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8章
タルゴー商会と中敷き問題
昨日は馬車で寝落ちしてしまったらしく、起きたらグレンとジルに挟まれて眠っていた。
多分グレンは私を運んでくれたんだろうけど、ジルは私がジルの服を握りしめていたから離れられなかったみたい。申し訳ない。
私のせいで二人共夜ご飯はグレンに渡していたパンで済ませたらしい。今度から二人にちゃんとご飯を渡しておくことにした。グレンは従魔だから食べなくても大丈夫ではあるけど、これから成長するジルが栄養失調になったら大変!
昨日の夜ご飯分を取り戻そうと、朝ご飯は追加注文させてもらった。
イペラーさんは「食いっぷりがいいね!」と笑いながらご飯を運んできていた。
◇
朝ご飯を食べた後、私達はタルゴー商会を訪れた。
昨日作った中敷きを見せて説明すると、いつもカミカミなのにさらにカミカミ度が増してグレンに〈落ち着け〉と言われていた。
グティーさん用のを作ったときに王都の一般的なサイズも作ってグレンに届けてもらったんだけど、試したギルド職員が大絶賛していて商会の中でも話題になっているらしい。
「ここここここコレは、すすすす素晴らしいどころでは……ありありありませんっ!」
身振り手振りで大げさに感動するリシータさんに苦笑いがこぼれてしまう。
紅茶を運んできてくれたスタッフの人もリシータさんのテンパり具合に目を丸くさせていた。
「これはお試しだから、おそらく一般的だと思われる形にしてあるの。もし自動サイズ調整が付与できるならその人に合わせられると思うし、ブーツとセットで売ったりしてもいいと思うよ」
「ななななるっ、なるほど!」
「ランク付けて値段設定してもいいと思うけど、その辺はリシータさん達タルゴー商会にお任せするよ」
「か、かしこまりましたっ! ああああああの! 消臭はどうなったのでしょうか!?」
「それはまだできてないんだ。ごめんね。実験もしたいからちょっと時間かかっちゃうかもしれない」
私が謝ると、リシータさんはカミながら「とんでもございません!」とブンブンと頭を左右に振っていて、そんなに振ってクラクラしないのかと心配になった。
案の定クラクラしてしまったらしく、しばし頭を押さえていたけど、そのおかげで少し冷静になれたみたい。
「い、いつでも構いませんので、レシピ登録の際は当商会で販売させてもらえたら嬉しく思います」
「うん。そのつもりだから安心して。現状で蒸れない機能付きで思いつくのはこれくらいなんだけど、リシータさんはどれをレシピ登録すればいいと思う?」
「すっ、全てです!」
中敷きの形も登録しちゃえば、私が許可を出さない限りこの形は販売できないんだそう。似ているものが発売されたら発売者にペナルティがあるらしい。地球より著作権みたいなの厳しすぎじゃない?
「お、おそらく爆発的に売れると思いますので、工房を作らないといけないと思いますっ」
「その工房って貧民とか孤児とか雇ってもらえる?」
「セ、セナ様はお優しいのですね……セナ様がお望みでしたらそういたします」
「ありがとうございます!」
この前、チラっと見た子供達も働けるかもしれない。飢えてはいなさそうだったけど、お金を稼げる手段があればボロボロだった服も新調できると思う。
(寮とかあったら住む場所も確保できるだろうけど、雇う人全員住まわせるとしたら大変だもんなぁ……)
「セナ様、リョウとはなんでしょうか?」
「へ? 声に出ちゃってた?」
「はい」
「わ、わたくしも気になりますっ」
ジルとリシータさんに聞かれたので“働いている人のための集合住宅みたいなもの”だと説明したんだけど、全員が同じ部屋に住むのかと誤解されてしまった。
絵を描きながらバストイレ共通の宿舎だと説明して納得してもらえた。ついでに絵の中に食堂とかも描くと、「商会長に相談してもよろしいでしょうか?」なんてリシータさんに聞かれてしまった。
この世界では騎士団や兵士なんかは訓練とかがあるため宿舎があるけど、一般人には馴染みがないんだそう。タルゴーさんが乗り気になったら従業員の宿舎が作られるかもしれないらしい。
◇
リシータさんの馬車に一緒に乗せてもらって商業ギルドにレシピ登録をしにきた。
満面の笑みのボンヘドさんに迎えられて応接室に案内された。
「グティーにセナ様が作った中敷きが素晴らしいとお聞きしましたヨ! ワタクシもぜひ使いたいですナ!」
「疑っておられたではありませんか」
ジルがあのときのことを蒸し返すと、「そんな画期的なモノができるなんてとても信じられなかったのデスヨ。イヤー、セナ様の着想は素晴らしいですネ」なんて調子のいいことを言っていた。
信じてなかったけど、効果があるなら自分も使いたいんだと思う。あわよくばグティーさんみたいに私に作ってもらいたいってところじゃないかな?
グレンとジルの冷たい視線も気にした様子は見られないのは、さすが商業ギルドのギルマスだと思う。
一応ボンヘドさんのも作ってはあるんだけど、みんなから“謝罪がなければ渡しちゃダメ”と言われているから渡せないね。
「オ、オーダーメイドも承る予定なので販売されたらぜひ当商会からお買い上げいただければと思います」
「……カシコマリマシタ」
意図せずリシータさんからの援護が入り、グレンとジルの口角がちょっと嬉しそうに上がった。ボンヘドさんはちょっと不服そうだったけど、すぐに取り繕った。
「ではレシピ登録ですネ」
「か、画期的な中敷きの形もです」
「形ですカナ? 見せていただいてもよろしいですカナ?」
「これです」
「オオオォォォォーーー! これは、これは! 面白い形ですネ!」
ボンヘドさんは私が出した中敷きを手に取って、オーバーリアクションをしながら裏表と食い入るように見つめている。
クッションや土踏まずのアーチの説明を、ボンヘドさんは中敷きから目を離さずに「フムフム」と聞いていた。
「グティーに見せてもらった中敷きとは違うのですネー!」
「あれは蒸れ防止機能付きのノーマルなやつだよ。アレの方が作るの簡単で、今見せてるのは疲れにくさの機能が付いた感じかな? 冒険者みたいに動き回る人はこの山型の方がいいと思うけど、その辺は買いにきた本人が好きな方を選べばいいと思う」
ボンヘドさんは私の説明で納得したらしく、やっと中敷きから目を離してレシピ登録の書類を書き始めた。
レシピ登録の書類を書き終わると、リシータさんにタルゴー商会のサンドスライムのドロップ品の確保情報を聞きだした。
「フムフム。それですと王都では問題になるかもしれませんネ。話題になれば、冒険者も平民も貴族もこぞってタルゴー商会へ押しかけると思いマス。幸い、街から近いダンジョンにサンドスライムは出ますが、買い取りをしたとしても短期間では集まりにくい。冒険者を雇ってダンジョンに向かわせ、買い取った後に販売したとすればドロップ品を使ったと容易に想像できマス。冒険者の中には情報を売ろうとする者も出てくるでしょうナ」
「で、では集まるまでは販売は無理そうですね……」
二人共悩み始めてしまった。
核があれば大量に作れるけど、核の話しをすると面倒なことになるのがわかりきってるし、キアーロ国で冒険者の腕がやられちゃった話をジルから聞いたから話さない方が良さそう。
集まるまで待つのはダメなのかと聞いてみると、アーロンさんも欲しがっているんだそう。私がリシータさんとバタバタ帰ったあと、詳しい話を聞いていないと気が付いたらしい。
そう言えばアーロンさんからの手紙に、いつ発売になるのかと書かれていたのを思い出した。
結局、アーロンさんにしばらくは無理だと説明するためにお城に向かうハメになった。
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