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第五章:足止め

5-21一品目

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「という事で、『和食』風のお料理を作ろうと思います!」


 わ~。
 ぱちぱちぱち~。


 私の宣言にルラが歓声を上げながら拍手をしている。
 ルラだけ。


「リル、その『和食』って何よ?」

「聞いた事がありませんね、その『和食』という料理は」

「まあ何でもいいや。で、俺らが出来る事ってあるのか?」

「山に行って動物を狩って来いとかなら手伝えるぞ?」


 カリナさんもネッドさんもトーイさんもそしてザラスさんも私の話は聞いていてくれるようだけど首をかしげる。
 和食と言われても知らないのが当たり前なのでもっともではあるのだけど、あくまで和食風であってちゃんとした日本料理は私だって習ってないので良く知らないのがある。

「取りあえず『和食』って言うのは素材の味を優先的に味わう料理ですね。ローストビーフのわさびを付けて食べる技法みたいなもんですよ」

 私がそう言うと皆さん何となく理解したようだ。


「へぇ、だとすると私らエルフにも食べやすそうね?」

「いっぱい食べられるかなぁ? あたしお肉食べたい!」


 カリナさんやルラはすぐに反応するけど、トーイさんたちは反応が薄い。


「素材の味ったってなぁ、肉に塩でもかけて焼いて食う感じか?」

「我々の食事スタイルは複数の素材を合わせて食べるものが主体ですからね。錬金術の様なものです」

「あんまりあっさりしていてもなぁ」


 うーん、流石に男性陣はさっぱりよりこってり派が多いかな?
 でもそうすると最初はそんな皆さんが満足しそうなモノを考えなきゃかぁ……

 全員が完全に満足するようなモノを作るのは難しい。
 誰だって好き嫌いはあるだろうから。

 だとすると和食でこってりでいて、それでもさっくりと食べられるようなモノって……


「さっくり?」


 思わず私は声を出す。
 さっくりと言う感じは油で揚げたような食べ物。
 ここジマの国は海の幸、山の幸が豊富だった。

 それのその味を楽しみながらさっくりと食べられるものって……


「そうだ、最初は『てんぷら』行ってみましょうか!!」


「『てんぷら』? 何それブラジャー? 乳あての事??」

 思い切りボケをかましてくるカリナさん。
 ルラは自分の胸をペタペタと触っている。


 何故ルラまでボケる!?

 と言うか、カリナさんはブラしてるけど私もルラもそこまで大きくないからノーブラでしょう―に!?


「違います! 『てんぷら』ってのは小麦の粉を素材の周りに付けて油で揚げた食べ物です」

 大人のカリナさんをちょっとうらやましく思いながら私は何となく自分の胸を押さえる。
 これってちゃんと大人になれば大きく成るのだろうか?
 せめて生前くらいの大きさにはなって欲しいのだけど……


「油で揚げる? おお、フライか!! あれは美味いもんな!」

「フライかぁ、最近食べてないもんなぁ。大量に使う油なんて贅沢そうそうできないもんなぁ」

「フライですか、確かにご馳走ですね」


 男三人衆はつばを飲み込みながら思い思いにフライを思い描いている様だった。
 確かにフライも美味しいけど今回はもっとシンプルにてんぷらなので私は早速料理長のリュックスさんに相談に行くのだった。


 * * *


「フライですか?」

「いえ、『てんぷら』です。フライよりもっと簡単ですけど素材の味がはっきり出る料理です」


 私の説明にリュックスさんはややも首をかしげる。
 まあ、この世界にも油で揚げる料理はあるけど通常はフライがメインだ。
 それも周りに小麦粉をただ付けただけの素揚げに近い。

 ただこれをすると脂が凄く汚れるのであまりやりたがらないし、料理用の油って貴重だからなかなかお目にかかれない料理らしい。


「王族の方や黒龍様にお出しする事もありますからここでも作れますね。で、どのような素材が必要なのですか?」

 リュックスさんは既に乗り気だ。
 私はとりあえず魚とエビ、そして旬の野菜を選定する。

 そしてリュックスさんにお願いしてお茶の葉と岩塩を細かく砕いてパウダーに近いくらいにまでしてもらうようにする。

「あ、それとあの魚醤と白ワイン、お砂糖、少量の水でつけ汁も作ります。軽く煮え立たせて作ってみてください」

 本当は出汁とか取りたいけど魚醤なので魚の味が出るからいいだろう。
 それに日本酒も無いから代用で癖の少ない白ワインで味を調えてもらう。

 つけ汁や岩塩、紅茶塩、後は焼き塩なんかも作っておいていよいよ油で揚げる粉を準備する。

 リュックスさんにパンやケーキを作る小麦粉をお願いして出してもらい、塩をほんの少し入れて冷たい水を入れる。
 ワザと玉が出来るようにさっとかき混ぜ準備完了。

 油は何と菜種油やゴマをすりつぶして絞ったゴマ油なんてのが有った。
 流石王城、市場ではなかなか出回らないモノなんかも置いてある。

「コクさんや王様に食べてもらうからちょっと贅沢な使い方してもいいよね?」

 私はそう言いながら鍋にごま油や菜種油を混ぜて入れる。


「おおっ! 凄い油の量、贅沢だな!!」

「こんなに油を使うとは、ちょっと期待しちまうな!」

「フライを最後に食べたのは何時でしたっけ? これは楽しみですね」

「リル、こんなに油使って…… 私たちエルフが食べても胸焼けしないでしょうね?」


 横でずっと私たちが料理の準備をしているのを見ていたカリナさんたちがそう言う。
 確かにゴマ油なんかはリュックスさんの話では香り付けで少し入れるくらいしか使わないのでこういう使い方は驚きだそうだ。
 カリナさんの心配も分かるけど、てんぷらって意外と油の良いのを使えば胸焼けしないモノだ。

「大丈夫ですってばカリナさん。さてと、じゃあ最初はお野菜から行ってみましょうか?」

 私はそう言って市場で買っておいたタケノコを取り出し皮をむき奇麗にしてややも薄切りにしてさっと衣の粉にくぐらせ油鍋に入れる。

 しゅわぁ~!

 タケノコを入れる前にくしの先にちょっとだけ付けた衣を垂らして油の温度状態を見るけど、ぽたりと落ちた衣がすぐにしゅわっと揚がれば準備完了。
   
 タケノコは見事にふわっと衣をさせながら奇麗に揚がる。
 それをトングですぐに裏返して衣がサクサクに固まった頃にトングで挟んで準備していた紙の上によく油を切ってから置く。


「こんなに早く油から出していいものなのですか?」

 リュックスさんは驚き私に聞くけど、素材に熱が通るか通らないかで揚げると一番おいしいはず。
 熱が加わり過ぎると素材の味が落ちてしまうので、てんぷらを作る時に一番注意が必要な所だ。

「えーと、とりあえずタケノコの味を楽しむためにギリギリ熱が通ったくらいで油から揚げてます。そうですね、まずは岩塩で食べてみるのが良いかもしれません」

 言いながら揚がったタケノコを差し出す。
 すると早速ルラがフォークで刺して岩塩をちょっとつけて食べてみる。


 さくっ!

 もごもご
 ごっくん!


「うわぁ、衣がサクサクでタケノコも柔らかい! お姉ちゃん塩で食べると意外とさっぱりなんだね?」

「でしょう? さあ、皆さんもどうぞ」

 私がそう言ってタケノコを進めると皆さん顔を見合わせてルラと同様にタケノコにフォークを突き刺す。
 そして岩塩をつけて口に入れる。


 さくっ!

「!?」


 口に入れてサクサク食べるみなさんは驚きに目を見開く。


「なんだこれ? 油で揚がっているのにそれほど油っこくない?」

「それにこのタケノコってやつ、味は強くないけど癖が無くて柔らかくて美味いぞ!?」

「これは凄いですね」

「な、なにこれ? 美味しい!」


 結構たくさん作ったのでトーイさんやザラスさんは二個目に手を伸ばしている。
 ネッドさんも驚きの表情で次のに手を出しているけど油っこいのを嫌っていたカリナさんは半分かじった残りを慌てて口に入れて争奪戦に加わる。

 あ、勿論ルラも二個目に手を伸ばしている。


「なるほど、素材も衣も油を吸ってもこのサクサク感でしつこさが半減しているのですね? しかもシンプルに岩塩で食べる事により素材と衣の味わいがより鮮明になっている」

 リュックスさんはカリナさんと同じく半分だけ口にしてその嚙み切った断面を確認している。
 流石は料理長。
 こう言った所は細やかに確認をしている。

「えーと、後はお好みでもっと油を落としたいときはこのつけ汁にくぐらせてください。本当は抹茶塩が欲しかったのですが紅茶塩でも香りが変わって面白いと思いますよ? それと焼き塩は本当に微妙な味の差が生まれるのでそれを楽しむのも良いですよ」

 言いながら私はつけ汁にタケノコのてんぷらをさっとくぐらせ口に運ぶ。


 さくっ!


 ずっとつけ汁に付けているわけではないからサクサク感はちゃんと残っている。
 でも表面の油をつけ汁で流すので油っこさがさらに減る。
 そして魚醤と言う事もあり魚の出汁と甘じょっぱいたれがご飯が欲しくなる味わいだ。
 ごま油の香りもしてもうほとんどお店の味だった。


「凄いなてんぷら! このつけだれも美味いぞ!」

「いや、俺はやっぱり塩がいいな!!」

「この紅茶塩と言うのもなかなかですよ?」

「あら、つけ汁にくぐらせると更に油っこさが無くなって食べやすい! 私、これ好きかも」


 皆さん次々とつけ汁や紅茶塩なんかも試している。
 そんな中リュックスさんフォークを置き私を見る。

「リルさん、これは確かに美味しいですがこれだけでは流石に物寂しいですね」

「ああ、大丈夫ですよ。てんぷらは野菜の他に魚やエビなんかも油で揚げますからね。少しずついろいろなモノを油で揚げてみますから試してみましょう」



 私はそう言いながら次々と食材を揚げて行くのだった。
 
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