嫌われ王子はしてはいけない恋をした。 ~彼と私の1年間~

虹色金魚

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5、食事事情

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「では食事にいたしましょう。 普段お食事はどうされていたのですか?」

ユノは久々に新しい服を着た。

パジャマ、と言うには手触りが良く、身につけた瞬間から気持ちいい。 ジャスは 待ってました と言わんばかりに湯浴みを終えたユノにクリームやオイルを例のくたびれたソファに座って塗りたくってきた。髪もせっせと「痛くありませんか? 少し痛んでいる所は切ってしまいましょうね。」なんて気遣いつつ櫛を通し、丁寧にオイルを揉み込んでいく。お陰で6年ぶりに髪も肌も多少艶っとしている。ユノはただただ恐縮しきりだった。

ジャスは湯浴みをして血色が良くなったユノを見て密かに安堵していた。

「はっ、はいっ。 食事は……いつも……自分で……差し入れもあるので、自分で何とかしていました……。」

やっぱり恥ずかしくてジャスを見ることが出来ず、俯いてポソポソ話した。 こんな待遇の王子様など他国にいるものか。

「そう……、なんですね。 ……。 ユノ様は、とても頑張っていたのですね。」

穏やかなジャスに優しく頭を撫でられ、ユノはこれまでの頑張りをジャスに認めて貰えた気がして、つい緊張の糸が切れて涙が溢れて止まらなくなってしまった。

「……ふっ……うっ……うぅ……」

恥ずかしくて手で口を押さえて声を殺すも、ジャスにはバレバレだった。

「もう……もう大丈夫です……。 泣きたい時は泣いてもいいのです。」

ユノよりも大きなジャスがユノを包み込むように抱き締めた。 低くて穏やかなジャスの声がユノに染み入る。 ジャスの肩口に顔を押し付けるような格好になったユノは、不思議とジャスの纏う爽やかな香りや暖かな体温に安心感を覚えた。

ユノを見て まさか、と思っていたジャスも、この食事事情には驚きと怒りを禁じ得なかった。

もちろん事前情報はあった。 だが、あの畑といい、パッと見た小さいキッチンの状態といい、ユノの頑張りがひしひしと伝わってくる。

どうしてもっと早くユノの元に来られなかったのか……。 ジャスは静かに泣くユノを優しく抱き締めて肉の無い痩せた背中を擦りながら、ひとしきり後悔し、怒りを押さえた。



~○~○~○~○~○~○~○~○~



「えっ、ジャス様も……ユノ様?の……離宮で食事をするのですか?」

王宮の厨房にやってきたジャスは、面食らった。誰もユノのことを気にしていない、居ないものとして扱っていたのだ。

「ジャス様、わたくし達と食事を摂りませんこと?」

王女に遣えるどこぞの貴族の娘だろうか、ジャスに色目を使ってくるのが気にくわない。

正直、ジャスは王宮の中程にある厨房には来たくなかったのだ。 みんなユノを蔑ろにした敵みたいなものである。

「いえ、結構ですので。 私はこれにて失礼いたします。」

波風立たないように穏やかに見える微笑みを浮かべ、ジャスはもう1つの下働き専用の厨房に行ってみることにした。

先程ユノからロイのことを聞いたのだ。 ユノを気にかけて、肉やパン、時折果物を差し入れしてくれていたらしい。

よっぽどロイとの方が仲良く出来そうである。

「あなたがロイですね? 私は今日からユノ様の教育係になりました、ジャスと申します。」

「はっ! はいっ! 俺……わっ、私がロイですぅっ」

いきなり見目の良いジャスがロイを訪ねてきて、厨房はちょっとした騒ぎになった。

上ずった声を出す不安そうなロイを見てジャスは微笑んだ。

「そう緊張されなくても大丈夫です。 いつもユノ様に差し入れをしてくれていたそうですね。ありがとうございます。」

美丈夫で、どこからどうみても貴族にしか見えないジャスにいきなり頭を下げられてしまったロイは、真っ青を通り越して顔面蒼白だ。

「いやっ! あのっ! 頭をっ、頭を上げてください! ジャス様!!」

アワアワするロイがちょっと可愛く思えたジャスだったが、ゆっくり頭を上げた。

すると、横から人の良さそうな中年の男性が、

「ロイは……、いつもどこかに行っていると思っていたら、あのユノ様の所に差し入れをしていたのか? ……私たちは上が怖くて何も出来なかった。 ありがとう、ロイ。」

「先輩……。」

先輩、と呼ばれた男性はジャスに真摯に向き合った。

「あの、ジャス様。 私はこの厨房の責任者のニールディと申します。 実は、上から裏ルートで命令が出ていて、厨房からユノ様に施しをするのを禁止されてしまっていました。 ユノ様には本当に申し訳ないことをしてしまった……。」

ジャスは怒りに震えたが、ここでニールディを殴り倒してしまうのは間違っている、と理性を働かせる。

命令されてしまえば、従わざるを得ないのだ。





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◎ニールディ→「室長」と役職名で呼ばれると年寄りになったなぁ、と実感してしまうので、「先輩」と周りに呼ばせている。時折混乱と困惑を招く。



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