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第十二章:留学

12-13助手開始

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「へぇ~、じゃぁあソルミナの研究の手伝いを受けるのね?」

「はい、是非にも」


 晩御飯で魚の粕漬を焼いたものをつつきながら今日の事を報告する。
 さんざん学園長に稽古を付けられお腹もペコペコなのでマーヤさんの作る和食は助かる。
 
 あ、たまには私たちも手伝いはしてるのよ?
 マーヤさんから教わる「さしすせそ」とか意外と役に立つし。

 ちなみに「さしすせそ」とは砂糖の「さ」、塩の「し」、お酢の「す」、お醤油の「せ」、そして味噌の「そ」となる。
 これって適当に使うと和食ではうまく煮物が作れなかったりするらしいので覚えておいた方がいいらしい。
 マーヤさんもイチロウ・ホンダさんの所でなんだかんだ言って数年間修業したらしいので、本格的な和食の料理ばかりだった。 


「ふむ、ソルミナ教授の研究の手伝いを引き受けてくれるのですね? それはとても期待が持てそうです」

 お味噌汁を飲みながら珍しく学園長も話に混じる。
 この人、食事中はあまり話さないのだけど、たまに今日あった事を報告しているとぽつりぽつりと口を出して来る。


「ふぅ~ん、ユカも興味あるの?」


 そう言ってマーヤさんはニヤリと笑う。
 ちなみにマーヤさんの胸はエルフにしては異常なくらい大きい。
 前に抱き着かれた時に余裕で顔がうずまるくらい。
 いや、挟まれるくらい大きいので驚かされた。

 本当にこの人エルフなのかと疑う位御立派なものをお持ちだった。


「そ、それは、私もあちらの世界で当時は標準的でしたがこちらの世界では小さい部類なので……」

 あ~、なんかそんな事で赤くなってもじもじする学園長って新鮮だなぁ~。
 いつもは凛としていてヤマトナデシコを地で行っているような人なのに。

 まあ、見た目が十七、八歳くらいの私たちと同じくらいにしか見えないから余計に恥じらう感じがかわいらしい。
 でもやっぱり学園長も胸の大きさで悩んでいたんだ。


「ユカは別にそのままでもいいのに~。夜ユカの相手するのにその可愛らしい胸が良いのに~」

「なっ/////// ま、マーヤ子供たちの前です、そう言う事は///////」


 はいはい、もうほとんど毎日になり始めているおのろけ。
 いい加減慣れました。
 と言うか、夜中トイレに行く時に部屋から声洩れてます。
 気を付けてください。
 思い切り気を使う羽目になりますから。 

 私はまたかと言う感じでため息をつく。


「ん~、今日もユカ父さんとマーヤ母さんは仲良しだねぇ~」

「ぐっ、ル、ルラ私もユカ母さんでも良いのですよ?」


 ご飯のおかわりをもらいながらいつも通りルラも学園長にボケるけど、まだ「ユカ父さん」を受け入れないのか、学園長。
 私たちは呆れながらも晩御飯を食べ終えるのだった。


 * * * * *


 翌日、講義が終わってからソルミナ教授の研究室へ行く。
 しっかりとヤリスも一緒に付いてくるけど、ヤリスはもう十分に育っているから必要ないと思うんだけど。


「来たわね。それじゃぁ早速あなたたちの『命の木』の確認をさせてもらうわよ」

 ノックをして部屋に入るとソルミナ教授が何やら魔道具っぽい物を動かしていた。
 何となく電気椅子みたいになっているけど、これって大丈夫なんでしょうね??


「ソルミナ教授、『命の木』とは何ですか?」

 事情を知らないヤリスは首を傾げソルミナ教授に聞く。
 するとソルミナ教授はうんうんと頷いてから話始める。

「『命の木』とはエルフ族が長寿種である秘密なのよ。エルフは遠い昔に精霊と樹木から女神様に作られたと言われているわ。そしてこの世界では無い別の場所にみんな『命の木』と言うものを持っていて、それが枯れない限り私たちエルフは死ぬことが無いのよ」

 ヤリスにそう説明すると、ヤリスは私たちを見る。


「どう言う事?」

「うーんと、言葉の通りで私たちエルフはいつも頭の中に自分の木のイメージがあるんです。それがどうやら『命の木』と呼ばれているもので、その木の成長に合わせて私たちもこちらの世界で年を取って行くらしいんですよね」


 私がヤリスにそう説明をすると、ヤリスはまじまじと私を見る。
 そしてガシッと肩をつかんで聞いてくる。

「つまり、その木が若々しければリルたちも歳をとらないって言うの?」

「いや、厳密には歳は取っているはずですよ。ただ人族と違い今私たちの頭の中の木のイメージはやっと人の背丈を過ぎた幹が太くなり始めた感じだってところです。成長に時間がかかりソルミナ教授見たくなるには千年はかかるらしいですよ?」

 そう言うとヤリスはうんうんと頷いて言う。

「そうか、よかったぁ。せっかくかわいいリルとルラがすぐに年を取らなくて。これで安心してあなたたちを私の後宮に呼べるわね!」

「はい?」

 なんかさらっと不穏な単語が出たような気がしたけど、それを聞き直す前にソルミナ教授に呼ばれる。


「リル、まずはあなたからここへ座ってもらうわよ。あなたの『命の木』の状態を確認するからね」

 そう言ってあの椅子をポンポンと叩く。
 本当に大丈夫なんだろうか?
 と言うか、私の『命の木』をあれで確認できるものなのだろうか?

「あの、大丈夫ですよね? 変な事にはならないですよね?」

「大丈夫、大丈夫。あなたの『命の木』がこっちの水晶に映し出されるだけだから。実際に体と『命の木』は連動しているはずだからまずはそれを見て見ないとね」

 軽くそう言うソルミナ教授だけど、なんか裸を見られる様でちょっと恥ずかしい。
 ヤリスなんかその水晶にべったりとくっついていて覗き見ている。


「ソルミナ教授、これにリルのいけない姿が映るんですね!?」


 なんか興奮しながらそう言うけど、別に裸が映し出されるわけじゃないのだけど!!

「あたしもお姉ちゃんの『命の木』って見てみたいね~。あたしと同じなのかな?」

「いや、流石に双子でも『命の木』まで全く同じってことはないんじゃないかしら? とりあえず、座っては見ますけど……」

 私は言いながら椅子に座ってみる。
 するとソルミナ教授は頭や手足に何やら器具を取り付け始める。
 そして準備が終わると私に言う。

「さてと、これから魔道具を起動させるけどリルには起動中に自分の『命の木』をずっとイメージしてもらわなきゃならないの。良いかしら?」

「はい、じゃあ『命の木』をイメージしますね」

 私は自分の頭の中に何時も感じている「命の木」をイメージする。
 まだ若木で、幹も細く枝も伸び始めていてわさわさと若い葉っぱが広がっているあの木を。


「起動っと。どれどれ~」


 ソルミナ教授は魔道具を起動させて隣の机に置いてある水晶を覗き見る。
 頭や手足に付けられている魔道具はぴこぴこと点滅をしてつなげられた水晶へとまるで何かを送るかのようにうごめく。
 そしてしばらくすると水晶がぼうっと明るくなりその奥に何やら映像が映し出される。


 それは一本の若木だった。

 
 まだまだ細いその木はその気になれば人の手でも簡単にへし折られそうな位に細い。
 ソルミナ教授はそれを見て頷く。


「うん、やっぱりエルフとしてはまだまだ未成熟も好い所ね。苗木がやっと大きく伸び始めた感じだものね」

「へぇ~、これがお姉ちゃんの『命の木』? あたしのイメージと変わんないねぇ~」

「こ、これがリルの恥ずかしい姿なの? 本当に木なんだ。もっとこう人に近い姿かと思ったのだけど」

 みんなして水晶を見るけど、私の所からもその様子が見て取れる。
 確かにいつも頭の中に感じているあの木そのものだった。
 ただ、こうして実際に目に出来ると驚くのとちょっと恥ずかしいのと、目で見える事に感動を覚えたりもする。


「本当に私たちって木なんだ…… なんかちょっと恥ずかしいけど、まだまだ若木なんだ……」


 分かってはいたけど、やはり目で見ると感じ方が変わって来る。
 そんな水晶の中を覗き込みながらソルミナ教授は言う。


「まだまだ若木だけど、これからどんどん大きくなっていくわ。そして花を咲かせるようになるとこちらの身体も子供が生めるくらいになるから、女性として大変よ?」

「え? もしかしてリルとルラってまだなの??」


 ソルミナ教授のその言葉にヤリスが反応する。
 まあ確かにまだ月のモノなんて来ていない。
 と言うか、エルフ族は年のモノで、年に一回くらいしかアレが無い。
 以前シャルさんに聞いたけど、樹木と同じく実を付けられるタイミングが年に一度なのでエルフ族は子供が出来難いとか。

 そんな事情を知らないヤリスは少し膨れて言う。

「うらやましいわね、あれの時とか私なんかお腹痛くて大変な時があるって言うのに」
 
「お姉ちゃん、あれって何?」

 女性なら誰でもアレの時は大変だけど、私たちエルフは二百歳くらいまでアレが来ない。
 ヤリスには悪いけど、もうしばらく私たちは楽をさせてもらおう。  

「リルやルラにはまだ早い話だけど、状態はいいみたいね? じゃあ次はルラね」

 ソルミナ教授はそう言って今度はルラの「命の木」を確認する。
 いったん魔道具を止めて道具を外し、私の代わりにルラを椅子に座らせる。
 同じように魔道具を取り付けて行ってルラにも「命の木」をイメージするように言ってから起動をすると、私の時と同じく水晶に何かが映し出される。


「ふむふむ、若干リルより幹が太いかしら?」

「え? 双子なのに差があるんですか??」

「へえ、リルの方が幹が太いの? どれどれ?」


 ソルミナ教授が言いながら水晶を覗き込むとそこには私とよく似た木が映し出されていた。
 そしてソルミナ教授が言うようにややリラの幹の方が太いように感じる。

「あまり変わらない様に見えるけど?」

 ヤリスがそう言うけど、何と言うか根本から伸び始めた幹の上の方が若干太くなっているように見える。
 ほんの若干だが。
 するとソルミナ教授はまじまじと私とルラの胸を見る。

 そしておもむろにいきなり胸に手を当てて来た。


「ひゃっ!? ソ、ソルミナ教授?」

「ん~、なになに、ソルミナ教授?」


 もみゅ


「ひんっ!」

「うわぁ、くすぐったいよぉ~」


 そのまま揉まれた!?


「うーん、やっぱりルラの方が若干だけど大きいわね。うん、やはりここでも影響があるのね」

「ソ、ソルミナ教授! なあんてうらやましい…… じゃなくて、リルとルラに何やってるんですか!? 私にもやらせてください!!」

 いや、ヤリスさん。
 こんな貧相な胸を何触りたがっているのよ!!
 と言うか、何故触りたがる?


「『命の木』とこちらの世界の身体にはやはり相互関係があると言う事は間違いない様ね。あちらの幹が太く成れば目的の胸も大きくなる。やはり狙い通りね!」

 え?
 「命の木」とこちらの身体の胸の大きさって関係があったの!?
 じゃあ、マーヤさんの「命の木」とか幹が太いの?
 シェルさんもアレッタさんも??


「ふーん、じゃあエルフ族ってもしかしてその『命の木』とかの幹が太くなると胸も大きくなるってこと?」

 ずっと覗き込んでいたヤリスはそう言って結論付ける。

「多分間違いないでしょう。いくらこちらの世界で頑張っても大元の『命の木』が育たなければこちらの世界の身体もそのまま。だからこの研究はその確認とあちらの『命の木』をどうやって成熟させるかなのです! いや、大きくなってからも幹を太らせれば自然とこちらの世界の身体も!!」

「あのぉ~、もしかしてソルミナ教授の『命の木』って……」

 もう確実に大人のソルミナ教授の『命の木」はきっと大木になっているはず。
 でもそのスタイルはお世辞にもいいとは言えない。

 するとソルミナ教授は水晶を操って別の画像を出す。

 そこには大きな木が立っているけど、どことなくほっそりとしている。
 ソルミナ教授はその木を見ながらつぶやく。

「まだです、この木だって幹をもっと太らせることが出来るはずです。花を咲かせる機能は十分なのですから、まだまだ大丈夫なはずです」

 そう言ってぐっとこぶしを握る。
 そしてソルミナ教授は私たちに向かって言う。


「一緒に頑張っていきましょう!!」

「勿論です! そうか、今まで頑張って来てもほとんど成果が無かったのは『命の木』のせいだったんですね!」


 ガシッと私とソルミナ教授はその場で握手する。

「え~、胸なんか大きくならなくてもいいのにぃ~。邪魔なだけなのになぁ~」

「確かに今のリルとルラも可愛いから大きく無くても私がちゃんと可愛がってあげるのに。あ、でもマーヤさんみたいに大きいのもいいなぁ~」



 向こうでルラとヤリスが何か言っているけど、やっと成長しない原因が分かった。
 私とソルミナ教授は笑いながら更に握手する手に力を入れるのだった。  

  
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