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第十章:港町へ

10-7無いならば作れば良いじゃないか!

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「お待たせ、うちの看板メニューだよ」


 そう言ってハッドさんは料理を持ってきた。
 私はそれを見て首をかしげる。

「これって、シチューですか?」

「まあシチューみたいなもんだけど、新鮮な野菜と少量の肉類を入れてあっさり味に仕上げているんだ。とろみが出るように工夫しているのがポイントかな? 一緒にパンなどに付けて食べてみてくれ」

 そう言いながら籠にパンも持って来てくれる。
 見た目がポトフよりは粘度がありそうな感じだけど、お味の方はどうかな?

「えへへへへ、それじゃぁいただきまぁ~す!」

「うん、いただきます」

 ルラは早速スプーンを取り上げそれをすくい上げ口に入れる。

「ん~、意外とさっぱりかな? お野菜がたくさん入ってるからいろんな味がして美味しい」

 この子は野菜嫌いの気があるけど、それでもこうした料理は食べている。
 私もそれを口に運んで驚く。

「こ、これってあんかけそっくり。このうす味に仕上げているのも!」

「どうだい、これで一杯銅貨三枚でやってるんだからいいだろう? この店の一番の売れ筋で懐が厳しくても旨く食えるんだ」

 リンガーさんはそう言ってパンにそのシチューみたいなあんかけを付けながら食べ始める。
 私もパンを手に取って付けて食べてみるけど、シチューと違って優しい味わいが良い感じ。
 ポトフよりも粘度があるので食べた時の満足感もある。

「ここイーオンは貧乏人が多いからな。うちも極力安く提供するにはこう言った料理を出すしかないからな」

「いや、ハッドのお陰でみんな助かってるよ。それにこれなら毎日食える味だしな」

 確かに素朴で味も濃くないし、野菜も豊富だから毎日食べても飽きは来ないだろう。
 しかもトロトロのあんかけ。
 これってご飯にかけて食べればほぼ中華丼だもんね。


「ん~、美味しいけどちょっと物足りないなぁ~」

「うん、あんかけだからご飯とか麵があればもっと良しくなるのになぁ…… そうだ!」

 正直トロトロのあんかけは好きなんだけど、それだけってのは流石に物足りない。
 パンがあるにはあるけどやっぱり違う。

 なので私はハッドさんに聞いてみる。

「あの、ここってパスタとかの麺類って有るんですか?」

「パスタ? なんだいそれは??」

 ハッドさんに聞いてみてみると首をかしげている。
 どうやらこの辺ではパスタが広まっていない様だ。

「えっと、小麦粉を水と卵、塩を入れて練り上げて平たくして細切りにした紐みたいな食べ物です」

「ん~、隣のイザンカか何処かで聞いたような気はするけど、この辺じゃ見かけないなぁ」

 ハッドさんはそう言って首を振る。
 うーん、せっかくのトロトロあんかけがると言うのに。
 せめて麵にかけて食べられればかなりの満足感になるのになぁ……


「って、そう言えばリンガーさんはガリーの村にはよく行くんですよね?」

「ん? そうだけど」

 だったら小麦の入手は容易のはず。
 あの村、ドーナッツで使用する為に大量の小麦の生産をしている。
 だったら。


「あの、ちょっと厨房使わせてもらえませんか? もしかしたらこのイーオンの町の名物になるかもしれませんから」


 私がそう言うとリンガーさんとハッドさんは顔を見合わせるのだった。


 * * * * *


「皿うどん?」


「はい、名称は皿うどん。このトロトロのあんかけをかける事によりとっても美味しくいただける一品です!」

 これだけのトロトロのあんかけ、これにあげ麺があれば確実に美味しいはず!
 私はポーチから小麦粉を取りだしてボールに入れて、塩とお水で練り始める。


「パイでも作るつもりかい?」

「ん~ちょっと違いますね。これをこうして、少しねかしてっと」

 練り上がった生地を濡れたナプキンで蓋をしてしばらく放置する。
 そしてその間に油を取りだして揚げる準備をする。


「油料理かい? まさかドーナッツを作る気じゃないだろうな?」

 リンガーさんのその言葉に私は嫌な顔をしている。


「すみません、リンガーさん。ドーナッツはもう当分見たくも無いんですよ……」

「あ、ごめん……」


 流石にガリーの村で何があったか知っているリンガーさんはバツが悪そうに視線を外す。
 そう、あの村であったドーナッツ大会に巻き込まれた者のみ知るあの過酷な大会。
 本来美味しくいただけるはずのドーナッツを見たくもなくなる羽目になるとは!

 私は思わず拳をぐっと握って目を閉じて震わせてしまった。


「で、この後どうるんだい?」

「ああ、そろそろ良いですよね。じゃあここに片栗粉を少しまいてっと」

 過酷なあの大会を思い出しているとハッドさんが聞いて来た。
 私はハッとなって、そう言いながら大きめのまな板の上に片栗粉を振って生地がくっつかないようにする。
 そして生地を麺棒で伸ばし始める。


「なんか、ますますパイ生地でも作るかのようだな」

「うーん、確かに薄めに伸ばした方が良いですからね」


 そう言いながら程よい薄さになったら何回か折り曲げて、端から包丁で細切りにしてゆく。
 そしてそれを軽くもみほぐし、ひと玉ひと玉に分ける。


「なんだいこれは? パンでもないし……」

「これを茹でて食べても良いんですが、皿うどんと言ったらこうですよ!」

 私はそう言ってそのひと玉を油に入れる。


 じゅわぁ~!


 麺はじゅわ~っという音を鳴らしながらぱちぱちと泡を立て揚がってゆく。
 たまに裏返してこんがりきつね色になるまで油で揚げる。
 そして揚がったらよく油切りをしてお皿に載せる。

 そして先ほどのあんかけをもう少し塩味を強くしてもらっておいたものをかける。


 ぱちぱちぱち


 まだ熱々なので、揚げ麺にあんかけをかけるとぱちぱちと好い音がして良い香りが漂う。


「これは……」

「なんかすっげーいい匂いだな!」


 ハッドさんもリンガーさんも皿うどんを目の前にしてその香りに驚く。

「シンプルですが、こうして食べると美味しんですよ。本当はあんかけに魚のすり身を油で揚げたものを細かくして入れるともっと美味しんですけどね」

 本物の皿うどんはもっとがたくさん入っているけど、一番の売りはこのぱりぱり麺に熱々のとろ~りあんかけ。
 香ばしさの中にも油で揚げる事により満足感がふくれ、優しい野菜たっぷりのあんかけがたまらない。


「おいしそぉぅ~」


 既にルラなんかよだれを垂らしている。
 うんうん、この香ばしい香りが食欲をそそるのよね!


「じゃあ、さっそく食べてみましょう!」




 私たちは早速みんなでフォークを手に取り試食を始めるのだった。 

 
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