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第十章:港町へ
10-21人魚
しおりを挟む海獣退治で私たちはオノゴロン島までやってきた。
「よぉし、どうやら奴はいない様だ。今のうちに船を入り江に入れて上陸し、巣を破壊すれば俺たちの勝ちだ!」
「「「おおおぉっ!」」」
デヴィッド船長は船を用心深くオノゴロン島に近づける。
とりあえず今のところは大丈夫そうだ。
「待ちなさい! あなたたちは一体何用でこの愛の巣に近づくのです!?」
入り江に差し掛かった時だった。
その透き通るような声が聞こえた。
慌てて周りを見ると、入り江の先端の岩の上に女の人が座っていた。
いや、よく見れば下半身が魚の人だ。
「マーメイドだと? なんでこんな所にマーメイドがいるんだ!?」
「あなたたち、一体なんの目的でここへ来たのです? ここは私と愛しの一角獣様の愛の巣、何人たりともここへ勝手に入る事は許されませんよ!」
そう言ってそのマーメイドはこちらを睨む。
「そ、そんな…… セイレーンだけではなくマーメイドまで!! 何故だ! 何故一角獣如きがそんなにモテるんだぁッ!!」
ぐわぁくぅ
デーヴィッドさんはそう叫んで膝から崩れ落ちる。
いや、他の水夫の皆さんも同じだった。
「ふっ、何と愚かな事を。一角獣様のあの勇ましいお姿、ぴんとそそり立つあの一角! もうそれだけで私なんかびしょびしょです!!」
ちょっと待て、なんか表現が卑猥ぞ!!
そう思いながら私はマーメイドを見ると、やはりセイレーンと同じく美人なのだけどなんか赤い顔ではぁはぁ言ってる!?
私はこの危なそうなマーメイドにドン引きする。
「くそうぉっっっ! 俺もセイレーンやマーメイドでもいいからモテたぁいぃぃぃぃっ!!」
デービッドさんはそう言って血の涙を流す。
それは他の水平の皆さんも同じだった。
「うわぁ……」
甲板に膝から崩れ落ちる皆さんにもちょっと引いてしまった。
もして皆さん一角獣が美人のセイレーンやマーメイドにモテるんでそれが気に入らなかったのかな?
「まだそのような事言っているのか!? 一角獣の愛はこの我が受けるのだ!!」
ばさっばさっ!
敗北に失意のどん底に落ち込んでいた皆さんの頭上からあの声が聞こえて来た。
「お姉ちゃん、セイレーンだ!!」
ルラが指さし空を見るとちょうどマストの上にセイレーンが降り立っていた所だった。
「一角獣は我と子を成す、貴様のような魚もどきの出る幕ではないわ!!」
「何を言うの! 一角獣様は私こそ必要だと言ってくださったのよ! あなたのような一角獣様にまともに相手されていないモノとは違います!!」
あー、えーとぉ……
向こうの岩場と船のマストの上とで言い争いが始まる。
それもちょっと聞いていると赤面する内容から良いのかそれでと言うような内容まで。
しばしそのあまりにもトリッキーな言い合いに呆然としていたけど、私の袖のすそをクイクイと引っ張るルラのお陰で戻ってくることが出来た。
「ねぇねぇ、お姉ちゃんアレ……」
「はっ!? あ、ああルラ、どうしたの?」
キーキー騒いでいるセイレーンとマーメイドと反対側にルラは私を引っ張って行って水面を見る。
するとそこに大きなものが水の中にいた。
「って! これって一角獣!? 何時の間に!!!?」
「それがね、さっきからぼそぼそ声が聞こえて来てなんか頼みごとがあるみたいなんだけど……」
ルラにしては歯切れが悪い。
私は水の中に姿を潜ませているそれを見る。
『始まってしまったか…… なあ人間よ、あの二人を何とかしてくれんか? 付きまとわれて困っている…… このままではせっかく見つけた我が伴侶との間に入られて何もできなくなってしまう……』
聞こえてきたその声は心底疲れたような声だったのだった。
私は驚き思わず聞いてしまう。
「あなた、もしかして一角獣? 繁殖期で暴れまわっているって聞いたのに、コモン語まで喋れるなんて……」
『長い間生きていると人の言葉も理解できる。我はただ子孫を残したいだけだったんだ……』
そう言って深いため息が聞こえてくる。
まさか怪獣である一角獣が人語をしゃべり、そして理性的にいるとは思わなかった。
「一体どう言う事よ?」
『うむ、話せば長くなるのだがな……』
一角獣はそう言って事情を話し始めるのだった。
* * *
そもそもこの一角獣、一族の中でもの凄く長生きをしていてそして力もあったのだけど体が大きく成り過ぎて繁殖する相手がなかなか現れなかった。
なので群れから離れ自分に合った伴侶を探す為にあちらこちらをうようよする羽目になったそうだ。
しかしなかなか相手が見つからず、なんやかんやでその巨体でセイレーンやマーメイドを助けてから二人にまとわりつかれてしまい、ますます自分の伴侶を見つけるのに苦労をする羽目になってしまった。
しかしたまたま通りかかったこの海域に巨大なオットセイのメスを見つけ、一目惚れしてしまったらしい。
一角獣とオットセイで夫婦になれるかどうかは分からないけど、とにかくあの二人を振り切ってここまで来て巣をつくり始めたらあの二人にまた見つかってしまったとの事。
「なんか知らないけど苦労しているのね…… でもそれだけ理性的なのになんで人間の船を沈めたりしたのよ?」
『それは我ではない。あの二人がやったのだ。我が折角作った巣に居座り、近づく人間たちを追い払う中、船は沈められたのだ』
うわぁ~。
じゃあこの海獣は何も悪くない事になってしまう。
それなのに討伐隊が来たりして返り討ちに合って、それがこの一角獣のせいになてしまっているとは……
「うーん、とは言えあの二人を説得するのは……」
『そこをなんとか頼む。さすれば我はあの見目麗しきオットセイを嫁に迎え入れられる!』
子孫を残すという本能に従って奮闘しているのは分かるけど、あの二人が大人しく言う事を聞いてくれるかどうか。
私はいまだ聞くのも恥ずかしくなるような事を騒いでいる二人を見るのだった。
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