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第十三章:魔法学園の日々
13-19鋼鉄の騎士とルラと
しおりを挟む「今度はあたしの番ね!!」
ルラはにこにこしながらアイザックさんの近くへ行く。
しかしアイザックさんは呆けたまま反応しない。
「アイザック?」
「はっ!? あ、ああヤリス王女、な、何ですか?」
「いや、次ルラの番だって。待ってるよルラが?」
ヤリスに声を掛けられてやっと我に戻ったアイザックさん。
なんか慌てている。
しかも何となく顔が赤いし?
「ん~、もしかして疲れたの? ちょっと休む??」
ルラが覗き込んでそう言うとアイザックさんは慌てふためく。
「い、いや大丈夫だよ。ああ、そうだ俺の『鋼鉄の鎧騎士』、だいぶ傷んでてね調整をしてもらいたいかなと。さっきのヤリス王女との手合わせで無理させちまったからね」
そう言いながらヤリスをチラ見する。
「何よ、私のせいだって言うの?」
「いや、その、もともとホリゾンの旧式は魔力を馬鹿食いする上に整備性が悪くてね、ここの技術員だけだと上手く調整できない部位があってね…… その、アニシス様は今どこに?」
何となく顔を赤らませながらそう言うアイザックさん。
ん~これって……
「あの、アイザックさんってアニシス様とお知り合いなんですか?」
私はルラの横にまで行ってそう聞いてみる。
するとアイザックさんは更に顔を赤くして年甲斐に無くもじもじとする。
「その、その昔こいつを見てもらってね。もう二年も前か。あの時からアニシス様は『鋼鉄の鎧騎士』についてもとても詳しくてね、当時調整が難しかった魔力回路を簡単に調整してしまったんだよ」
そう言うアイザックさんの表情はとてもうれしそうだった。
なるほど、そう言う事か。
二年前って事はアニシス様が十六歳の時かぁ。
成人してちょっとだもんね。
そうかそうか。
「なんなのよアイザックたら。そんなに『鋼鉄に鎧騎士』が調子悪いの?」
「あ、うん、何と言うかその、出来ればアニシス様に見てもらいたいかなと」
「ヤリス、だったらアニシス様にお願いしましょうよ。今日は野暮用があるって言ってたけど明日は時間取れるかもしれないでしょう?」
私がそう言うとアイザックさんは、ぱぁっと明るい顔になる。
うん、やっぱりそうだ、そうなんだ。
「え~、アニシス様にお願いするの? 私が?」
「私もお願いしますよ。それで良いですよねアイザックさん?」
「えっ、あ、ああそれは助かる。えっと……」
「リルです。ルラの双子の姉です、アイザックさん。私からもアニシス様にお願いしておきますから後は頑張ってくださいね」
びっ!
私はそう言って親指を立てると嬉しそうにアイザックさんは頭の後ろを書きながら私にお礼を言ってくる。
「その、助かるよリルちゃん」
「ぶぅ~! じゃああたしとは手合わせ出来ないの!?」
うまく事が運んだと思ったらルラがふくれた。
そう言えばまだルラは組み手をしていない。
「ああ、すまんすまん。それじゃぁ少しだけな」
「うんっ!!」
なんだか幸せそうな表情のアイザックさんに対してルラは何も感じず笑顔で答えるのだった。
* * *
「それでは両者準備は良いかな? では始めっ!」
ロディマス将軍のその声で今度はルラとアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」が手合わせをする事となった。
ルラは早速何時ものスキルを発動させる。
「あたしは『最強』! いっくぞぉっ!」
そう言ってすぐにアイザックさんの懐に飛び込む。
そして拳をアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」に叩き込む。
『うわっ!』
しかしそこは流石にアイザックさん。
ヤリスをいなすのよりは少しアクションが大きかったけどそれでも半歩進んでルラの側面から掌を打ち込みその攻撃をずらす。
ルラもしっかりとそれはガードしているのでヤリス同様アイザックさんの後ろまで飛んで行って着地するけど、すぐさま走り出して今度は足を狙う。
アイザックさんはそれも難なくかわしルラとの距離をとる。
『これって…… ヤリス王女以上の動きをする!』
「えへへへへ、さっすがぁ! じゃあこれはどうだ!?」
そう言ってルラが左右にステップを踏んだかと思ったらアイザックさんの目前から消えた。
ヒュンっ!
「えっ? ルラ何処!?」
「あそこ、後ろよ!!」
私には全然見えなかったけどヤリスに指摘されてその先を見る。
ルラは一瞬でアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」の後ろにいた。
「必殺ぱーんち!」
『くっ!』
ルラの拳がアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」の背中に決まる瞬間、アイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」が前に倒れた。
流石にルラもこの動きは予測してなかったようで、空振りになった拳と共にそのまま前の方へ飛んで行く。
しかしここからがあり得ない動きをするアイザックさんだ。
「鋼鉄の鎧騎士」の両手を地面に着き後ろ足を大きく振り上げ飛び抜けるルラの背後から蹴りを入れる。
「おうっ!?」
後ろから来た蹴りをルラは体をひねってひょいっとかわし、その足を踏み台に上に飛び上がる。
「さっすがアイザックさん! でもこれはどうだ! はっ!!」
ルラは上に飛び上がって上空を向いて掛け声をかけるとその気合のインパクトで急転直下してアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」にまるで槍のように落ちて行く。
そしてくるりと体制を変えて蹴りを入れる。
「必殺きーっく!」
『何っ!?』
ぶぎゅる!
どぉ~んッ!!
うつぶせになった状態でアイザックさんの「鋼鉄に鎧騎士」はルラの蹴りに踏みつぶされる。
そしてその威力に耐えられない様に地面にのめり込んでしまった。
『ぐわっ!!』
「よっと!」
踏みつぶした反動でルラは少し離れたところに着地する。
「そこまで!」
それと同時にロディマス将軍はこの手合わせを止める。
「え? もう終わり??」
「ルラ殿、手加減して欲しいものですな。あれではアイザックの『鋼鉄の鎧騎士』が壊れてしまいますぞ?」
手合わせを止められたルラはきょとんとしているけど、ロディマス将軍は大きくため息をついてそう言う。
そしてヤリスを見ながら聞いてくる。
「ヤリス王女、これが双子のエルフのスキルですな?」
「まあね。ルラなんか私と互角……と言いたい所だけど、何時もルラは必ず相手よりちょっと強いのよね。まるで毎回調節しているみたいにね」
「となると、今回はアイザックの『鋼鉄の鎧騎士』に合わせた強さというのですか? まだ本気で無いと?」
「それは分からないわ。ただ毎回ルラは相手よりもちょっと強いってことよ」
ヤリスとロディマス将軍のそのやり取りで私も初めて気づく。
言われてみればルラって何時も相手に対してちょっと強い感じ。
相手に対して絶対的な強さは何時も見せない。
「相手に会わせてくれているのですか…… となると、もっと強い相手にはもっと強くなるという所ですかな?」
「さあ、そこまでは分からないわよ」
ロディマス将軍とヤリスのその会話を聞いて私はごくりと唾を飲むのだった。
* * * * *
「ごめんなさい!」
「いや、まさかあの体勢から蹴りが来るとは思わなかったよ」
何時まで経っても動かないアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」を他の「鋼鉄の鎧騎士」が引き起こし、アイザックさんが中から出てきたけどどうやらアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」はルラの蹴りで壊れてしまったようだった。
ホリゾン公国製の旧型「鋼鉄の鎧騎士」は既に生産中止。
新型との互換性は無く、壊れればおしまいだと言う事だったらしい。
「本当にすみません! うちのルラがアイザックさんの大切な『鋼鉄の鎧騎士』壊しちゃうだなんて!」
「ふえぇ~ん、ごめんなさぁ~いぃっ!!」
ルラもまさかあれで壊れるとは思ってなかったらしいけど、もともとだましだまし使っていた所があったそうだ。
正直もう新しい機体に乗り換えた方がいいらしいのだけど、アイザックさん出身のホリゾン公国では国防以外の「鋼鉄の鎧騎士」の製造をほとんどしていない。
しかも中古は解体をする事となっていて、元ホリゾン公国軍出身のアイザックさんには連合軍に加盟する為に渡された「鋼鉄の鎧騎士」も技術漏洩を防ぐために博物館クラスのかなりの旧型を支給されていたそうな。
連合軍も連合軍で予算がないとかでアイザックさんには旧型で頑張ってもらっていたそうな。
じゃあ、世界平和ってどうなってるのかと聞いてみればここ最近はすこぶる平和で、連合軍の出動要請は自然災害とかの支援位だったとか。
まるでどこかの国の自衛隊状態だそうな。
「とは言え、こいつが動かなくなると本気で困ったな……」
「あのぉ~、修理代っていくら位かかるのでしょうか……」
ルラのやった事なので出来る限りの弁償はしないといけない。
でも確か「鋼鉄の鎧騎士」ってもの凄くお高いものだったはず……
「はははは、いくら旧型とは言えこいつを直すには魔鉱石やらミスリルやら特殊な材料と膨大な魔力が必要だよ。新規の『鋼鉄の鎧騎士』作るとなれば国家予算の何割かを必要となるくらいだからね。量産型だってそうそう中古市場には出ないからね」
うぐぐぐぅ、国家予算の何割って……
「アニシス様、直せるかな?」
涙目のルラがそう言う。
そうだ、アニシス様ならば!!
私とルラはアイザックさんの「鋼鉄の鎧騎士」を直す為アニシス様にお願いに行く事にするのだった。
応援ありがとうございます!
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