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第九章

9-8マスク

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 9-8マスク

 
 「マジですの??」

 「マジでござる」


 あたしたちは昨日宴で久しぶりにいろいろなものを食べさせてもらった。

 この村で栽培している野菜とかキノコとか、ロックリザードも味付けすれば意外と食べれると言う事を知った。
 そして一番驚いたのがあの光る植物、あの茎が食べれるというのだ。
 しかも食べるだけではなくその繊維を叩いてやわらかくすると糸にも出来それをもとに反物まで作れると言うのだから驚きである。

 しかし今あたしたちを一番驚かせているのは先ほどのベルトバッツさんのその言葉。


 「どんなに近道をしてもここからですと最低でも六十回は休息の時が必要でござるよ」


 この休息の時とは要は睡眠時間の事。
 どんなに頑張っても人間には休息が必要だ。

 だから定期的に休息を入れるわけだが迷宮の中には日夜の分別が無い。
 ましてこの階はずっと薄暗いけど明かりがあちらこちらにある。
 だからますます時間の経過がおかしくなる。

 感覚的にはもう一月以上この迷宮にいる。
 そして次の階に行くのに六十回寝ると言う事は‥‥‥

 第八層に行くだけで初めから数えると合計で三か月以上かかると言う事になる。

 あたしは肩を落としため息をつく。
 そりゃあ最初にショーゴさんに言われて覚悟はしていたけど流石にこんなに長い間ずっと迷宮に入った事なんて無い。
 でも今からじゃますます下に行くしか手段はないのだから大人しく『試練の道』に向かうしかない。


 「我がローグの村からも道案内を出すでござるよ。エリッツウィン、頼まれてくれるでござるか?」

 「おう、任されよ、無事お連れするでござる」


 そう言って道案内役をしてくれたのは最初にショーゴさんにつかまった人、名前をエリッツウィンと言う。

 なんか呼びにくい名前ね。

 「エルハイミ殿のおかげで一番問題であった水の確保が出来るようになったでござる。これなら寄り道しないで済むでござるからきっちり六十回の休息で着けるでござるよ」

 「え? もしかして水の確保が出来ませんともっと時間がかかるのですの?」

 「そうでござるな、少なくとも十回は余分に休息をとる羽目になるでござるよ」

 はっはっはっはとか笑っているけどそれって下手すると行って帰ってで半年近くかかるんじゃないの?
 あたしは改めてこの迷宮の大きさを実感していた。

 「それでは準備も整ったようでござる。エルハイミ殿、儂に付いて来てくだされでござる」

 そう言ってエリッツウィンさんは歩き出す。
 あたしたちはローグの村の人たちにお礼を言ってからみんなの見送りの中この村を旅立って行ったのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 「そろそろ休息をとるでござるよ、エルハイミ殿」

 「はぁあああぁぁぁっ、やっと休憩ですの?」

 あたしはそう言ってその場に女の子すわりで腰を落とす。
 イオマもシェルも同じだ。
 
 「足早いわよエリッツウィンはっ!!」

 「そうでござるか? これでもゆっくり歩いているでござるよ??」

 村を発ってから多分一月近くたっているはず。
 もう数えるのが面倒になってきた休息の回数だけど、まだまだ半分くらいって事か‥‥‥

 一休みしたら食事の準備と寝床を作らなければ。
 あたしはとりあえず水を飲み一息入れてから寝床のシェルターを作る。

 流石に男性が二人もいるのでついつい気を使う羽目になってしまった。

 エリッツウィンさんにしてみれば以後このシェルターは色々と使えるのでうれしいらしいが、ほぼ毎日作っているあたしは既に考えるのも面倒になっている。

 いつものシェルターを作って地面より少し高いベッドも作る。

 シェルは暇を見つけてはあのぽわぽわの茎を取ってきて何か作っている。

 あたしはイオマに保存していたお肉を焼いてもらって【創作魔法】で土鍋を作る。
 そして村でもらったキノコとかそこらへんに生えているあの茎を刻んでいれる。
 調味料とかも分けてもらったり、自生しているぽわぽわの中でも色によって味が違うのがありそれで味付けが出来る事をエリッツウィンさんから教わった。 

 ほどなく食事の準備が整う。
 
 はぁ~、最近なんだかいろいろとやる気が起きない。
 そんな事を思っているとシェルが今までせっせと作っていたものを持ってきた。

 「やっと人数分出来たわよ! 皆、食事の時と寝るとき以外はこれをつけてね!」

 見るとマスクのようなものだった。
 あたしはそれをしげしげと見ていたけど、なんでこんなものが必要なんだろう?

 しかしエリッチウィンさんはそれを見て「あっでござる!」とか言っている。

 「しまったでござる。当たり前すぎてすっかり忘れていたでござる! エルハイミ殿たちに胞子除けの布を渡すのを忘れていたでござる!!」


 胞子除けの布?
 何それ??
 美味しいの??


 既にあたしはそんな事も考えるのが面倒になっていた。

 と、シェルに口元をそのマスクで覆われる。
 そしてしばらくすると‥‥‥


 「あれ? ですわ??」


 なんかいきなり頭がすっきりし始めた。
 イオマも同じらしくきょろきょろとあたりを見渡している。

 「やっぱりそうだったんだ。最近エルハイミもイオマもおかしかったもんね。あたしやショーゴはマフラーやスカーフで影響が少なかったけど、これってやっぱり胞子のせいよねエリッツウィン?」

 するとエリッツウィンさんは片膝ついて頭を下げる。
  
 「申し訳ござらん、胞子の事すっかり忘れておったでござる。儂らローグの者は幼き頃より当たり前になっておりエルハイミ殿たちに注意を促すのを怠ってしまったのでござる」

 ああ、そう言えばこの胞子って吸い続けると無気力になるって言ってたっけ?
 だんだんと頭がはっきりしてきてやっと状況が理解できた。

 確かにこんなのじゃ魔獣たちもわけわからないまま誘導されるわけだ。
 毒があるわけでもないしシェルのマスクのおかげで正気に戻れたからもういいんだけどね。

 「エリッツウィンさん、もういいですわ。私たちもシェルのおかげで正気に戻れましたしですわ」

 あたしはそう言うがエリッツウィンさんは頭を下げたままだ。
   
 「しかし、エルハイミ殿にご迷惑をかけてしまったでござる、この失態、かくなる上は‥‥‥」

 ちょっと待って。まさかこれを苦に自害でもして詫びを入れよとかじゃないわよね!?
 あたしが慌てて止めに入ろうとするとエリッツウィンさんは左手をびっとだし腕まくりする。

 「かくなる上はこの左手にしっぺにてお詫びいたすでござる!!」


 って、しっぺかいっ!!


 思わず心の中で盛大に突っ込みを入れるあたし。
 しかしシェルは容赦ない。

 「そうかぁ、詫びを入れるのね、良いわ、あたしがしてあげる」

 にっこりとしてエリッツウィンさんに近寄る。
 エリッツウィンさんはやや怯えて脂汗をかき始める。
 にじりと下がるエリッツウィンさんの腕をさっとつかみシェルが悪魔の笑みをこぼす。

 「ひいいいぃぃ! い、痛いのは嫌でござる、お手柔らかにおねがいするでござるぅぅぅぅっ!!」

 「覚悟なさい! それっ!!」


 びしっ!


 見事にシェルのしっぺが決まる。
 とたんにエリッツウィンさんは涙目でしっぺを食らったところを押さえ痛みに悶え転げている。
 
 何故だろう、下手なケガよりこういったモノの痛みの方が痛く感じるのは‥‥‥

 哀れエリッツウィンさんはシェルのお仕置きでしばらく痛みに耐えるのであった。


 * * * * *


 「それでは先に休ませてもらいますわ」

 「ああ、ゆっくり休んでくれ、主よ」


 あたしはそう言ってシェルターの中に入る。
 既にイオマも中に入って休みの準備をしていた。
 
 シェルはショーゴさんと見張り番をしている。
 なんだかんだ言って今日も疲れたのでイオマの横で寝ようとすると‥‥‥

 「お姉さま、やっと来てくれた。最近マッサージしてもらってなかったんですもの、寂しかったですよぉ」


 え?
 マッサージ??
 そう言えば最近してなかったような気がする。


 「い、イオマ、今日は疲れたからもう休んで明日にしましょうですわ」

 「だぁ~め、シェルさんのマスクのおかげで頭がすっきりしてマッサージのこと思い出したんですからぁ~ ちゃんとしてくれないと寝かせませんよぉ~」

 イオマが既に上半身を脱ぎながら近寄ってくる。
 しまった、胞子のおかげで今まではうやむやになっていたのに正気に戻ってマッサージのこと思い出したかっ!?

 「さあ、お姉さまぁ~」

 「い、イオマちょっと待ってですわぁ~!!」

 あたしの叫び空しくイオマに強制的にマッサージをさせられるあたしであった。




 「むふふっ、やっぱりエルハイミはこうでなくっちゃだめね。マスク作った甲斐があったわ!」

 

 あとで気付いたけど何処からか声がしていたような‥‥‥
   
 
 
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