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6、ジャス……さん? ジャス……先生?
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「このお野菜で私が何か一品作りましょう。」
ロイとニールディに2人分の食事をなんとかお願いしたジャスだが、始めは「ユノ様とジャス様のお食事などっ! 私たちにはとてもじゃありませんが用意出来るとは思えず……!!」とニールディに頭を下げられながらしっかり断られてしまった。
下働き専用の厨房といえど、王宮に出入りして食事を用意するのだ。家柄、人柄がしっかり加味されているだろうし、毒等は自分で何とか出来ると考えたジャスは、「大丈夫ですから。」とニールディを何とか説得したのだった。
「え、ジャス、様は料理が出来るのですか?」
たどたどしく名前を呼ぶユノがかわいくて、ジャスは目を細めた。
「えぇ。 少しですが、私も料理ができますよ。 今初めて名前を呼んで下さいましたね。ユノ様。 出来ればジャスとお呼び下さい。」
ニコッと微笑みながらユノに無茶振りをすれば、ユノは困ったようにうろうろと視線を動かしてから、「ジャス……さん……ジャス……先生……」と何度かブツブツ呟き、
「ジャス、先生、はいかがでしょうか?」
と言って、少し嬉しそうな顔をした。
「ジャス……先生……ですか……。 」
ユノを凝視しながら全ての動きを止めたジャスが真顔だったものだから、ユノはだんだん不安になってきた。穏やかな表情が多いから分からなかったが、メガネから覗く青くて切れ長の目が恐ろしくさえ感じる。
「あっ、あのっ、すみませんっ! よっ、呼び捨てになんて到底出来ないですしっ、教育係といえば“先生”くらいしか思い付かなくて…………失礼しました…………」
目を見ていられなくて俯いてか細い声で謝ったが、自分が何かとんでもないミスをしてしまったような気がして、掌で顔を覆った。
実はジャスはとても喜んでいた。ユノから可愛らしく「ジャス先生」などと呼ばれてしまい、心の大事な所が壊れてしまいそうだった。
「ユノ様、ユノ様。 大丈夫です。 “ジャス先生”、で行きましょう。 ふふっ、嬉しいですね。」
いつの間にかユノを安心させるようにフワッと抱き込み、肉の無い背中を優しく擦られていた。まるで不安が溶け出していくようだ。
「あっ……ほっ、本当ですか? 良かった……。」
ユノは緊張から解放されてジャスにくたっとくっつく形になった。ジャスの体温や爽やかないい香りにとても癒される。ジャスはしばらくユノを抱き締め続けた。
~○~○~○~○~○~○~○~
「うわぁ~!! いい香り……美味しそうですっ!! ありがとう! ロイ!!」
口をあんぐり開けて固まるロイから配膳カートを受け取ったユノは、嬉しそうに声を上げた。
ロイは、小汚なくなく、嬉しそうにはしゃぐユノ王子を初めて見て、言葉を失っていた。
髪が……、いつもみたいにもったりしてない。なんならサラサラしてて艶がある。肌も……粉が吹いてなくてしっとりに見える。唇は可憐なピンク色だし、嬉しそうにはしゃぐ姿は可愛らしすぎて……。
かっ、可愛らしいってなんだっ!!
慌てて頭をブンブン降ったロイは、
「これからは毎日朝、昼、夜って俺が届けにくるからなっ! いやっ、私が届けに参ります!!」
「ふふっ、ジャス先生がいるからって。 普通でいいよ? ロイ。」
そんな訳ないだろっ! と、心の中で渾身の突っ込みを入れるも、悲しいことにユノにはまったく通じない。ロイは今すぐに後ろを振り返ってユノにジャスの顔を見てもらいたかった。後ろからジャスがまるで……まるでロイを睨み付けるように凝視してくるのだ。いや、あれはどう見ても睨んでいる。怖くて怖くてしかたがない。
「いや、ユノ様は王子様だからなっ! 私も今後気を付けます! また明日の朝伺いますね!! 失礼します!」
ロイはちょっと悲しそうなユノに手を振って離宮を後にした。
「どうしたのですか? ユノ様。」
気落ちしてしまったユノにジャスが声を掛けると、
「いえ、ロイが、ロイが急によそよそしくなってしまったのが悲しくて……。」
この6年、とても辛い時期を共に歩んでくれた仲間だと勝手に思っていたユノは、ロイと急に距離が出来てしまったことがとても悲しかった。
「そうなんですね……。では、ロイにはそのように伝えましょう。 ユノ様、こちらへ。 温かいうちにいただきましょう。」
ジャスの心遣いに嬉しくなったユノは、くたびれたソファに腰を下ろし、6年ぶりにマトモな食事にありついた。 やはり食が細くなりすぎていて、全部は食べることは出来なかったが、とても満足できた。ただ、ジャスが「もっと食べられますか?」「このデザートなら大丈夫でしょうか。」とやたらユノに食べさせたがるのがとても不思議だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◎「このお野菜」→カブに似たお野菜はジャスのお陰で洋風の煮物に変身し、美味しく頂かれました。やたらジャスが野菜を誉めたのは言わずもがなです。
ロイとニールディに2人分の食事をなんとかお願いしたジャスだが、始めは「ユノ様とジャス様のお食事などっ! 私たちにはとてもじゃありませんが用意出来るとは思えず……!!」とニールディに頭を下げられながらしっかり断られてしまった。
下働き専用の厨房といえど、王宮に出入りして食事を用意するのだ。家柄、人柄がしっかり加味されているだろうし、毒等は自分で何とか出来ると考えたジャスは、「大丈夫ですから。」とニールディを何とか説得したのだった。
「え、ジャス、様は料理が出来るのですか?」
たどたどしく名前を呼ぶユノがかわいくて、ジャスは目を細めた。
「えぇ。 少しですが、私も料理ができますよ。 今初めて名前を呼んで下さいましたね。ユノ様。 出来ればジャスとお呼び下さい。」
ニコッと微笑みながらユノに無茶振りをすれば、ユノは困ったようにうろうろと視線を動かしてから、「ジャス……さん……ジャス……先生……」と何度かブツブツ呟き、
「ジャス、先生、はいかがでしょうか?」
と言って、少し嬉しそうな顔をした。
「ジャス……先生……ですか……。 」
ユノを凝視しながら全ての動きを止めたジャスが真顔だったものだから、ユノはだんだん不安になってきた。穏やかな表情が多いから分からなかったが、メガネから覗く青くて切れ長の目が恐ろしくさえ感じる。
「あっ、あのっ、すみませんっ! よっ、呼び捨てになんて到底出来ないですしっ、教育係といえば“先生”くらいしか思い付かなくて…………失礼しました…………」
目を見ていられなくて俯いてか細い声で謝ったが、自分が何かとんでもないミスをしてしまったような気がして、掌で顔を覆った。
実はジャスはとても喜んでいた。ユノから可愛らしく「ジャス先生」などと呼ばれてしまい、心の大事な所が壊れてしまいそうだった。
「ユノ様、ユノ様。 大丈夫です。 “ジャス先生”、で行きましょう。 ふふっ、嬉しいですね。」
いつの間にかユノを安心させるようにフワッと抱き込み、肉の無い背中を優しく擦られていた。まるで不安が溶け出していくようだ。
「あっ……ほっ、本当ですか? 良かった……。」
ユノは緊張から解放されてジャスにくたっとくっつく形になった。ジャスの体温や爽やかないい香りにとても癒される。ジャスはしばらくユノを抱き締め続けた。
~○~○~○~○~○~○~○~
「うわぁ~!! いい香り……美味しそうですっ!! ありがとう! ロイ!!」
口をあんぐり開けて固まるロイから配膳カートを受け取ったユノは、嬉しそうに声を上げた。
ロイは、小汚なくなく、嬉しそうにはしゃぐユノ王子を初めて見て、言葉を失っていた。
髪が……、いつもみたいにもったりしてない。なんならサラサラしてて艶がある。肌も……粉が吹いてなくてしっとりに見える。唇は可憐なピンク色だし、嬉しそうにはしゃぐ姿は可愛らしすぎて……。
かっ、可愛らしいってなんだっ!!
慌てて頭をブンブン降ったロイは、
「これからは毎日朝、昼、夜って俺が届けにくるからなっ! いやっ、私が届けに参ります!!」
「ふふっ、ジャス先生がいるからって。 普通でいいよ? ロイ。」
そんな訳ないだろっ! と、心の中で渾身の突っ込みを入れるも、悲しいことにユノにはまったく通じない。ロイは今すぐに後ろを振り返ってユノにジャスの顔を見てもらいたかった。後ろからジャスがまるで……まるでロイを睨み付けるように凝視してくるのだ。いや、あれはどう見ても睨んでいる。怖くて怖くてしかたがない。
「いや、ユノ様は王子様だからなっ! 私も今後気を付けます! また明日の朝伺いますね!! 失礼します!」
ロイはちょっと悲しそうなユノに手を振って離宮を後にした。
「どうしたのですか? ユノ様。」
気落ちしてしまったユノにジャスが声を掛けると、
「いえ、ロイが、ロイが急によそよそしくなってしまったのが悲しくて……。」
この6年、とても辛い時期を共に歩んでくれた仲間だと勝手に思っていたユノは、ロイと急に距離が出来てしまったことがとても悲しかった。
「そうなんですね……。では、ロイにはそのように伝えましょう。 ユノ様、こちらへ。 温かいうちにいただきましょう。」
ジャスの心遣いに嬉しくなったユノは、くたびれたソファに腰を下ろし、6年ぶりにマトモな食事にありついた。 やはり食が細くなりすぎていて、全部は食べることは出来なかったが、とても満足できた。ただ、ジャスが「もっと食べられますか?」「このデザートなら大丈夫でしょうか。」とやたらユノに食べさせたがるのがとても不思議だった。
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◎「このお野菜」→カブに似たお野菜はジャスのお陰で洋風の煮物に変身し、美味しく頂かれました。やたらジャスが野菜を誉めたのは言わずもがなです。
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