クライニング?セクニッション~天才でオタクな彼のラストストーリー

せあら

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救いの手立て

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「爆弾!?」

リリの話を聞いたライブの関係者の男……高杉は驚愕した顔をしながら驚きの声を発した。
そんな高杉へとリリは真剣な表情で深く頷いた。
「そうです。この会場に爆弾が仕掛けられています……。わたしを拉致した犯人はそう口にしていました。だからこの会場にある爆弾を早く撤去しないと大変な事になります」

リリの真剣味を帯びた言葉を聞き、高杉は、彼女が事実を述べているのだと直感でそう感じた。
普通ならばライブを中止する為に自ら嘘をついている可能性を疑うが、彼女の瞳を見る限り、その可能性があるとは考え難かった。
そもそも、もし嘘をつくとしたらもっとマシな嘘をつくだろう。

「拉致って……やっぱり君はトラブルに巻き込まれていたのか……って今はそんな事を言っている場合ではないな。そうなるとライブ中止の公表と、警察にすぐに連絡をしないと……おい、スタッフ!今すぐライブ中止の公表をしろ!あと警察に……」

そう声を荒立てながら、他のスタッフへと指示を飛ばそうとする高杉へとリリは必死でその言葉を遮った。

「待って下さい!ライブを中止にしないで下さい!!」

「どうしてだ?ライブを中止しなければ、この会場は爆破されてしまうんだぞ。だったらさっさと中止にして爆弾を撤去し、犯人を捕まえる方が懸命の判断だと思うが」

「でも犯人はもしこの会場が爆破に失敗したら次の手を考えて、襲ってくるのだと思います。それも何度も、何度も、巧妙な手口を使って。だったら爆弾を全て撤去し、予定通りライブを行って、そこで犯人を捕まえた方が良いのではないでしょうか。それにわたしはわたしの歌を聞きに来てくれた人達をガッカリさせたくはありません。このステージで楽しんで欲しい」

リリは一度言葉を切り、そして懇願するかのような表情で強く言い放った。

「だからお願いです!このライブを中止にしないで下さい!!」

リリの言葉に会議室の室内ではどよめきの声が次々と上がった。
当然の事だ。普通なら観客たちの安全面を考慮し、中止にせざるを得ない状況の筈なのに、それを敢えてリリは自分の意思のみで押し通そうとしているのだ。
何を馬鹿な事を言っているんだと言われても仕方がない事だった。
そして、それを打ち破るかのように高杉は厳しい顔でリリを見、低い声音と共に口を開いた。

「だったら君は、その為ならば観客達が危険な目に晒されてもいいと言うのか?」

「それは……」

その冷たい口調にリリは思わず口ごもった。
それを鋭い眼差しで高杉は一瞥し、さらに言葉を続けた。

「君の言うことは、犯人を捕まえる為だけに観客達の安全性を無視し、ライブを行うと言っているに過ぎない。そこに観客達の安全性の配慮が一切されていない。それに君の観客達に楽しんでもらいたいと言う思いが今の状況で叶うとは到底思えない。そもそもこの広い会場で、幾つ仕掛けられているか分からない爆弾をどうやって撤去出来ると言うんだ?
全て撤去出来ると言う保証は?ライブを開催すると言うと言うことは、警察、鑑識、警護の大量の人数が必要になる。それだけの人数が動くと言う保証はどこにあるんだ?」

「…………」

彼の言葉はもっともなものだった。
彼の立場上、観客達の安全性を優先させなければならない。
会場に爆弾が仕掛けられているとなればなおさらだ。彼の判断は正しく、正当な判断とも言えるものだ。
きっとライブを中止し、爆弾を全て撤去したのち、犯人を捕まえた後にライブを開催すれば何も問題は無い筈だ。
だけど。
だけど……犯人を、時雨をここで止めなければ、きっと彼は昔の彼に一生戻れない。
どうしょうもなくそんな気がした。
だから彼女は眉尻を下げながら、再び必死な表情をし、口を開きかけた。

その瞬間。唐突に。

「だったら、その問題をぜーんぶ解決できりゃぁ問題ねーだろ?」

いつの間にか開かれた扉の壁際に背を預けた一人の少年……種原悟は気楽な口調でそう言った。

突然現れた悟へと、その場にいた全員の視線が彼へと注がれる。
そんな視線を気にもせず、悟は室内へと足を向け、踏み入れた。
そしてその後に続くように彼の後ろから数人の人物が室内に入って来る。
それはスーツを着た男性達であり、見るからに刑事達そのものだった。

「ここには刑事、爆弾処理班、鑑識、あとついでに200人程の警備員が動かせる。この人数で残された8時間内に会場に仕掛けられた爆弾を全て撤去する予定だ。アンタが言っていた観客達の安全性については既にこっちで対策は出来ている。それでも人数が足らないて言うとであれば、これからさらに増やす事は可能だ。で?どうする?これでも無理って言うのか?」

「君は一体何者なんなんだ……?」

警察を引き連れ、急に自分の目の前に現れたこの少年は一体何者なんだ……?
そう疑問と懸念を強く抱いた高杉は怪訝そうな顔をしながら、悟へとそう訊ねる。
悟は唇の端を歪め、意地の悪い笑をうかべながら、

「取り敢えず天才高校生探偵みたいなものだとでも言っておくよ」

そう高杉へと告げたのだった。
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