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第三部 12章
ジェットじゃない
しおりを挟む私のふくらはぎくらいまで積もった雪は大して邪魔にならないらしく、グリネロもアクランも普通に走っている。
途中、お昼休憩をとったけど、おやつの時間にはダンジョンに着けた。
一度入ってみて、外の方が暖かかったため、今日は野宿決定! ダンジョンは明日から!
雪で馬車は出せないと思ったんだけど、グレンが馬車分だけ雪を溶かしてくれた。
グレンは〈これで眠るときも寒くないな!〉なんて言っていて、いつになく積極的だった理由が判明した。
ちょっといいことを思いついた私はジルにあるお願いをして、馬車の中からコテージの作業部屋へ。
作業していると、バン! と音を立ててグレンが部屋に入って来た。
〈セナ! 何故我は臭い風呂に入らされたんだ!〉
「おぉ~ちゃんと入ったんだね。エラい、エラい!」
〈セーナー!〉
「湯の花のお風呂、体が温まったでしょ?」
怒るグレンに浄化をかけて消臭してあげる。
グレンは私に言われてから気が付いたらしく、〈むむむ〉と唸った。
文句を言いたいけど、効果を実感した感じかな?
「夜ご飯はグレンが食べたいって言ってたカレーにするから、機嫌直して?」
〈我のは肉がいっぱいだぞ!?〉
グレンの機嫌は肉で戻るらしい。
入って来たときの勢いはどこへやら……「ジルベルト! 今日はカレーだぞ!」とジルを呼びながら出て行った。
精霊達に協力してもらって魔道具を完成させ、夜ご飯の準備。
今日は時間に余裕があるから、ちゃんとしたタンドリーチキンも作ってあげよう。前回はヨーグルトがなかったからモドキだったんだよね~。
全部を作り終わると、夜ご飯にちょうどいい時間だった。
グレンはゴロゴロ肉のポークカレーとタンドリーチキンを大喜びで食べ、〈セナが臭いを消すならまた入ってもいい〉と湯の花風呂のイメージを払拭したらしい。
カレーっていうか、肉パワーがすごい……
◇ ◆ ◇
朝早くから準備して、ダンジョンへと足を踏み入れた。
ダンジョンは草原タイプの広場型で、おじさんが言っていた通り雪が積もっている。閉鎖的な空間だからか、中は冷凍庫みたいな寒さだ。
一応朝ご飯は体が温まるように辛味酒入りのスープにしたけど、グレンに昨日作った魔道具を渡す。
〈何だ?〉
「これはカイロだよ。この中に板が入ってるんだけど、ケースに付いてるこの魔石に魔力を込めると、その板が温かくなるの。ポケットに入れておけば温かいよ」
以前報酬でもらっていた温かくなる板を改良してみたんだよね。これなら簡単に使えるし、使い捨てじゃないからゴミも出ない。
グレンは早速魔力を込めて温もりを確かめていた。
ジルにも渡したら攻略開始!
朝早いからか、このフロアには他の冒険者がいない。
雪族の村で滞在中にもらった手袋を装着して、気になったところの雪を掘り返す。
〈本当にこのダンジョンなのか?〉
「って、言ってたよ? んー……ここにはなさそう」
グレンとジルも協力してくれているけど見つけられない。
出てくる敵は呼んでいたネラース達が遊ぶように狩ってくれているため、私はあっちこっちにウロチョロ。
結局、一階層では空飛ぶ人参を見つける前に下層へ降りる階段を発見。
二階層も広場型。これまた同じように掘り返していく。
見つけられないまま四階層の探索を終え、五階層に降りると、今までと明らかに違っていた。
下に何かありますよと言わんばかりに、積もった雪がモコモコと波打っている。
しかも、そのモコモコだけは魔力を帯びている気がする。
ウキウキしながら掘り返すと……
「うわっ!」
下からロケットのように飛び出てきたモノに驚いて尻もちをついてしまった。
飛び出てきたモノは高速でピュンピュンと飛び回り、私はおろかグレンもジルも捕まえられなかった。
しかもそれは私達の頭上を旋回した後、いつの間にか消えてしまい、私は目を瞬かせた。
「早すぎて、あれが人参かも確認できなかった……」
おそらくサーキット車より早い。どうやって捕まえろというのか……
再挑戦だと、隣りのモッコリに手をかけると、またも飛び出てきて捕まえられなかった。
何回も繰り返し、あまりの捕まえられなさ加減に腹が立ってくる。
「こうなったら強行手段だよ!」
〈どうするんだ?〉
「ふふふ……これよ!」
私が無限収納から出したのは釣り用のタモ網。
最初の見た後にすぐに出せばよかったよね。飛び出てくるところに網をセットしておけば簡単じゃん!
意気揚々とタモ網の位置を確認して雪を掘り返した瞬間――網をぶち破られた。
「むぅぅぅ……悔しい!」
ムクれる私の肩をグレンが無言でポンポンと叩く。
めっちゃ悔しい。こうなったら意地でも捕まえてやる!
きっとポラルの糸でもダメ。結界だと衝撃で潰れちゃう。柔らかいクッションみたいなのがよさそうだよね……
頭をフル回転させていると、いいことを思いついた。
「そっか。魔物だと思えばいいんだ! エルミス、グレウス、手伝って!」
首を傾げるグレンとジルを放置して、エルミスと魔法を展開させる。
イメージはトロトロウォーターベッド。
粘度の高い水魔法を分厚いマットのように広げ、グレウスの土魔法で人参(仮)を目覚めさせる。飛び出てきた人参は水が絡み付いて動けないか……失敗しても速度は落とせるんじゃないか……という算段。
グレウスに範囲を指定して地面を揺らしてもらうと……グサグサとマットに刺さった。
「ぃよっしゃー!」
刺さっていたのは、おじさんが言っていた通りに羽の生えた人参。
それでもウォーターベッドを突き破ろうとしているのか、徐々に水の中に埋もれていく。
「ヤバい! 逃げちゃう! 回収手伝ってー!」
グレンとジルに助けを求め、人参回収のためにウォーターベッドに手を突っ込む。
どうやったら羽が消えて普通の人参になるのかを聞いてなかったけど、手に触れた瞬間、羽が溶けてなくなった。
「捕まえればいいってそういうことね」
おじさんから説明がなかったことに納得。
確かに捕まえればいい。触っただけで魔法が解けるなんて、他に説明のしようがない。
捕まえるコツがわかった私達の行動は早かった。
何回も同じ作業を繰り返し、たんまりと人参をゲットした。
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