クライニング?セクニッション~天才でオタクな彼のラストストーリー

せあら

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彼の策略

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会議室の中で長机にアリーナ会場の全体の見取り図を、一人の若い茶髪で短髪の刑事……桐島は広げた。
彼を初めとして彼の右側から悟、梨乃、中年の刑事達が4人の刑事達がテーブルを囲むように会場の見取り図へと視線を落としていた。
この場には先程までいたライブ関係者、スタッフ達は既にいなくなっており、彼ら警察と悟達のみだけがその場にいた。
あの後、ライブ関係者の全体責任者である高杉からライブ開催の承諾を受け、悟達は会場内に仕掛けられている爆弾を撤去する為の作戦会議をこの室内でしていたのだった。

そんな中、好青年を思わせるような顔をした霧島(きりしま)は真剣な表情で会場内の説明をし始めた。

「まず、このアリーナ会場内は全部で6フロア存在します。今回ライブ会場となるフロアがアリーナホール会場となり、1、2階の全フロアを使用とした場所で、観客達3000人が収容出来ます。その3階から6階までの会場が飲食店、娯楽施設、様々なものが取り扱っています」

桐島は見取り図に載っている6階から3階のフロアを指で下へとなぞる様に動かす。

「爆弾が仕掛けられているとしても、この6階から3階までのフロアは仕掛けられてはいない。何故ならばこのフロアに仕掛けても意味が無いからです。ライブをぶち壊すつもりならば1、2階のアリーナホール会場のみに仕掛ける筈です。アリーナホールを潰せば自然に観客達は逃げ場を失うと同時に、この1、2階のホールはアリーナ会場全体を支えている中心となる柱が数十本あります。それを爆破してしまえば、この会場は一気に崩れてしまう危険性があります。さらに、」

桐島は一度言葉を切り、そして言葉を続けた。

「これだけの数の爆弾を設置するのは一人では難しすぎる。スタッフの中に不審な人物、内部犯がいる危険性があります。あと星野リリを直接狙う犯行の危険性がある場合がありますので、彼女宛の差し入れ、プレゼント類の確認、偽造した持ち物の中に爆弾を持ち込むケースもあるので、そちらも重点的に確認を行う必要性があります」

「そうだな。桐島の言うとおり6階から3階まで、わざわざ仕掛けんだろう。1階にある会場の中心となる柱さえ爆破してしまえば、自然に上の階にも影響し、逃げ出す前に潰れてしまう。それにこの会場全体のフロアに仕掛けるとなると、犯人にはかなり不利になる筈だ。もし内部犯がいるとしたら仕掛けている最中に、警察に見つかりでもすれば終わりだからな」

桐島の言葉に同意するかのように、一人の40代のベテランの刑事は眉間にシワを寄せながら、見取り図を凝視し、考えるような口ぶりで言った。
それに対して霧島は短く頷く。

「そうです。だからこのアリーナホールを重点的に爆弾の捜索をし、念のために会場の全フロアに一般人に気づかれないように警備員を配置し、またライブ中の星野リリの警護の方も強める必要があるかと思います」


「あのさ、悪ぃんだけどアリーナホールを重点的に調べたって、せいぜい爆弾が2、3個しか出てこねーと思うぞ」


桐島の台詞に水を指すように、悟は短い息を吐きながら呆れたように言った。その目は、お前ら馬鹿じゃぁねーのと、言いたげな視線で。
その目と言葉を聞き、桐島はピクリと眉を動かし、僅かに不愉快そうな視線を悟へと向けた。
元々桐島自身は種原悟を良くは思ってはいなかった。彼は自称天才高校生探偵だと言って、毎回のように警察の事件に首を突っ込んでいる。
しかもタチが悪い事に、彼の類希ない推理力でどんな難事件も解決に導き、その手柄は全て警察に渡していた。

いわゆる影の頭脳(プレーン)と言う存在。

普通ならば警察として例え高校生と言えど即戦力として欲しい人材であり、幼なじみの力とは言え、警察の人材をある程度自由に動かせる。その為警察の上層部達は、彼の能力を買っている節があると噂をされてはいるが、桐島自身はあまり面白くはなかった。

彼を嫌っているのでは無い。

彼を頼っている警察自身に対して嫌気が指しているからだ。

「そんな訳無いだろ!?犯人の目的が会場全体の爆破なら、このフロアの中心となる柱を爆破する事が一番確実だろう。それにまたお前は毎度、毎度警察の事件に首を突っ込むなとあれほど言ってるだろが!!」

そう、桐島は悟へと強い口調で怒鳴った。
その瞬間、

「わたしの悟に何か文句でもあるのかしら……ねぇ、霧島さん?」

絶対零度の空気を纏った梨乃は桐島へと顔を向け、言った。顔は笑顔だが目が全然笑ってない。

……お前殺すぞ……

そう彼女の目が物語っていた。それに対して桐島は強い恐怖と圧力に押しつぶされそうに、

「イエナニもナイです……」

と、答えるほかかなった。

そんな光景を無視し、頭をポリポリと掻きながら悟は何処か面倒くさそうに、
「あー……説明するとだな……」
そう言い、見取り図の近くにある赤色のペンを手に取った。
「まずはこのアリーナホールの数十本となるうちの左右の端にある柱、ここに爆弾を仕掛ける」
悟はアリーナホールの中心となる数十本のうちの柱の一番端の右と、左の柱へとバツ印を付けていく。
「そして3階の右奥の柱、それに続き5階の左奥の柱に設置し、」
3階の右、5階の左の端の柱にバツ印を付けた後、彼は6階のフロアの右端と左の柱へとバツ印を付ける。
「さらに6階の奥の右端と左端の柱に仕掛ける。そうする事で会場全体を最小限の爆弾によって簡単に爆破する事が可能となる。この3階から6階に掛けて飲食店を始め、娯楽施設が並んでいる。もし上の階で一個の爆弾が爆発した場合、火力を扱う店はこの会場内に必要以上に多い。その為仕掛けた爆弾に簡単に連動し、爆弾すると言う仕組みになってるんだよ」
「…………」
「だからそんなに大量の爆弾を仕掛ける必要も無いし、内部犯……つまり協力者を用意する必要は無い。それに向こうも分かってる筈だと思うぜ。アリーナホールの中心部となる柱に爆弾を仕掛けるのがバレるかもしれないって事ぐらい。それにこのアリーナホールの中心部の柱の何処かに一つぐらいカモフラージュで仕掛けているんじゃないのか?左右の爆弾を隠す為だけに。もしくはこの左右の二本の柱しか無い可能性もあるけどな」
「しかし種原のボウズお前何故、内部犯がいないとはっきりと断定できるんだ?」
ベテランの刑事の隣にいた、白髪に強面の顔をした中年の刑事の鷲尾(わしお)はそう怪訝そうな顔で悟へと疑問をぶつける。
以前から鷲尾と悟は何度も同じ事件に関わり、また彼は昔梨乃の父親と元同僚だった時期があった。その為悟と彼は面識があり、気楽に口を聞ける間柄とも言えた。
そんな鷲尾へと悟は当然のように、キッパリとした口調で答えた。

「ああ。だって本人が星野リリにそう言ったらしいぜ」

「「「「は?」」」」

暫しの沈黙。

そして梨乃以外の全員が大きくどよめいた。
「種原のボウズ、お前犯人もう分かってんのか!?」
「お前はそれを何でもっと早くに言わないんだ!!だったら、そいつを早く確保した方が早いんじゃないのか?」
「まぁ落ち着けよお二人さん。言わなかったのは意味がないからだよ」
「意味がない……?」
しれっと言う悟の言葉に桐島は眉をひそめた。それを見、悟は再び口を動かす。
「そうだよ。まだ証拠も揃ってないしな。それに、もしここで先に犯人を確保し、爆弾を処理したとしても再び星野リリを狙ってくる可能性は非常に高いだろう。あの手の奴ってかなりしつこいし粘着質が高いからな。それにもし、下手に刺激をしたらどうなると思う?最悪、犯人自身が自殺を図る危険性だってあるぞ」
悟は一度言葉を切り、スッと目を細め、冷たい瞳でその場にいた刑事達へと視線を向けた。
そして。

「警察としては、犯人の”自殺”ってもんは絶対に避けたいものだろう?警察の”汚点”になるかもしれない事だもんな」

その言葉に刑事達はそれぞれ顔を一瞬曇らせ、言葉を詰まらせた。
”犯人の自殺”と言うものは警察全体がもっとも恐れているものだった。
数年前までは”犯人の自殺”とは、 自ら命を絶つ行為であり、警察自体には何かしらの影響はなかった。
あるとしても世間からのバッシング、誹謗中傷ぐらいだった。
だがここ数年後に法律規制が変わり、警察は犯人を必要以上に追い詰め、過激な取り調べをし、犯人を自殺へと追い込む事が禁止された。
それは数年前、警察内で起きた容疑者の自殺の事件が大きく関わっていた。
それ以来法律規制法が変わり、容疑者、または犯人の自殺と言うものは警察の信用に大きく関わるものだった。
それは絶対に何があっても避けなければならないもの。
警察の一身に関わるものと言っても過言ではなかった。

図星を指された彼らを一瞬見やり、悟はいつものような気楽な口調へと変えた。

「まっ、だからさ。会場の爆弾をさっさと撤去して、のこのことこのライブ会場に来る犯人を捕まえれば良いんだよ。要は簡単な話なんだよ。星野リリが廃工場で襲われ、火事になったと言う報道はまだ流れていない。犯人はおそらく廃工場での火事の件をネットか何かでチェックをし、そして自分の計画を進めようとする筈だ」

「人気が無い廃工場で星野リリを焼き殺そうとしたのは……まさか、彼女の遺体発見を少しでも遅らす為なのか!?自分の計画を遂行する為に」

鷲尾はハッとし、そう口にする。
その言葉に悟はニッとした表情を浮かべた。

「まぁ、そーゆう事だよ。だからここは予定通り犯人の計画に乗ってやるってのが一番の最善策って言えんだよ。じゃぁ、取り敢えず早速このメンツで手分けして爆弾を探すとすっか」
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