしていきます。
え? 今さら「家がつぶれそうだからお金を何とかして」?
……ふふ。数字は、うそをつきませんよ。
※本作は、既存作品を全面的に改稿(リライト)した作品です。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
結婚式の夜に愛人を連れてきたので、署名せずに帰ります
結婚式の夜、夫となったはずの侯爵さまが、披露宴の席に愛人を連れてまいりましたの。
「彼女も今日からこの屋敷に住む。君は正妻なのだから、寛大に受け入れるように」ですって。
義母は「騒げば恥をかくのはあなたよ」と微笑むし、お客さまたちは見て見ぬふり。まあ、皆さまそろって、なし崩しにするおつもりですのね。
けれど、おあいにくさま。この国の結婚は、式を挙げただけでは成立しませんのよ。婚姻誓約書に夫婦双方が署名し、三日以内に神殿へ納めて、はじめて夫婦。
――そしてわたくし、まだ署名しておりませんの。
既成事実は、事実ではございませんのよ。
捨てられた赤ちゃんを拾ったら、創世神様でした。世界を救うより、お父さんを幸せにしたいそうです
山で捨てられていた赤ちゃんを拾い、家族として育てることを決めた青年。
その日から、枯れた大地は実り、病は癒え、伝説のもふもふ神獣たちが次々と家へ集まってくる。
実はその赤ちゃんの正体は、この世界を創った創世神だった。
「いっぱい育ててくれてありがとう。今度は私がお父さんを幸せにする番だよ。」
これは、神様が初めて手に入れた”家族”との、優しくて温かな奇跡の物語。
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
2024年5月 書籍一巻発売
2025年7月 書籍二巻発売
2025年10月 コミカライズ連載開始
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
側妃を紹介されたので、その婚約はお断りいたします
公爵令嬢ヴィオレッタは、王子の婚約披露の日に、もうひとりの令嬢を「側妃に」と紹介された。
逆らってはいけない――そう信じて微笑んだわたくしは、濡れ衣を着せられ、お腹の子を奪われ、雪の離宮でひとり息を引き取った。
けれど目を開けると、そこはあの婚約披露の日。時間が、巻き戻っていた。
今度は、飲み込まない。今度は、微笑まない。
前の生で覚えた数字も、罠も、あの女の手口も、ぜんぶ覚えている。
「その婚約、謹んでお断り申し上げます!」
涙を武器にする令嬢に、二度は負けない。そして――誰も見ていないと思っていた場所で、ずっとわたくしを見ていた騎士がいた。
これは、運命に流されるだけだったわたくしが、自分の人生を"選び直す"物語。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。