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14章
遺されていたもの
しおりを挟む「〝オレ様は天下の盗賊クレティス様だ〟」
『は?』
《え?》
鑑定で表示された合言葉を言うと、スーッと壁の一部が消えた。
『ちょっと、主様どういうことよ!』
「合言葉じゃないと開かないって鑑定に出てきたんだよ」
『……はぁー。んもぅ、そういうことね。いきなり何言うのかと思っちゃったわ』
「ごめん、ごめん。説明で書かれてたからさ」
『まぁいいわ。主様はまだ入っちゃダメよ。グレンー!』
ペシペシと私の頬を叩いていたクラオルは、振り向いて大声でグレンを呼んだ。
〈なんだ? 我は今……〉
『隠し部屋があったから見てきてちょうだい』
言い終わらないうちにクラオルがグレンに言い放った。
それを聞いたグレンはあからさまに眉を寄せる。
〈それくらいプルトンでもできるだろう。我はセナの手伝いで忙しい〉
『プルトンの鑑定で見れなかったのよ。精霊除けとか罠とか、何かあってからじゃ遅いでしょ』
〈仕方ないな。こんなところにそんな仕掛けはないと思うぞ?〉
精霊除けは文字通り、精霊を近付けないようにする細工のこと。ニキーダの護符や魔道具など形態は様々だ。
私もモヤモヤしないから大丈夫だと思うんだけど……クラオルから許可が下りなかった。
警戒する様子もなく、ズンズンと普通に隠し部屋へ入ったグレンから〈大丈夫だ〉と声がかけられた。
ようやくクラオルからも許可が下りて足を踏み入れる。短い通路の先の部屋の中には、絵画や宝石の埋め込まれた貴金属、よくわからない置物に魔道具っぽいものが山を作っていた。
「合言葉が盗賊ってくらいだからどこからか盗んできたやつっぽいね」
〈こういう物は見つけた者が所有できる。まぁ、セナはいらないだろうからな。換金すればいい〉
「拾得物横領とかはないのね……」
〈なんだそれは〉
「例え拾ったものでも自分のものにしちゃダメってこと」
〈何故だ?〉
心底不思議そうに聞き返してくるグレンは、説明しても首を傾げるばかりだった。
あげくに〈セナの世界は謎だらけだな〉なんて言われてしまった。
私からすればこの世界の方が驚くことばっかりだよ。
『主様、これ回収した方がいいわ』
「えぇ……盗まれたものとか持ちたくないよ。呪われそうじゃん」
〈呪いがかかってるものはないぞ〉
「いや、気持ちの問題……」
《この棚に置かれているやつ、シュグタイルハンの紋章が入ってるわよ。こっちはキアーロの紋章ね。他にもあるけどどこのかはわからないわ。ん~、百年以上……三百年未満ってところかしら?》
「……マジか……わかった」
見なかったことにしたかった……アーロンさんとブラン団長関係なら渡してあげないとだよね。なんなら全部マルっと押し付けちゃおう。うん、そうしよう。
驚くことに書類みたいな紙束まであったんだけど、これは劣化が激しくて読む気にならなかった。
隠し部屋に置かれていた全ての物を回収して、私達はジルがいる大部屋に戻った。
気を利かせたジルはキャベツの千切りだけじゃなくて、出しておいた材料でタネも作ってくれていた。
焼いている間にネラース達も戻ってきて、渡されたのはキノコだった。しかもこのキノコ、【ミネラルフンゴ】って名前の通り、ミネラルたっぷりで貧血に効くらしい。味はしめじ、食感は椎茸に似ているそう。
「わぁ~! ありがとう!」
お礼を言うと『えへへ』と照れるネラース達が可愛いすぎて、わしゃわしゃと撫でまくってしまう。
クテッと脱力したネラース達を見て、ふと我に返った。
「はっ! お好み焼き!」
「ふふっ。今、新しいものをひっくり返したところです」
「流石ジル! ありがとう」
「豚玉でよろしかったでしょうか?」
「もちろん!」
ジルのおかげで焦がさずに済み、私はほっと一安心。グレン用のビッグサイズだったから、その一枚が結構重要だったりする。
「できたよ~!」
焼きあがったお好み焼きにグリネロは大喜びでがっついて、クーヴェに怒られていた。
グレンは特大サイズのお好み焼きをおかずにご飯を何杯もおかわり。私はもんじゃ焼きをクラオル達と食べておなかはパンパン。
食後はグリネロとクーヴェをブラッシングしてあげ、みんなでまったり。グレンだけはちょっと出かけてくるとルフスを連れて外へ行っちゃった。
さっきの隠し部屋の話をジルにしたら、名前に聞き覚えがあるとのことだった。
「確か……貧しい者の味方と言われていた盗賊だったと思います。普通の盗賊のように盗むこともあったらしいのですが、悪事を働く貴族の家に盗みに入り、奪い取られた物を取り返したり貧民に施しをしたり……と、いろいろとやっていたそうです」
「へぇ~」
時代劇に出てくるねずみ小僧みたい。この世界にもそんな人がいるんだね。
《それだとシュグタイルハンもキアーロも悪いことしてたってこと?》
「ん~、どうだろ? ジルが聞いた話を聞いた限りでは一概には言えないかな。それに……アーロンさんの国は悪いことするタイプじゃないと思うんだよね」
アーロンさんのお姉さんや甥と姪にしか会ったことないけど、もれなく脳筋だったもん。あれは血筋だと思う。手袋少年が紋章入りの手袋を持っていたことを考えると、元々の持ち主は直系以外の血縁者って可能性も捨てきれない。
義賊らしいクレティスって人の琴線に触れたのか、はたまたただ盗みに入ったのか……何にしても王族関係者宅に盗みに入るなんて、ずいぶんとチャレンジャーだ。
「とりあえず魔道具は調べようか。手伝ってもらってもいい?」
《いいわよ!》
精霊達にも手伝ってもらって回収した魔道具をチェックする。
小さなライトや自動で組み立てられる譜面台など、私が鑑定したものの中には特にヤバそうなものはなかった。
《セナちゃん!》
「ん?」
《見てて。地下帝国の商業ギルマス!》
呼ばれて顔を上げた私にプルトンがポーズをとる。
「ぶはっ!」
スポットライトのような魔道具だったらしく、上から煌々と照らされ、スタンドを使って戦うマンガのようなキメ顔のキメポーズに吹き出してしまった。
「アハハハ!」
《ふふっ! シュグタイルハン国のボンヘドにやらせたら、もっと面白いと思うのよねぇ》
「ぶふっ! やめてぇ~。プルトンそれアウトだよ~!」
《これはシュグタイルハン国に買い取ってもらいましょ!》
プルトンはどうしてもボンヘドさんにスポットライトを当てたいらしい。
私的にはやっぱりボンヘドさんにはスポットライトよりミラーボールの方が似合うと思うんだけど……
戻ってきたグレンにもプルトンが披露して、グレン達も爆笑している。
その後は面白いキメポーズ大会に移行し、ウェヌスや普段精霊の国にいる精霊達も呼んで大盛り上がり。
赤のアレスや黄のクロノスより、緑のコメータがノリノリでリーゼントを揺らしてヘンテコダンスを踊っていた。
優勝はぶっちぎりでプルトンがかっさらい、優勝賞品としてチーズケーキをプレゼント。
笑いまくった私はネラース達のモフモフに包まれて心地よい眠りについた。
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