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第三章:新しい生活

3-5アルバイト始めます

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 トランさんたちがクエストの依頼を受けて出発をしてからすでに三日が経っていた。
 このクエストがいつ終わるか分からないので私たちは毎日部屋でぼぉ~っとしている。


「お姉ちゃん、ひまぁ~」

「分かってるわよ、そんなの……」


 最初の日はまだ部屋に閉じこもって大人しく出来たけど二日目あたりから暇で仕方ない。
 そう考えるとトランさんやロナンさんは良く私たちの面倒を見てくれていた。
 コモン語の勉強だって精霊魔法の練習だって時間があれば教えてくれたのだから。

「分かってはいたけど、部屋に閉じこもりってこの世界だとほんと暇ねぇ~。元の世界ならテレビとかゲームとかやり放題なんだけどね~」

「ああ、あたしまたゲームしたいなぁ~ そう言えば最後にしたゲームって何だったっけ?」

 ルラとそんなたわいもない話をしているとるとルラのお腹が鳴った。

 何もしていなくてもお腹は減る。
 だから私たちは起き上がり下の食堂に行くのだった。


 * * *


「うわっ! なんで今日はこんなにお客さんが多いの!?」

「ほんとだ、これじゃあたしたちの座る席も無いね?」


 見れば「赤竜亭」は珍しく満席だった。
 いつもは多くても私たちが座るくらいの場所はあったけど、今は予備の椅子まで出しているほどにぎわっている。


「おう、リルとルラか? 悪いが今忙しくてな、お腹が空いたなら勝手に厨房に入って適当に何か食ってくれ」

「いいんですか? 勝手に厨房とかに入っても??」

「お前さんたちなら構わんさ」

 亭主さんはそう言ってせわしくお酒を持って行ったり料理を運ぶのを手伝っている。

 家族経営のここ「赤竜亭」は奥の厨房で奥さんが料理を作り、看板娘の上の娘さん、レナさんがオーダーを取っている。
 下の妹さん、アスタリアちゃんも手伝っているけど、何と同じ年で今年成人したばかりだそうだ。

 そんな忙しい中、私とルラは厨房に入って行くとそこは修羅場だった。


「はい、あんた出来たよ!」

「おう、次頼む!!」


 厨房に立つおかみさんは大忙し。
 レナさんもアスタリアちゃんもお料理やお酒を運ぶので大忙し。


「ねえ、お姉ちゃんこれってさぁ……」

「うん、放ってはおけないかもね……」


 私とルラは顔を見合わせ頷く。
 勝手に何か食べろと言われてもこれでは落ち着いて食事なんかできない。

 私とルラは腕まくりをして厨房へと手伝いに入る。


「ルラはお皿の洗い物手伝って、私はおかみさんの手伝いに入る!」

「うん分かった!」


 言いながら亭主が下げてきたお皿をルラは受け取りすぐに洗い場で洗い始める。
 そこには山の様な洗い物があったけどルラは小声で叫びながらどんどんと洗い物をしてゆく。


「うぉおおおおぉぉ! あたしは皿洗い『最強』!!」


 ルラがどんどんとお皿を洗って行くので洗い場のお皿の山はどんどんと減ってゆく。

 私はおかみさんが炒め物をしているのを見て野菜を切るのを手伝う。


「おかみさん、手伝います。野菜切りますから指示してください!」

「リルちゃん? 助かるわ、じゃあそれとこれ、一口大に切ってもらえる?」

「分かりました!」


 言われた野菜の皮をむいて私はどんどんと切って行く。
 そしておかみさんは次々と指示を出してくれるので私もペースを上げてどんどんと野菜を切って行く。

 そして手が空いたら私もフライパンを握って炒め物を手伝う。


「ほんとリルちゃんが手伝ってくれて助かるよ、ああ、つぎは煮込み料理ね」

「はい、調味料とかどこですか?」


 そんなこんなで私たちはどんどんと手伝って行くとだんだん大騒ぎが収まって来る。

 
「ふう、山は越えたわね。リルちゃんにルラちゃんが手伝ってくれたおかげでオーダーも間に合って来たし、洗い物に入らなくて済むからホールの運搬も助かるわ」

「ふえぇ~、リルちゃんとルラちゃんすごい!」

 厨房を覗き込むレナさんとアスタリアちゃんは亭主さんが出した飲み物を飲んで一息つく。
 おかみさんもいよいよ最後の料理を仕上げて亭主さんに渡す。


「はいよ、これで注文が有るのは最後だよ!」

「おう、じゃあ持って行くな」


 厨房から出す小窓から料理を受け取って亭主さんは運んで行く。
 それを見てから私とルラは大きくため息を吐く。

「はぁ~終わったぁ~」

「取りあえず落ち着いたみたいですね?」

 二人してそう言うとおかみさんがコップに飲み物を入れて持って来てくれる。

「はいよ、ありがとうね助かったよ」

「ああ、ありがとうございます」

「わーい、果物ジュースだ!」

 おかみさんから飲み物を受け取って私たちはそれを飲む。
 そして額に浮かんだ汗をぬぐう。


 うーん、何なんだろう、この充実感?
 なんかやり切ったぁーって感じがもの凄くする。


「おう、リルにルラお疲れさん。助かったよ。そうだ、二人とも飯まだだったな? おい、二人にもまかない飯出してやってくれよ、お代は要らないからな」

「まかない飯? なんですかそれ??」

「ああ、リルちゃんとルラちゃんは知らないか。お店の料理には出さない私たちが食べる分のお料理よ。実はこれがうちでは一番おいしいの」

 小窓からこちらを覗き込んでいるレナさんがそう言ってくる。
 すると厨房に下げたお皿を持ってきたアスタリアちゃんもにっこりという。

「お母さんの作るまかない飯は数が作れないからね、でもすごく美味しいから食べていきなよ」

 アスタリアちゃんもそう言うのだからこれはちょっと期待して良いかな?


 ホールの方は俺が見ておくからみんな先に喰ってくれと亭主さんが言ってくれるので小さな丸椅子を四人分引っ張り出し、おかみさんは向こうの方にあるお鍋からそれをお皿に乗せて私たちに手渡してくれる。


「おおぉ! 今日はお母さん特製のロールキャベツだ!」


 なにやらアスタリアちゃんが目を輝かせ喜んでいる。
 するとパンを配ってくれていたレナさんもにこやかに椅子に座りながら喜んでいる。

「本当だ! リルちゃんルラちゃんラッキーだったね。これお母さんが作る料理でも上位に入るのよ!」

 フォークとスプーンも手渡され私はそのロールキャベツを見る。
 生前の物と見た目は同じなんだけど、ベーコンらしきものがまかれている。
 
 レナさんとアスタリアちゃんはさっそく食べ始めている。

 私とルラもそれを見て顔を見合わせてから「いただきます」と言って食べ始めると……


「なにこれ!? 美味しい!!」

「ほんとだね、お肉も入ってるけど柔らかくて脂っこく無いからどんどん行けちゃう!!」


 驚いた。
 生前食べたロールキャベツと次元が違う。
 
 よく煮込まれたそれはフォークで簡単に切り取れる。
 中に詰まったお肉も野菜が混ざっているらしく柔らかくとってもジューシー。
 一体どんなスープで煮込んだのか、コンソメとかそう言った単純なものでは無くもっとふくよかで複雑な味がする。

 私とルラは無心になってそれを食べる。

 ほんと、こんなおいしいものはこっちの世界に来て初めてだった。
 確かにここ「赤竜亭」のお料理は他のお店から比べても美味しいけど、このロールキャベツはとっても家庭的な味がして美味しい。

 気が付けば私とルラはそのロールキャベツを全部平らげていた。


「お、美味しかった…… こんなおいしいもの食べたの初めて……」

「本当だね! 美味しかったぁ~。お肉も食べられてあたし大満足!」


 まかない飯恐るべし。
 いつも食べているお料理が色あせるほどだった。

 と、私はふと思う。
 こんなおいしいものをレナさんやアスタリアちゃんは毎日食べている?

 お金を払っても私たちも食べたいと思う程のものを毎日?


「ご馳走様。ふう、美味しかった。あれ? リルちゃんどうしたの?」

「あ、あの、レナさん、これってお金払うから明日から私たちにもまかない飯食べさせてもらえませんか?」

 ぐっとフォークを握りながらそうレナさんに言うと苦笑しながらおかみさんに聞く。

「どうするお母さん? リルちゃんたちがそう言ってるんだけど?」

「うーん、まかない自体は時間かかる物ばかりだからねぇ。お客の食事の時間ともずれるしねぇ~」

「そうだ、リルちゃんもルラちゃんも毎日暇って言ってたよね? だったらうちで働かない? 今日みたいのって多分ここしばらくは続くだろうから忙しいしね!」

 アスタリアちゃんがそう言って両の手を叩く。
 私は首を傾げおかみさんを見る。

「そうだね、もしよければ手伝ってもらうと助かるね。今は『鋼鉄の鎧騎士祭』の最中だからね。それを目当てで観光客も増えてるし、酒場の方も連日忙しくなるしね。勿論まかない飯はただで食べさせてあげるよ、どうだい?」

 それを聞いて私とルラは顔を見合わせて頷く。

 まかない飯が食べさせてもらってしかも暇もつぶれる。
 こっちの世界のお料理も覚えられそうだし、これは受けるしかない!


「分かりました! じゃあお願いします!!」

「わーい、これで暇がつぶれるねお姉ちゃん!」



 私とルラはここ「赤竜亭」でアルバイトをする事になるのだった。 

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