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第五章:足止め

5-10そこに語られていたモノ

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 祭壇と思しきそこには竜をかたどった御神体の様なものが有った。


「竜の神様?」

 私はそれを見上げそう思った事を口にする。
 するとカリナさんは首をかしげる。

「ジマの国は黒龍様を守護神として崇拝はしているけど、なんでこんな山奥に?」

「それにジーグの民がいたなんて、一体こりゃぁ……」

 私と同様カリナさんやザラスさんもそれを見上げるも、ネッドさんはもう一度あのレリーフを見ている。


「古代魔法王国以前の古代文字…… 何が書いて有るか分かりませんがこれは……」


「黒龍様ではあるようですが、あれは何でしょうか?」

「ん? あれは水晶か?」

 ネッドさんがもう一度レリーフを見ているとリュックスさんとトーイさんが御神体の竜の右手に抓まれている水晶に気付く。
 それは手の平に収まりそうな位の大きさだった。

「御神体も奇麗に掃除が行き届いている。黒龍様を憎んでいるジーグの民が掃除でもしていたって言うの? なんで?」

「そりゃぁ有り得ないだろう? だってジーグの民は黒龍様を恨んでいるんだろ?」


「だけど、それじゃあ誰がここの清掃を?」


 カリナさんは腰に手を当てもう一度御神体を見る。
 すると何やら眉間にしわが寄って来る。


「ねえ、黒龍様って角の形あんなんだったっけ?」


「角? いや、そんなの覚えてねえよ?」

「角なんか気にした事無いが……」

 カリナさんは目を細め御神体を見ながらそう言う。
 トーイさんもザラスさんも首をふるふる振りながら答えるけど、ルラが声を上げた。


「あー、確かにコクさんの角って途中で分かれてたね! この竜の角は分かれてない!」


 まるで間違い探しのようなそれにやっと気づいた私たちは角を見ると確かにストレートの角だった。
 コクさんのあの頭の上についている角は鹿の角のように分岐していてた。


「カリナ、これはもしかして黒龍様ではないのかもしれません。もう一度レリーフを見るにもしかしてこれは黒龍様の娘、ディメア様ではないでしょうか?」


 注意深く今までレリーフを見ていたネッドさんはそう言う。
 するとカリナさんはその理由を聞く。

「ネッド、何故そう思うの?」

「このレリーフです。黒龍様から生まれたディメア様は人の姿形をしていたもののドラゴンニュートにしてはドラゴンの要素を強く残していたようです、ほら人型なのに角と尻尾がある。今の黒龍様と同じような人型のお姿だったのかもしれません」

 ネッドさんにそう言われ見ると確かに黒髪の女性とコクさんらしき竜から生まれた人型の少女には角と尻尾が有った。

 そしてそれが成長して女性の姿になったモノにも確かにストレートの角と尻尾が有った。


「それじゃぁ、この御神体ってコクさんじゃなくてその娘さんのディメアさんって事なんですか? でも何故竜の姿に?」

「クロさんとクロエさんが竜の姿になりましたよね? ドラゴンニュートは竜の姿にもなれます。ですからここに祀られる姿も竜の姿になったのかもしれません」

 私の疑問にネッドさんは顎に手を当てながらそう言う。

 確かにクロさんもクロエさんも竜の姿になったのは見た。
 ドラゴンニュートであるあの二人は竜の姿になれるのだから同じドラゴンニュートであった娘さんだって竜の姿になれるのは当然だろう。  
 
  
「じゃあ、ここってコクさんを祀った場所じゃなく娘さんのディメアさんを祀った場所って事ですか?」

「しかもここを代々守って来たのがジーグの民って事になりそうね……」

 カリナさんはそう言ってもう一度祭壇を見る。
 そして祭壇のあの竜のご神体に近づく。

 祭壇の上にある竜のご神体は近づいてみると目の高さくらいの台の上にある。
 石か何かで作られたそれはとても古いはずなのに小ぎれいになっていて埃一つ付いていない。

「せっかくだからこれは頂いて行きましょうか」

 そう言ってカリナさんは御神体の竜が右手に持つ水晶に手を伸ばす。
 冒険者の悪い癖だなとか思いながらもそれをやめさせる謂れもないし、私は黙ってその様子を見ている。

 カリナさんはしばし悪戦苦闘しながらその右手に捕まれた水晶を取る。
 
「よっと、あら簡単に取れないわね…… くっ、このっ、よっし、取れた! 他には……」

 更に何かないか探すカリナさんだったがここでカリナさんが手にした水晶が輝きだ出す。


「え? ちょ、ちょっとカリナさん、それっ!」



 いきなりな事にカリナさんはまだ気づいていなかった様だけど私は慌ててそう言うとその水晶は更に輝きを増すのだった。
  
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