271 / 437
第十二章:留学
12-24エルフの森の喫茶
しおりを挟む「へぇ~、これって美味しいわね。今度お母さんにも作り方教えてよ」
何処でどうに情報を入手したのか、私たちのシフト時間にしっかりとマーヤさんが来ていた。
そしてしっかりと抽選券をゲットしているから、限定商品最後の白パンケーキはマーヤさんの前に置かれている。
マーヤさんはそれをニコニコしながら食べているけど、同席のアニシス様は残念ながら普通のパンケーキを食べている。
魔術総合実演会二日目にして私たちの出し物、「エルフの森の喫茶」は大盛況。
途中からクラスメートのミハイン王国出身とか言っていたアルフェさんが「どうせなら私たち全員作り物の耳を付けましょう、是非にもやりましょう、あのお方に近づけるなら是非にも!!」とか力説して接客のスタッフは全員作り物の耳を付けることにした。
うん、みんなエルフになった。
でもみんな胸大きいからうらやましい……
「はぁ~、残念ですわぁ。抽選に当たりませんでしたわ」
「はははは、すみませんあの白いパンケーキ作れるのまだ私だけなんでどうしても限定になっちゃうんですよ」
「でもこれホント美味しいわよ。うーん、メレンゲにパンケーキの粉混ぜてるのかしら? それにこの香りはバニラエッセンスかしら?」
一応規定分は焼き終わったので私もウェイトレスしてるけど、お茶を運ぶついでにこの二人の席にやってきている。
いつもはご飯作ってもらう方が多いマーヤさんには楽しんでもらえればうれしい。
アニシス様は残念ながら普通のパンケーキだけどそれでも美味しそうに食べている。
普通のだってふんわりでバターや蜂蜜をたっぷり使っているから美味しいもんね。
「お姉ちゃん、あっち忙しいからお願い!」
「ヤリス様やマーヤさんは私たちに任せておいて」
ルラもヤリスも大忙しでお客さんを捌いている。
本物のエルフは私とルラとお会計にいるソルミナ教授の三人だから、ご指名が多い。
あ、そう言えば今ここにマーヤさんもいるからこの学園のエルフは全員ここに集まっている事になる。
「はいはい、それではお嬢様方ごゆっくり」
私はそう言って挨拶をしてから呼ばれた方へ手伝いに向かう。
お客さんはまだまだ行列を成しているから大忙しだ。
私は急いでそちらに向かうのだった。
* * *
「ふぅ~、もうちょっとでシフトだね、お姉ちゃん」
「そうね、まだまだお客さんいるけどいい加減休み入れてもらわないとね…… ん?」
そろそろ交代の時間になる。
相変わらずお店の前のお客さんは行列だけど、その向こう側を数人の人たちがやって来ていた。
何となく威圧感のある人たち。
そちらを見ていた私は見知った顔がいるのでちょっと驚く。
「あれ? あれって学園長たち……」
「あ、ほんとだ、教頭とかもいるわね?」
「ユカ父さんが来たんだ~♪」
それを見ていると並んでいる先頭の人を越えてお店に入って来た。
「ソルミナ教授のクラスの出し物ですね? 見回りに来ました」
学園長はそう言って部屋を見渡す。
「学園長、いらっしゃいませ。どうですか? 今年はうちのクラス大盛況ですよ?」
ソルミナ教授はすぐに立ち上がり学園長を出迎える。
それに学園長は軽く頷く。
「ふむ、噂ではこちらに珍しいパンケーキがあると聞きました。少し興味があるのですが」
「ああ、はい、丁度それを作れるものがおりますのでどうぞこちらに!!」
もの凄くとぼけた感じでそう言う学園長。
それにゴマすりまくるソルミナ教授。
そしてソルミナ教授はすぐに私の所へ来る。
「リル! あのパンケーキ作って、すぐに! あの白いの!!」
「あの、ソルミナ教授あれって限定で……」
「いいから作って! 学園長の要望よ!!」
私はちらりと学園長を見るとマントの下でぐっとこぶしを握っている。
この人はぁ~
仕方なしにため息をついてからルラとヤリスに私の分のホールをお願いして厨房に戻る。
そして材料を準備してあの白いパンケーキを焼き上げる。
私は出来あがったそれとお茶を準備して押し車に乗せて既に着席している学園長の元へ行く。
「お待たせしました、限定商品の白いパンケーキにございます。本日はハーブティーもお持ちしましたのでどうぞごゆっくりお楽しみください」
そう言って学園長の前にそのパンケーキを置く。
「ありがとう、それではいただきましょうか」
そう言う学園長の口元が少しにやけているのを私は見逃さなかった。
まったく、この人は忙しいはずなのに何やっているのか……
学園長は早速その白いパンケーキをナイフとフォークを使って切り分け、口に運ぶ。
「!!」
一瞬動きが止まったけど、その後やや早めに次々とそれを口に運ぶ。
そして白いパンケーキはあっという間に学園長に平らげられてしまった。
「ふむ、大変美味しかったですよ」
「ありがとうございます」
満足そうに口元をナプキンで拭き、ハーブティーを飲んでから立ち上がる。
「素晴らしかったです。ありがとう」
「は、はい。ありがとうございました」
学園長はソルミナ教授にそう言って踵を返して部屋を出ていった。
流石にあれだけの強引な行動でも学園長に対して誰も文句言えないのでただその後姿をみんなが見送る。
「限定じゃなかったの?」
「それは言わないでくださいよ、ヤリス~」
どっと疲れが出ていた所ヤリスが私の隣に来てつぶやく。
まったく、親バカもいい加減にしてもらいたいものだ。
私はやっと休憩の時間になるのでエプロンを取りながら大きく伸びをするのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
76
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる