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16章

意外な派閥

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「「……」」

 集まっていた騎士達がザワザワとし始めているのに、ポッカーンという表現がピッタリなくらい国王達は呆気に取られている。そんな中、アデトア君が反応した。

「……セナ、その冗談は笑えないぞ……」
「冗談? え? 冗談じゃないよ?」
「は? 先月に払ったハズじゃ……」

 アデトア君が確認するかのように視線を送ると、ようやく国王が我に返った。

「……あ、あぁ、高額なために時間がかかってしまったが、アデトアが言うように先月に支払ったはずだ」
「振り込まれてないよ?」
「ちゃんと確認したのか?」
「商業ギルドのギルマスに〝ヴィルシル国から五十五億振り込まれる予定だから振り込まれたら教えて〟って言っておいたけど連絡なかったよ」

 いつもは特に気にしないものの、今回はちょいちょいギルドに顔を出してたから残高の確認をしていた。
 いくら毎月レシピを許可しているところから振り込まれていても、流石に一気に五十五億も増えていれば気が付く。残高は増え続けているとはいえ、過去の水準と特段変わった点はない。

「フンッ……言葉遣いに態度もヒドいがでまかせを吐くなど言語道断! ……この責任はどなたがとるおつもりで?」

 神経質そうなおじさんが私を鼻で嗤う。
 そんなおじさんから守るようにニキーダに抱えられた。

「いやぁねぇ~。あなた言葉が通じないの? 五十五億の期限は到着した日から四ヶ月以内である明日まで。五ヶ月目に突入する明後日以降は本来の金額である百二十億以上になる……そういう契約でしょ?」
(え!? 百二十億!? もっと高くてもいいとは言っていたけど、そんなに高かったの!? ボッタクリじゃない? それに国庫の都合を考えて五十五億にしたって言ってなかった??)

 私が驚いているのがわかったのか、抱えてるのとは逆の手で頭を撫でるふりして向こうから見えないように顔を隠された。どういうことだとニキーダを見つめたら、鼻先にチュッとキスを落としてくる。
 誤魔化してる……

「……確かにそうだった。本当に受け取っていないのだな?」
「だからさっきからそう言ってるでしょ? ただでさえセナちゃんの善意で半額以下にしてあげたのに、約束を破るようなやつなんて放っておいて本来の金額を請求すればいいってアタシは言ったのよ。そしたらセナちゃんったら『忙しくて忘れてるのかもしれない』って。本当に優しすぎるわよねぇ」
「えぇ。手紙だと陛下が読むまでに検閲が入り、日数がかかるかもしれないと。馬車では時間がかかるため、セナ様以外は運びたくないとおっしゃるグレン様を説得してわざわざ空を飛んできたのです」
「そ、そうだったのか……には理由があったのだな……」
(いやいや! 私のせいでもなんでもなく、ニキーダとジルが決めてたじゃんか……)

 私が口を出すと話がこじれそうだから何も言えない。
 ニキーダとジルの追加口撃に、こちらを敵視するおじさんと国王は二の句が継げなくなったみたい。目付きの鋭いおじさんに至っては何かを言いかけては歯噛みしている。
 でもごめんね。グレンは特別なおやつですぐに了承してくれたんだよね。もっともらしく飛来した理由にしたけど、古代龍エンシェントドラゴンの脅威っていう脅しも含まれてるんだ。そして一番の目的はお金の回収じゃないっていう……

「ママ、ママ。疑われ続けるのは嫌だから念のために振込履歴調べてくるよ」
「あら、約束を守らない国になんて気を使わなくてもいいのよ? ちょっと面倒だけど……最悪、払う気がないなら元に戻せばいいんだから」
「ちょ、ちょっと待て! 戻すってを戻すつもりか!?」

 腕から私を下ろしたニキーダのセリフにアデトア君がギョッと抗議の声を上げた。

「当たり前じゃない。やり方がわかってるんだから簡単でしょ? 自分達でなんとかしなさいな」
「無理に決まってるだろう! わかっていて言っているな!?」
 
 ママん……私も無理だと思うよ……
 地図にも載っていない島。しかもあの里に入れるのは一族の血を引く古代龍エンシェントドラゴンと加護をもらった私だけ。運よく里の住民と会えたとしても人族嫌いが根付いていた場所だ。龍化りゅうかしていたグレンにもビビっていたくらいなのに、私達以外で赤獄龍せきごくりゅうが率いる古代龍エンシェントドラゴン達と対等に話せる人なんて、一緒にいたアデトア君くらいだろう。そして創生の女神であるおばあちゃんの協力もなしに、魔に堕ちたドラゴンを正気に戻せる術を持っているとは思えない。
 っていうかニキーダはどうやって元に戻すつもりなんだろうか……

 まだニキーダとアデトア君は不毛な言い争いをしているため、この場をジィジに頼んでおく。国王達はすでに調べに行ったみたい。私はジルと共にグレンに抱えてもらい、商業ギルドへと飛び立った。


 ドラゴン姿ではないからか、住民達は私達が飛んでいても特に気にした様子はない。ただ、そこかしこでドラゴン来襲とアデトア君のことが話されていた。
(ムフフ。ひとまずの目論見は成功っぽいぞ)

 商業ギルドは働き口を求めているっぽい人達が求人掲示板の前に数人いる程度だった。
 グレンの腕の中から、カウンターでギルマスをお呼び出し。
 こちらでお待ちくださいと通された応接室でギルマスを待つことになった。

〈大丈夫か?〉
「うん。大丈夫だけどちょっと疲れちゃった。注目されるのはやっぱり慣れないね。いつの間にか全部私のせいになってるし……」
『無理はダメよ? 主様はいつも無理するんだから』
「ふふっ。ありがとう。問題が片付いたらゆっくり街の観光しようね」

 グレンは頭を撫でてくれるし、クラオルとグレウスはスリスリとモフモフで癒やしてくれる。ジルは無言で香りのいい紅茶を準備していた。
 この香りは……カモミールとレモン系のブレンドティーかな?
 一口飲めば、肩から力が抜けた。
 さすがジル。私のことわかってる。オレンジ系も入ってたのね。柑橘系の甘みがあるのに、レモンでサッパリしていて美味しい。

 関知していなかった膨大な請求額は置いておいて、段階を踏むって話も出た。でも面倒だからと一度に全部済ませちゃおうとした結果で、完全に自分が悪い。
 とは言え、いちいちを見繕わなくても大名義分があったのはラッキーだよね。後始末もしてしまえば、お騒がせした登場をこれ以上つべこべ言われることもないでしょう。

 ノック音に返事をすると、伝言通りに商業ギルドのギルマスと冒険者ギルドのギルマス二人が現れた。
 キアーロ国のギルドから連絡が来ていたみたいで、両ギルマスともわりと好感触だった。クッキーとラスクを出したのが効いたのかも。
 ここ一ヶ月の振込履歴を紙に出力してもらいつつ、情報収集。途中、サルースさんとも連絡をとった。
 貴族事情や派閥、領地の配分図、魔物の分布状況にダンジョンの話と内容は多岐にわたる。
 ここでの驚きは……あのこちらを敵視してた人が第一王子派だったこと。意外じゃない?

 タルゴー商会とデタリョ商会からの知らせよりも細かい情勢が得られた私達は再びグレンに抱えられ、先ほどのバルコニー目指してギルドを後にした。

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