200 / 437
第十章:港町へ
10-13船会社
しおりを挟む「う~ん、なんか荷馬車がいっぱいだねぇ~」
「うん、交易が盛んな港町っぽいからなんか忙しそうだね」
アスラックの町に入って通りを歩いている。
道行く人に定期便の船会社の場所を聞いてそこへ向かっている。
とにかく定期便に乗せてもらってサージム大陸に渡ろうと思う。
サージム大陸まで行けば私たちの住む「迷いの森」、エルフの村にもあと少しで帰りつくことが出来るだろう。
そんな事を思いながら教えてもらった船会社まで行く。
「ここが定期便を出している船会社か…… ギルドや教会の紹介状もあるから無事船に乗せてもらえるとは思うけど」
そう言いながら船会社の扉を開ける。
するとそこは広間になっていて奥にカウンターがあった。
なんか生前の銀行のようで、奥の方には机がいっぱい並んでいてスタッフの人と思われる人たちが忙しそうに右往左往している。
カウンターの上に窓口と書かれた場所があるのでそこへ行ってみる。
「こんにちは、あの定期便に乗ってサージム大陸に渡りたいのですけど……」
「はいはい、渡航希望の方ですね? 定期便でしたら今からちょうど一週間後にサージム大陸行きが出てますよ。乗客として乗船されるならこちらが料金表になります。荷物の搬送でしたらあちらの窓口へお願いします」
カウンターの向こうにいるお姉さんはテキパキとその内容を教えてくれる。
どうやら乗客として乗る分にはお金を出しさえすれば問題無く乗れそうだ。
「えっと、乗客としてお願いします。あ、それとこう言った紹介状があるんですが……」
私は一応魔法のポーチからユエバの町の冒険者ギルド、ギルドマスターのカーネルさんと女神信教のバーグ神官からもらった手紙を出す。
すると受付のお姉さんはその封印を確認してちょっと驚いてから「少々お待ちください」と言って奥へ行ってしまった。
そして待つ事しばし。
「お待たせしました。どうぞこちらへ」
そう言って私とルラは奥の部屋へと通されたのだった。
* * * * *
「この度は我がアーロウ商会のご利用誠にありがとうございます」
通された部屋に行ったら五十歳ちょっと前くらいの男性がいた。
彼は私たちが部屋に入ると同時に深々と頭を下げてそう言ってくる。
「私はアーロウ商会、海運担当部の部長をやっておりますリガルドと申します。以後お見知りおきを」
「はぁ、リルです。こっちは双子の妹ルラです」
そう言ってリガルドさんとやらの差し出す手を握り返し握手する。
私とルラは勧められソファーに腰を下ろす。
「さて、紹介状を読ませていただきましたが、冒険者ギルドにも女神信教にもご関係がある方のようですね。特に女神信教からはあなた方を最高の待遇で船に乗せ、サージム大陸へお届けするよう要望されておりました」
「はぁ、そうなんですか……」
私はあのバーグ神官の疲れた顔を思い出す。
一応、便宜をはかってくれるとは言ってたし、あの手紙で船にも乗れると言っていた。
しかし、最高の待遇とは意外なものだ。
「私共も冒険者ギルドや女神信教の教会にはいつもお世話になっております故、このお話し快くお受けさせていただきます」
そう言ってリガルドさんは深々と頭をもう一度下げる。
「あ、えっと、それじゃぁお願いしますね」
「はい、と言いたい所なのですが、実は船の航路に海獣が現れておりまして現在その駆逐に少々お時間を頂く事となりそうです。お客様の安全確保の為どうぞご理解いただけますと助かるのですが……」
リガルドさんはそう言ってもの凄く申し訳なさそうにしているけど、航路に海獣なんてものが出れば仕方ない。
私は頷きながら聞く。
「それってどのくらいかかりそうなんですか?」
「そうですね、繁殖期の為半月もすれば落ち着くと思いますが、定期便も一週間遅れを予定しております。今日からちょうど二週間後に出航予定となります」
一週間くらいは出航が伸びるという訳か。
でも安全の為、それにそこまで急ぐ旅ではないし仕方ない。
「分かりました。では近くに宿をとってその頃にまた来ますね」
「ご理解いただけた様で大変助かります。では宿が決まりましたらお知らせください。出航が確定いたしましたら使いの者を行かせますので」
そう言って再度頭を下げるのを受け、お話は終わったので私たちは立ち上がる。
「ところで、お二方はイーオンの町よりいらしたのですか?」
「え? ああ、はい、そうですけど……」
部屋を後にしようとしてリガルドさんにそんな事を聞かれる。
私がその事を肯定するとリガルドさんは顎に手を当てながら話す。
「ここ最近イーオンの町の付近に『小さな悪魔』と呼ばれるものが現れまして、近隣の魔物を狩りまくっているという噂を聞きましてな。かなり狂暴で目に入る魔物たちを次々に血祭りにあげているとも聞きます。幸いキャラバンや旅人には被害が出ておりませんが、全く海獣にしろ小さな悪魔にしろ物騒でかないませんな」
「そうですね、確かに私たちもその噂は聞きましたけどそんなに強いんですか、その『小さな悪魔』って?」
こちらのアスラックの港町にまでその噂が流れてるって事は、もしかしてイーオンの町周辺だけじゃなくこっちにまでその危なっかしいのが来ているのかな?
遭遇せずに無事アスラックの港町に着けたことは幸いだったのかもしれない。
もしそんなのに出会ったら確実に戦う羽目になりそうだもんね。
「噂ではサイクロプスやトロールでさえ一撃で倒されているそうですからね、出会わない事を切に願いますね」
そう言ってリガルドさんは苦笑を浮かべる。
私もお愛想笑いをしてこの場を後にしたのだった。
* * * * *
「さてと、まだ二週間もあるからどうしようかな? とりあえず宿を探して……」
「ねえ、お姉ちゃん。ここって海のお魚とかも美味しいのかな?」
ルラと並んで歩いているとそんな事を言ってくる。
確かに港町、きっと新鮮な海の幸もあるはず。
「そうね、せっかくの港町だもの、きっとおいしい海鮮もあるわよね?」
私とルラは顔を見合わせて頷き二人して海鮮料理が食べられそうなお店を探すのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
76
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる