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第三部 12章
巡り巡る縁(えにし)
◇
その日の夜、私は謁見で疲れたのか早々に眠気に襲われた。
夢うつつの私をグレンがベッドに運んでくれたのはわかったんだけど……笑い声に目を開けると、目の前におばあちゃんがいた。
眠った私の精神だけ呼んだらしい。
「ヒャーッヒャッヒャ! セナのおかげで長年の憂いが晴れたよ。ありがとうね」
「それならよかった!」
「数千年の時代を超え、巡り巡った家族はセナによって再び相見えた」
「それって……アチャとスタルティ?」
「ヒャーッヒャッヒャ。記憶はないがの。幾度となく同じ時代を生きても、キッカケがなければすれ違ったまま時は過ぎゆく」
「やっぱり……そんな感じしたんだよね。天狐は?」
「あの者はジャルの一件とは関係ない。ジャルが不老不死となり、新しく出会った縁じゃ。それもセナのおかげで強固な結び付きとなった」
「んん? 私はあんまり関係ないと思うよ? 元々ジィジと天狐は仲よかったみたいだし」
私がそう返すと、おばあちゃんは一瞬目を丸くして「ヒャーッヒャッヒャ!」と一際大きく笑った。
「わかりやすく言えば友人から親友となったということよのぅ。それはセナなくしては成されなかった」
「そんなもん?」
「ヒャーヒャッヒャ。そんなもんじゃ。当時ジャルを慕っていた者は主にジャルの私兵として生まれ変わっておる。庭師のトープがいい例じゃな。ジャルに忠誠を誓い、その志は脈々と受け継がれ、代々一族で仕えている」
「そっか……ちゃんとジィジをわかってくれる人達がいるんだね。お城にいた人達はみんな誤解してたから、あれじゃあ生活しにくいなって思ってたんだよね」
「ヒャッヒャッヒャ。ジャルは目付きが悪いからの! その者達はジャルが〝流血王〟と呼ばれ、人から恐れられるようになり、表立って行動ができなくなったため影としてジャルを支えておるよ」
おばあちゃんは私を安心させるように頭を撫でてくれた。
呪われた執念から解き放たれたジィジの周りが笑顔溢れるようになったらいいな。
「……ねぇ、おばあちゃん。おばあちゃんはよかったの?」
記憶を取り戻したとき、故意に見せられた映像はおばあちゃんとジィジの昔物語だった。
ジィジと話すおばあちゃんは本当に楽しそうで、ジィジに心を開いていたのがわかったんだよね……
「ジャルの幸せを願っておるよ」
それって……好きな人の幸せを願うってことだよね?
好きになった人には恋人がいたとか、好きな人の理想のタイプは自分とは似ても似つかなくて脈なしとか、友人止まりで恋愛対象外とか……そういうこと。
過去の恋愛を思い出した私は実らない想いがよくわかる。
「……おばあちゃん、飲もう! 辛味酒でカクテル作れるようになったんだよ!」
「何やら誤解されておる気がするが……セナのカクテルは気になるのぅ」
「うんうん。飲もう、飲もう!」
おばあちゃんにテーブルを出してもらい、私はおつまみを広げてカクテルを作り始めた。
「ヒャーッヒャッヒャ。これはあの子らも呼ばんと怒られるの」
おばあちゃんがパチンと指を鳴らしてパパ達を招く。
現れたパパ達は私が作ったカクテルに大興奮。
イグ姐だけはグレンが気に入った、あの濃い辛味酒をロックで飲むのが好きらしい。
◆ ◇ ◆
一方その頃、ジャレッド達はソファに座って今日のことを話していた。
「毎度セナちゃんには驚かされるわ~」
「そうですね。本当にあれで大丈夫だったんでしょうか?」
「……そう聞いている」
「大丈夫じゃない? セナちゃんは気付いてなかったけど、あの王妃の目……セナちゃんを熱っぽく見つめてたもの。で、どうなの?」
「侯爵は喚いているだけだが、アレらはセナを熱望しているらしい。大人しいがセナがいなければ話さないと、頑として口を割らないそうだ」
ジャレッドの言葉に天狐とアリシアは「あぁ……」と言葉を漏らした。
「ってことはセナちゃんに一度会わせるの?」
「気は乗らんが……頼むしかないだろうな」
「あの……それは、執着の矛先がセナ様に向かうことになったのでは……?」
「可能性はあるが……ヴィーがセナを危険に晒すとは思えん」
「そうねぇ。会わせるとき、アタシが見るわ。ヤバそうだったら神達に報告しないと」
「そうだな。アリシアはスタルティと留守番だ。セナに好かれているお主達は要らぬ怒りを買うかもしれん」
「ですが……かしこまりました」
「うふふ。アタシ達は大丈夫よ。任せなさいっ」
天狐に微笑まれ、アリシアは肩の力が抜けた。
「天狐さんに言われると大丈夫な気がします」
「うふふ」
「年の功か?」
「ちょっと! あなたに言われたくないわ!」
「うるさいぞ。セナが起きるだろう」
「なっ! あなたのせいじゃない……!」
声を抑えながら怒る天狐はいいことを思い付いたと表情を和らげた。
「そうだ。アリシアちゃん」
「はい」
「アリシアちゃんは好きな人いないの?」
「えぇっ」
「だって、こんなのの近くにいたら逃げられちゃうじゃない? 捕まえておかなくちゃ!」
「えっと……いません」
「あら、そうなの?」
「はい……ご期待に添えずすみません」
「謝ることないわ。アリシアちゃん可愛いんだから、これから出会いはたくさんあるわよ!」
笑顔で宣言する天狐に、ジャレッドは〝お前はことごとく出会いがないんだな〟と思ったものの口にはしなかった。
「どんな人がタイプなの?」
「そうですね……優しくて頼りがいのある方がいいのですが……あの……」
「ん? なぁに?」
「その……しっぽはあれですが……頭を撫でてくれる人がいいなと……」
「うふふ。セナちゃんね?」
「はい……」
「わかるわ~。しっぽはあれだけど、セナちゃんに撫でられると癒されるのよねぇ」
顔を赤く染めながら話すアリシアの気持ちを代弁する天狐に、アリシアはコクコクと頷いた。
一部始終を聞いていたジャレッドは〝セナの手は人を懐柔するのか〟と思うと同時に、聞いてはいけないことだと聞かなかったことにした。
◆ ◇ ◆
セナや他神と自身の空間で楽しんでいるヴィエルディーオは、ジャレッド達の様子を神眼で見ていた。
「ヒャーッヒャッヒャ! ほんに、人というのは面白い。ちょっとしたことがキッカケで運命は大きく変わる。これからが楽しみじゃのぅ」
そう笑うヴィエルディーオの声は、盛り上がる他神の声にかき消され、セナに聞こえることはなかった。
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