王国再興物語 〜無理ゲーオタクの異世界太平記〜

中村幸男

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父と子と

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 あれから何度も打ち合っているが、勝てる気がしない。
 こちらが負傷しているというのもあるが、それを抜きにしても攻めきれないだろう。
 先日戦った時も思ったがやはり、俺では勝てないのかもしれない。
「アルフレッド様!頑張って下さい!」
「アル!負けないでね!」
 捕らえられているセラとレインから声援を受ける。
「さぁ、どうした?家族を守るために家族を殺してみろ!お前は家族を守るために戦うんだろう?早くしないとお前の家族が傷つけられて行くぞ。お前の覚悟を示して見せろ!」
 アロンは全て分かっているのだろう。
 俺が家族を、仲間を守るために戦っている事を。
 王国を再興することや母上を生き返らせる事は当たり前だが、ジョナサンを失ってからは絶対に仲間を失いたくない。
 そんな思いが俺を突き動かしていた。
 俺がセラと恋仲にあることは一般には知らせていないが、こんなのでも俺の父親だ。
 俺達の様子を見て気付いたのだろう。
 そして、アロンはマトウの方へ目配せをする。
 その目配せを見てマトウは配下の者に指示を出す。
 その指示を見た兵はセラの手を持ち上げ、人差し指を反対方向へと曲げる。
「ぐっ!」
 セラは悲鳴を上げなかった。
 俺を心配させないためだろうか。
 しかし、俺は怒りを抑えられなかった。
「セラ!貴様ぁ!」
 それまで消極的に戦っていたがすかさず距離を詰め斬りかかる。
 咄嗟の事にアロンは防ぎきれずに傷を受ける。
「そうだ!それで良いんだ!もっと来い!俺を殺して見せろ!」
 しかし、攻撃したいのは山々だが膝をついてしまう。
 今ので大分無茶をしてしまったようだ。
「くっ!」
「おいおい、その程度か。」
 少し、残念そうな声を上げられる。
「いや、まだだ。」
 剣を支えに立ち上がる。
 しかし、このままでは勝てないだろう。
 それに、俺にはこいつを殺すのに、躊躇いがある。
 ならば、躊躇いが無いであろう人物に変わってもらうとしよう。
 もう戻ってこれないかもしれないが、セラ達を守れるのならそれで良い。
「さぁ、後は親子で決着をつけてくれ。後は頼んだぞ、アルフレッド。」

「……なんだ?」
 明らかにアルフレッドの気配が変わった。
 しかし、どこか懐かしくも感じる気配だ。
「っ!」
 等と考えているとアルフレッドが距離を詰め、斬りかかってきた。
 なんとか捌くが、数ヵ所傷を負ってしまう。
「ちっ!変わるならもっと早く変われよな……。」
 アルフレッドがなにやら独り言を呟いている。
 が、それは昔のアルフレッドの口調そのものであった。
 懐かしく感じたのはそういう所なのだろうか。
「おい、一体何をした。」
「はぁ、何でも無い。ただ、返してもらっただけだ。一時的にな。」
 どこか荒々しい口調。
 先ほどまでとはまるで違う様子に戸惑ってしまう。
 それに、攻撃にも戸惑いが無い。
 これは強いとそう言えるだろう。
「どうせ最終的にはあっちに戻っちまうからな、どうせならボロボロにしてからかえしてやるよ!」
 そう言うとアルフレッドは先程よりも早く、そして思い一撃をぶつけてくる。
 明らかに戦闘スタイルが変わった。
(くっ!早い!)
 捌き続けるが、時が経つにつれ傷も増えていく。
 あまり長く戦ってはいてはこちらが不利になる。
 そう思い、剣を横に振る。
 アルフレッドは後方へ飛び退き、剣は空を切った。
「……お前、さっきから俺を本気で殺そうとしてなかっただろ?」
「……何?」
 唐突に質問を受ける。
「さっきからずっと見てたけどよ、殺そうと思えばいつでも殺せた。なのにお前はそうしなかった。何故だ?」
「……それは。」
 答える前に言葉を遮られてしまう。
「いや、当ててやる。お前はもう気づいているんだ。お前が俺を殺してももう意味は無いって、あいつは帰ってこないってな。」
 何も言葉を返せなかった。
 そんな俺を無視して話を続ける。
「元々、お前が俺を殺そうとしたのはアーロンを王位につかせるため。そして、お前は帝国と王国を帝国の属国とする条件で力を借り、王位を奪おうとした。だが、その時当時の国王が病に倒れ、最早帝国の力を借りる必要は無くなった。国王がもう長くないのは誰の目にも明らか。そうなれば次の国王はお前でアーロンを次期国王にすることも容易だった筈だ。だが、帝国と手を結んで、国王が死ぬからやっぱり辞めますなんて事は出来ない。そんなことをすれば帝国に攻められて終わりだからな。」
 全てが図星だ。
 ここまで読まれていたとは。
「そして、お前はやむなく計画を実行に移した。どちらにせよ跡継ぎ問題で俺は火種になると分かっていたからだ。だが、そこで問題が起きた。俺が生き残ってしまった事だ。念のために予め借りていた帝国の陽炎部隊も使ったがフレン母上しか殺せなかった。その後は取り敢えず計画通りに進めて貴族連合のリーダーにアーロンを当てた。お前の弟のアラン叔父上の策も偶然一致したが、そこまではお前の想定通りだった。だが、アラン叔父上の策によって貴族連合が丸々帝国と敵対し、お前の計画は崩れた。帝国が負けると読んだお前はせめて俺を殺して再興したエルドニアの国王をアーロンにしようとしたが、さっき皇帝が帝位を俺に譲ると言った事からその必要も無くなった。だから、お前が俺を殺す理由は無くなったんだ。」
「あぁ、その通りだ。」
 アルフレッドは体力の回復を狙っているのだろう。
 その事は分かったが、あえて話に付き合う。
「だが、あの2対1の状況までは想定通りだった。もし、あの状況を切り抜けられないようなら本気で殺すつもりだった。あいつの遺言もあるから俺の手でな。だが、お前は切り抜けた。それほどの知略や生きようとする意思があるのなら、もうお前を殺す意味は無いとそう思ってしまったんだ。」
「……まぁ、あいつもお前を殺すのはためらっていたようだがな。」
 あいつとは恐らく先程まで戦っていたアルフレッドの方だろう。
 詳しくは全く分からないが今のアルフレッドは先程までのアルフレッドとは違う。
 それはわかるのだ。
 いや、どちらかというと今のアルフレッドが、昔から知っているアルフレッドのような気がするが。
「どういうことだ?」
「気付いてたんだよ。お前が俺と同じく全ての行動がお前の愛する家族を思っての行動だった事にな。」
 確かに言われてみればアルフレッドを殺すと考えていたのを省けば俺は家族の為にここまでしていたんだ。
 そして、最後はアルフレッドも殺す気は無かった。
「だから、お前に対して恨みしか無い俺が、あいつの代わりにお前を殺してやるよ。」
「まぁ、良いだろう。お前達の関係はよく知らんがそれが、お前の為になるのなら最後は父親らしく息子の成長の為の犠牲になってやろう。」
 互いに剣を構える。
 向こうは全力だ。
 こちらは全力を出すことは無い。
 だが、それで平等だろう。
「ま、あいつのためってのが気に食わないが、行くぞ!親父!」
「さぁ、来い!アルフレッドよ!」
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