クライニング?セクニッション~天才でオタクな彼のラストストーリー

せあら

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二人の運営者

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 誰もいない生徒会室に一人の男子生徒がいた。 
 肩まで掛かるパープル色の髪に、耳には銀色のピアス。そして黒のブレザーの制服に腕には生徒会長と記された腕章を付けていた。 
 何処と無く人を食ったような顔をしている。そんな印象を相手に強く与えてしまうような男子生徒だった。 
 男子生徒……唯月弦(ゆいづきゆずる)は長机に広げてあった二枚の資料を手に取った。 
 その資料にはこう記してあった。 

 《クライニング・セクニッション》サイト運営者、それに纏わる事件。 

 唯月はその資料を一通り目を通し、そしてある文字に目を止めた。 
 それは。 

 “この人物達がこの学園に必要な人材であるならば相手が望む情報を与えよ。だが不要、または危険だと判断した場合排除対象者となる” 

 唯月は机の上にあった二枚の写真手にし、それを見、思わず唇の端を緩めた。そして彼は机の上に資料を置くと、窓際近づき外の方へと視線を向けた。 
 そこには登校して来る大勢の生徒達の中にある二人組の男女を見つけた。ボサボサの髪の少年の腕に引っ付きながらピンク色のロングヘアーの少女が笑顔で少年へと話しかけていた。 

 種原悟。 

 新垣莉乃。 

 それは紛れもなくあの《クライニング・セクニッション》の運営者であり、この星蘭月(せいらづき)学園が所有する“情報”に対してのいわゆる“お得意様”でもあった。 

「悟……。“二年前の真実”を知ったらお前はどうするんだろうな……」 

 唯月はそう人知れず小さく呟く。 
 もしも彼が“二年前の真実”にたどり着いたとしたら彼はすべてを諦めてしまうのだろうか……? 

 それとも諦めずに“地獄”と呼ばれる悲惨な運命に抗い、立ち向かうのだろうか? 

 どのみち彼は真実を追い求める限り自分達と深く、深く関わっていく事になるだろう。それはきっと逃れる事は出来ない程に。 

 唯月は窓の外から視線を動かし、そして近くの壁へと背を軽くもたれさせた。彼は顎に手を当て、面白そうに唇を歪ませた。 
「ま、なんにせよ、これから愉しくなりそうだな」 
 その台詞とその表情はまるで小さい子供が新しい玩具を手に入れる。そんな表情に似ていた。 


*** 

「で? 本当に来んのかよ。その依頼人とか言う奴は?」 

 悟は面倒くさそうに喫茶店のテーブルの上で頬杖をつきながら自分の目の前にいる苺がたっぷりと乗っている苺パフェを幸せそうに食べていた莉乃へと問いかけた。 
「ん~美味しい! あっ、悟。そんなに面倒くさそうにしないの。来るって言ったんだからきっと来るよ」 
「たっく……自分の指定した時間ぐらい守れよな。普通常識だろう」 
 悟はそう言いながら軽く悪態をつく。 

 あの後。 
 莉乃が勝手に受けた依頼の内容確認し、本人から直接話を聞く為に悟が連絡したところ依頼人と夕方に会うことになった。
    学校を終え、16時に駅の近くの喫茶店で依頼人と待ち合わせをしていたのだった。 
 だが、現在午後の16時30分。 
 時間を過ぎた今もなお依頼人は現れる気配すらなかった。 
「悟は早く帰ってアニメ見たいからそんな事言っているんだよね?」 
 スプーンで生クリームがついた苺を掬い、口に運びながら莉乃はサラリと悟へと言った。 
 指摘された悟は思わず「うっ……」と言葉に詰まり、そして開き直ったかのように顔を上げ、ふっと笑った。 
「当たり前だろーが! 俺は早く帰って録画したアニメのチェックしたいんだよ!」 
「え~。そんなの後からでも良いじゃん。録画しているんだし、時間あるときにチェックとかすれば良いじゃん」 
「はー……全くお前は分かって無いな。本当に分かって無い! いいか。時間ある時にとか、ゆっくりした時間にとか、では遅いんだよ! チェックをおろそかにすると確実に忘れてしまい、そして見ていないアニメを間違って上書きをしてしまうおそれ……いや悲劇とも言えるものが発生するんだ!」 
「ふーん。そうなんだー。大変なんだねー」 
 人が変わったかのように熱く力説する悟に莉乃はそんなの興味無さげにテキトーにあいづちを打つ。 
 彼女は悟に気づかれないように小さな溜め息をついた。 

 莉乃は悟のオタク趣味の事は理解していた。 
 だけど彼は一度好きなものを語り出すと止まらないところがあり、少なくとも30分以上は語り続ける場合がある。 
 悟が楽しそうに趣味の事を話す姿は莉乃は嫌いではない。むしろ好きな方だ。 
 だけど同時に。 

 (もう少しぐらいわたしのこと見てくれても良いのになぁ……) 

 そう思いながら莉乃は少しだけ不機嫌そうな顔をした。 
「どうしたんだよ?」 
「別に。何でもないよ」 
 不思議そうな顔をしながら訊ねる悟に対して莉乃は少しだけ素っ気なく彼にそう言葉を返した。 

 その時。 
 コツと微かなヒールの音と共に、悟達の後ろから一人の少女の声が発せられた。 

「あの……ひょっとして待ち合わせの方々達でしょうか?」 

 後ろを振り向くと、そこには一人の14才ぐらいの少女がその場に立っていた。 
 タレ目で童顔の顔立ちに、肩まで掛かるゆるくふわりとしたウェーブの髪。頭には黒色のコサージュの付いたカチューシャをしており、そして首にはコサージュと同じ色をした黒色のチョーカーをしていた。制服のシャツの上からセーターを着ており、下はチェックのプリーツスカート。脚は黒色のタイツが覆い、足元は真っ赤なヒールを履いていた。 
 少女は怪訝そうに、そしてその瞳には戸惑いの色を滲ませながら悟達を見た。 
 その視線を悟は感じ取りながら、彼は彼女に気楽そうな口調で答えた。 

「そうだけど。まぁ、取り敢えず席に着けよ」 

 そう促す悟の言葉に彼女は一瞬躊躇するが、やがて悟達の元へと行き、ソファへと腰を下ろした。 
 そして。 
「あなた達が本当に《クライニング・セクニッション》のサイトの運営の方達なのですか? どんな依頼でも完璧に問題なく解決すると言う……」 
 目の前の高校生の二人を見、リリはまだ半信半疑のままその台詞を口にした。 
 彼女に取ってみればあまりにも信じられない光景だったのだ。その彼女の反応に対して悟は平然とした態度でサラリと返し、 
「ああ。そうだけど」 
「大人だと思った?」 
 それに加えて莉乃は小さくクスリと笑った。 
「………そんな……」 
 落胆に似た小さな呟きをリリは思わず溢す。 
 普通ならばやらせ、なりすまし、または悪戯の類いとして充分に疑う余地がありそうなのだが、この目の前の二人はリリから見てどうにも嘘をついているようには思えなかった。それは何故だが自分でも分からないのだが自分の直感がそう告げていたのだった。 

 悟はあからさまに肩を落とし落胆するリリを見、面倒くさそうに短い息を吐いた。 
 彼にとって別にこう言う反応は初めてでは無いがあまり気分が良いものでは無いのは確かだった。 
「一つ言うけどお前が想像をするものと違っているんだったら辞めても良いんだぜ。こっちは遊びでやっている訳じゃぁねーんだしな」 
「誰も嫌って言ってないでしょ!!!」 
 悟のやる気の無い言葉に対してリリは思わずカッとなり、勢いよくガタッと音を立てながら立ち上がると同時にテーブルをバン!! と強く叩いた。 

 冗談ではない! 
 ここで引いて探偵、況してや警察に頼んだとしても事件は絶対に解決するとは思えない。 
 基本警察は事件が起こってからしか動かないのだ。 
 それでは遅すぎる。 
 何としても早くこの忌々しい事件を解決してもらわないと大変な事になってしまう。そうならない為にも……。 
「ねぇ、ちょっと落ち着いて。良かったら話だけでも聞かせて貰えないかな? ね?」 
 周囲から注目の視線を浴び中、莉乃は彼女に優しく宥めるように声をかけた。それに対してリリはハッとし、直ぐ様ソファにストンと座り直した。 
 暫くの静寂に似た沈黙が続き、そして彼女は意を決して口を開いた。 
「わたしは星野リリ。いまアイドルをやっているわ」 
「えっ!! 星野リリって、あの星野リリなの!? 清純派アイドルのリリちゃん!」 
 驚愕の表情をしながら莉乃は思わず声を上げる。だが素早い早さでテーブルから身を乗り出し、莉乃の口を手で防ぎながらリリはにっこりとした黒い笑顔で言った。 

「騒がないで。バレて騒ぎになってしまうでしょう?」 

「ゴメンナサイ……」 
 くぐもった声で謝りながら小さくコクリと頭を下げる莉乃を一瞥し、リリは手を離した。 
 確かに良く見てみるとアイドルの“星野リリ”そのものだ。 
 だが、すぐに気づかなかったのは今目の前にいる少女の雰囲気がテレビに映る時とは少し異なっているように思えた。 
 テレビでは素直で、明るく、純粋そうなイメージを持つ少女なのだが、目の前の少女はそれとは真逆の印象……気が強そうなそんな印象を強く莉乃は感じたのだった。 
「星野リリって……ソイツってそんなにスゲーのか?」 
 本人を目の前にしながら悟は怪訝そうな表情を浮かべる。そんな悟に対して莉乃はくわっと目を見開き、信じられないと言うような顔をしながら勢いよく悟に言い放った。 
「星野リリと言えば今話題NO1の超絶人気アイドルだよ!! ドラマ、バラエティ、そして歌声は天使かと言われるぐらいの綺麗な歌声で芸能界の中でもトップクラスのアイドルと言われているんだよ! 悟はテレビとか見てないの!!」 
「あー……俺基本的にテレビはニュース番組かアニメしか見ないからな」 
 悟は自信満々のドヤ顔でそう莉乃へとキッパリと答える。それに対して莉乃は、はー……とした深い溜め息をつき心底呆れた表情をする。 
「何なんだよ。その溜め息なんかスゲー感じ悪いぞ!!」 
「で、そのリリちゃんの依頼とは何かな?」 
 一人喚く悟をスルーしながら莉乃はさっさと話を本題へと戻す。多少の不服と理不尽さを感じながらも彼もリリの言葉に耳を傾けた。 
 そしてリリはそんな二人に向かって再び口を開いた。 
「ご存知の通りわたしは“清純アイドル”として活動しているわ。だけど……そんな中ある日、一通の手紙が届いたの。その手紙の内容は“きみは永遠に僕だけのものだ”そう記してあったわ。正直この手の手紙……ファンレターを貰ったのは初めてではなかったし、過激なファンの暴走か、悪戯だと思っていた……だけど……」 
 そう言いリリは顔を曇らせ、俯いた。 
「だけど違っていたの。それから手紙が届かなくなった変わりに知らないアドレスからメールが毎日届くようになって、それもわたしの仕事の内容……スケジュールを知っているみたいな素振りだったの。気味が悪くって当然アドレス携帯も全て変えたのだけど、それでもメールは届くし、番組の収録中にわたしと一緒に出ている共演者がケガをしたりするのよ」 
「ケガってどんなケガなんだ?」 
「軽い捻挫とか腕の骨を折ったりとか様々よ。だけどケガした人達は誰かに後ろから押されたと言っていたわ。他の人達は事故だと言ってあまり本気にしていなかったみたいだけど、わたしにはそうは思えないの……」 
 リリは視線を落としながらスカートの裾をぎゅっと握り、眉根を下げた。 
「それに夜わたしの部屋の近くに誰かがいる気配がするの……。わたし本当に怖くって……このままじゃぁわたし……」 
「それこそ俺達に頼むんじゃなくって警察に被害届を出すべきだろう」 
 瞳をぎゅっと瞑り、弱々しく言うリリに対して先程の表情とはうって変わって悟は真剣な表情で告げた。 
 確かに警察は結果的に述べても事件にならないと動かないのが現状だ。 
 だがこの2052年の現代は昔と違い、新たな法律が加わり、随分と改善されていた。
その為ストーカー犯罪に対する被害者の対応も以前とはだいぶ変わっていた。
警察へと被害届が受理されるとストーカー犯罪対策課の警察官が24時間体制で被害者を護り、加害者または犯人の証拠を掴み逮捕する事が基づいている。
また同時に加害者側にも警察官が隠れて監視をする事になっており、証拠、被害者に接触し気概を加えようとしたら現行犯逮捕出来るようなシステムが警察の方で事前に用意されてある。
だが、それでも誤認逮捕と言う恐れがある為確実に捕まるとは言いがたいのだが、基本警察はストーカー犯罪に対しての対策に全力を尽くすことを国から余儀なくされていた。
 目の前の少女が今人気絶頂のアイドルならばなおさらだ。警察に被害届を出せば良い。さすがに24時間監視体制で警察に護られていると知れば犯人側としても無用な手出しが出来ない筈だ。 
「ダメ……なの……」 
 リリは首を横に振り、力なく呟いた。 
 そして彼女は顔を上げ、必死な表情をしながら強く言い放った。 
「それじゃぁダメなの。何がなんでも絶対に捕まえて欲しいの!!」 
 それは悲痛に似た叫びに近かった。 
 それは強い意思と願いが込められていた。 
 そう感じ取った莉乃は不安気な顔をしながら悟の横顔をチラッと盗み見る。彼は両腕を組み真剣な表情で考えていた。 
 さすがの彼でもこの依頼は引き受けるだろう……。 
 そう思い感じていた。 
 だがその一秒後あっさりとその期待は裏切られた。 

「悪いけどこの依頼は無かった事にしてくれ」 

「はぁ? 何でよ! アンタわたしの話聞いていたの!!」 
「悟の人でなし!! この流れで断るなんって有り得ない!! 理不尽!!」 
リリと莉乃の二人は勢いよくガタッとその場から立ち上がり、悟を非難した。 
 莉乃はリリの話を聞き、おそらく感情的にリリ側についたのだろう……。 
 簡単な話。 
 要は彼女に同情をしてしまったのだ。 

 どっちが理不尽だよ……などと内心悪態をつくがきっと言葉に出すだけ無駄なので、それを飲み込み、彼は冷静な態度で話を切り出した。 
「まぁ、落ち着けって……取り敢えず座れよお前ら。今から説明すっからさ」 
 そう言われ二人はしぶしぶと再度ソファに座った。それを見、悟は再び口を開く。 
「断る理由は三つある」 
 悟は人指し指を作り、 
「まずは一つ目、俺らは二人でやっている。従ってお前を護れても、今後犯人の出方次第ではお前のファンの命までは護れない」 
「それって、どういう意味なの悟?」 
 不思議そうな顔をしながら横やりを入れる莉乃にあからさまに悟は呆れた表情をした。 
「バカ莉乃。例えば仮に犯人がライブ中に会場の中に爆弾を仕掛けたりとかしていたらどうすんだよ。それこそ警察の仕事だろーがよ。そんな事になってみろ最悪死人が出るぞ」 
「なるほど。確かにそうだね」 
 感心する莉乃を余所に彼はもう一本の指を立てる。 
「そして二つ目、こう言うのは意外とデリケートな部分がある。それに俺達に依頼すると料金が高い。ストーカー犯罪だからな。だから警察に任せた方が良い」 
 指を三本立て、真顔で真剣な声色で告げた。 

「そして三つ目、今ユカリたんファーストライブ抽選チケットをゲットするのに忙しいから無理」 

 暫しの沈黙。 
 やがてリリは苦笑いを浮かべつつもアイドル営業並みに可愛らしく悟へと再度問いかけた。 
「ごめんなさい。よく聞こえなかったからもう一度教えて貰っても良いですか?」 
「何度も言うが、ユカリたんライブチケットゲットするのに忙しいから無理だ」 
「じゃぁ、何で依頼承諾メール送ったのよ!」 
 悟の態度に苛立ちを覚えながらもリリは吠える。そんな彼女に対して悟は態度を変える事などは無く。 
「ごめんね。わたしが間違って送ってしまったの。悟が引き受けないとなると今回は無理かも……」 
 申し訳なさそうに両手を合わせリリに謝る莉乃にリリは自分のプライドが酷く傷つけられたように感じた。 
 それは莉乃に対してでは無く、悟に対してだ。
 依頼自体は引き受けてくれるかどうか正直なところ期待は半分半分だった。目の前の少年の言う事も分かるし、一応筋は通っている。 
 だけど、よりにもよって……。 

 (結局はわたしの依頼はコイツの趣味なんかの為に断られるの!!) 

 それはアイドルとして、これまで活動してきた自分に対する侮辱に近いものと感じるものだった。 

(だったらこっちにも考えがあるわ!!) 

 リリは一瞬黒い笑みを浮かべ、瞬時にとびっきりのアイドルスマイルを炸裂させながら桜色の唇を動かした。 
「ユカリたんってあのアニメの“魔法少女ユカリ”ですかぁ~?」 
「あ? そうだけど」 
「じゃ~ん!実はわたしそのライブチケット持っているんですよ。ちなみにわたしも今期のシリーズの挿入歌歌わせてもらう予定で、それでゲストとして呼ばれちゃったりしているんですよねー」 
 リリは何処からともなく取り出したチケットを悟の前に突き出して小悪魔のように微笑んだ。 
「依頼引き受けてくれたらコレ無料であげても……」 
 リリの言葉を遮り、悟は勢いよくテーブルに両手を着くと同時にガバッと頭を下げ、そして敬意を込めて彼女に強く魂を込めるかの如く言い放ったのだった。 

「リリ様、この依頼是非ともお引き受けさせて頂きます! 私めの事は犬と及び下さい!!」 

 それは素早すぎる程の掌返しだった。 
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