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第十六章:破滅の妖精たち
16-4破壊の妖精
しおりを挟む「壁を『消し去る』!」
私はガレント城の横にある大きな壁の一部を消し去った。
街行く人々はいきなり高い壁が無くなり、何が起こったのか目をこすりながらそれを見ている。
「いでよ、巨人たち、鬼たちよ!」
そしてイリカが封印のひょうたんを解放してサイクロプスやオーガの皆さんを開放する。
既にイリカは「賢者の石」でこの魔物たちを操っている。
「さあ、始めるわよ!」
アリーリヤはそう言ってにんまりと笑う。
そう言えば静香って時たまこう言う強引なやり方を好んだっけ?
中学の時は同じ卓球部にいたけど、ダブルスでも結構強引な戦法を好んだっけ。
おかげで組まされるのはいつも私だったけど。
「う~ん、あたしの出番はまだかなぁ?」
「ルラはヤツメウナギ女さんと『鋼鉄の鎧騎士』担当なんだから、もうちょっと待ってなさいよ。さて私はもっと壁を『消し去る』しないとね」
そう言いながら私はまたお城の反対側の壁を「消し去る」。
消し去った向こうに見えるのは雑草や木の生えた遺跡のようなモノが見えた。
ただ、壁が無くなるとその向こうでうごめいていた者がこちらに寄って来る。
「ふぅ~ん、流石に古代魔法王国の遺物ね。あれってミスリルゴーレムじゃない? それに魔生成物らしきもいるわね」
普通のゴーレムと違い、銀色の甲冑を着込んだような巨体のゴーレムが何体かこちらに出て来た。
当然市民も何も大騒ぎ。
イリカの出したサイクロプスやオーガたちも街中で暴れ始める。
「おお? やっと出てきたみたいだね! 『鋼鉄の鎧騎士』だ! イリカ、あたしも行っていいよね?」
「うふふふふ、そうですね良いですよ~、あヤツメウナギ女も出しますね~」
ルラはイリカに確認をしてからこの屋根から飛び降りる。
そして城から出て来た「鋼鉄の鎧騎士」に向かって走り出す。
「いでよ、ヤツメウナギ女よ!!」
そしてイリカも封印のひょうたんを掲げてヤツメウナギ女さんを呼び出すと、ルラと共に「鋼鉄の鎧騎士」に飛び掛かって行く。
「あたしは『最強』! はぁっ!!」
ルラは出て来た「鋼鉄の鎧騎士」に飛び掛かり拳を入れる。
ばごーんっ!
拳を入れられた「鋼鉄の鎧騎士」はいきなりふっ飛ばされて何が起こったのか分かっていない様だ。
それもそのはず、身の丈五、六メートルはある巨体が身長百五十センチちょっとの小柄なルラに殴り飛ばされるわけだから。
「よっと!」
ルラは地面に着地すると、今度は「鋼鉄の鎧騎士」の足を持ち上げて転ばさせる。
やっとルラの存在に気付いた「鋼鉄の鎧騎士」は一瞬驚きに固まったがすぐにルラを捕まえようと手を伸ばす。
しかしルラはその手を取り投げ飛ばす。
「駄目だよ、本気で来ないとあたしは止められないよ?」
嬉しそうにチートスキルを使いまわるルラ。
その瞳は赤黒くらんらんとしている。
ざしゃっ!
がしゃ~んッ!!
ヤツメウナギ女さんもその爪で「鋼鉄の鎧騎士」の足を切り裂き、倒してゆく。
ガレント王国の「鋼鉄の鎧騎士」たちは小さな敵対者に翻弄されながら徐々にその数を減らしてゆく。
「ふふふふふふ、もろい。もろすぎるわねガレント王国!」
アリーリヤはそう言って笑う。
でもこれって私たちやヤツメウナギ女さんがいたから出来るのであって、アリーリヤたちだけじゃやはり難しいだろう。
でも、これは始まり。
この世界の矛盾を取り払い、エルハミさんの我が儘を止める為の私たちの聖戦!
「それじゃぁいよいよガレント城を消し去っちゃいましょうか、リル」
「そう……ね…… ヤリスの部屋も何も消し去ってあげないと……」
そう、ガレント城にはあのヤリスが集めた女神様グッズをしまい込んだ「後宮」と呼ばれる部屋がある。
ヤリスの気に入った女の子たちも将来ここへ住まわせるんだって意気込んでいたっけ。
「そうだよヤリス、エルハイミさんなんか崇拝しちゃだめだよ。だから私が消し去ってあげる。あなたをもっと自由にしてあげる」
そう私は言いながら手を上げてガレント城を見据える。
これはヤリスの為。
そう、エルハイミさんの呪縛から解き放つため。
私はそう自分に言い聞かせながらガレント城を消し去ろうとすると、大通りを挟んであの建物が見える。
それはガレント城が一望できる個室を有するシーナ商会の建物。
あの最上階の部屋で私たちは……
「アニシス様……アイシス様……」
何故か涙があふれる。
あの時はアイシス様が地を出して酷い目に遭ったはずなのに、なぜかとても楽しかった。
みんなで食事をして、お酒を飲んで、騒いで……
それは遠い過去のように感じられ、私の心を締め付ける。
「リル? どうしたのリル? さっさとガレント城を消し去っちゃいましょうよ! ルラとヤツメウナギ女もあと少しで『鋼鉄の鎧騎士』を全滅できるわ!」
アリーリヤにそう言われるのだけど何故か私はスキルを使えない。
「くっ! あの建物を『消し去る』! こんな思い出も消えちゃえ!!」
そう勝手に口から言葉が漏れる。
そうか、私はあの楽しい時間が嬉しかったんだ。
だからヤリスたちのいたガレント城を消し去るのに躊躇したんだ。
だから先にあのシーナ商会の、思い出の建物を消し去らなきゃいけないんだ!!
私のチートスキルは今度はちゃんとシーナ商会の建物を消し去った。
これでいい。
もう昔の思い出も消し去って私はアリーリヤと、静香と一緒にこの世界を変えるんだ……
「変えるんだ…… 変え……」
しかし途端に目の前が暗くなり私の意識は暗闇に消え去るのだった。
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