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7、魔法?!
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「おはよう、ございます。」
朝から完璧な“ジャス先生”に挨拶する。
昨夜は寝る場所とベッドで少し、揉めてしまった。
ベッドが1つしかないのに、ジャスが離宮で生活する、と言い出したのだ。
「いえ、でも……ベッドは私が使ってるの1つしかありませんし……」
「そこは問題ありません。 こう見えて手ぶらで来たわけではないのですよ。 ここはお母上様が使っていたお部屋ですか?」
今は全く使っていない、かつて母が使っていた部屋。
「うん、こちらの方が広いし、日も良く当たりそうです。 こちらをユノ様のお部屋として使うのはいかがでしょうか。」
ジャス先生が一緒に生活するなら、その方がいいかもしれない。明日は模様替えだ、とユノは心に決めた。
「はい、それがいいかと思います。」
しかしジャスは……、
「少々お待ち下さい。空気もこもってしまっていますし、換気も必要ですね……。」
なんてブツブツいいつつ、部屋に入り扉を閉めると、割りとすぐに出てきた。
「ユノ様、完璧です。」
ユノは部屋を見て驚いて口をポカンと開けて目を見開いた。さっきまで何もなかった空間が、生活しやすそうな部屋になっているのだ。大きなベッドも鎮座していて、フカフカしてそうだ。
「えっ、これ……なに?……なんで……」
「ふふっ、驚かせてしまって申し訳ないです。スワニ帝国では今でも基本みんな魔法を使えるのです。 私はちょっと規格外、というか……。 あっ、これは内緒ですよ? ユノ様。」
片目を閉じて口許に人差し指を一本立ててユノを覗き込むジャスは、まるでイタズラが成功したかのようにお茶目でなんなら可愛いとさえ感じてしまうが、ユノは最早言葉も出なかった。
確かにシェールズ国は昔、魔法が身近にあったらしい、という話はかつての教育係から聞いたことがある。しかしまさか目の前でそれを見せられてしまうとは……。
眠る直前の “魔法”という衝撃はかなり強かったが、バスタブの件も何となく理解して、自分なりに納得した。そしてちょっとした秘密を抱えてしまったことに軽く頭が痛くなった。
そんな寝入りだったが。
「よく眠れましたか?」
「……はい、お陰さまで久々によく眠れました……。」
……まるで母がいた時みたいだ。
体は正直らしい。
ジャスは朝日に照らされてキラキラするユノを眩しそうに眺めた。
~○~○~○~○~○~○~○~
「さっそく今日から授業を始めましょう。」
ロイが届けてくれた朝食を共に摂り、座学が始まった。
昨夜に比べてフレンドリーなロイにホッとしながらも、朝からお腹いっぱいになったユノは正直少し眠たくなってきてしまった。
しかし、そこは踏ん張りどころだ。
「ユノ様は学園に通われる前の13歳までは教育係がついていたのですよね。 では、学園で教わること、えー、算術や領地経営、政治、それから、スワニ帝国のことを学んで行きましょう。婚姻は約1年後です。 それまでに出来るだけ全体をフォローしていきましょう。」
「1年後なのですね……。 はい。」
軽く方向性を確認して、ジャスの低くて穏やかな声が響く。婿入りが“1年後”なのには驚いたが、貴族の場合妥当なところか、又は早いのかもしれない。くたびれたソファは消え、いつの間にか品の良いソファに変わっていて驚いた。
文字通りの魔法なのだろう、とユノも理解が早い。
この日の昼過ぎ、畑の師匠のグリエドが訪ねてきた。相変わらずの老紳士ぶりだ。ユノを見て驚きを隠さなかったが、なんとか平静を装い、
「あなたがジャス様ですね。」
グリエドは嬉しそうに皺のある顔をほころばせ、ジャスに挨拶した。
「ロウから伺っております。 我々では指を咥えて見ていることしか出来なかったのです。 どうぞユノ様をよろしくお願い致します。」
深々と頭を下げたグリエドに、ジャスは、
「なにも問題ありませんよ、どうか頭をおあげください。」
と、穏やかに言った。
グリエドはユノの周辺の事情や、厨房の裏事情をずいぶん前に知り、ユノのことをとても心配していた。そこへ隣国スワニ帝国への婿入り。国はいったい何を考えているのかと、眩暈がして倒れそうになった。しかも、ジャスが派遣されてきて、どうなるのかと固唾を飲んだが、ユノの暮らしが豊かになっていることを感じとりグリエドはジャスに心から感謝したのだ。
師匠グリエドの言葉で、畑に育てるものをサラダに使える葉物野菜や、これからの季節に元気に実のなる野菜に絞ることにした。 作物を育てることに楽しさを見出だしていたユノが、「畑仕事を続けてもいいなら、やりたいです。」とジャスに言ったのだ。
もう食べることを心配しなくてもいい……。
師匠の言葉に改めて実感が沸いてきて、ユノはとても心が軽くなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◎グリエド→小さい頃からユノを遠くからひっそり見てきたので、まさかこんなことになるとは、と大変心を痛めていた。気分はユノのおじいちゃん。
朝から完璧な“ジャス先生”に挨拶する。
昨夜は寝る場所とベッドで少し、揉めてしまった。
ベッドが1つしかないのに、ジャスが離宮で生活する、と言い出したのだ。
「いえ、でも……ベッドは私が使ってるの1つしかありませんし……」
「そこは問題ありません。 こう見えて手ぶらで来たわけではないのですよ。 ここはお母上様が使っていたお部屋ですか?」
今は全く使っていない、かつて母が使っていた部屋。
「うん、こちらの方が広いし、日も良く当たりそうです。 こちらをユノ様のお部屋として使うのはいかがでしょうか。」
ジャス先生が一緒に生活するなら、その方がいいかもしれない。明日は模様替えだ、とユノは心に決めた。
「はい、それがいいかと思います。」
しかしジャスは……、
「少々お待ち下さい。空気もこもってしまっていますし、換気も必要ですね……。」
なんてブツブツいいつつ、部屋に入り扉を閉めると、割りとすぐに出てきた。
「ユノ様、完璧です。」
ユノは部屋を見て驚いて口をポカンと開けて目を見開いた。さっきまで何もなかった空間が、生活しやすそうな部屋になっているのだ。大きなベッドも鎮座していて、フカフカしてそうだ。
「えっ、これ……なに?……なんで……」
「ふふっ、驚かせてしまって申し訳ないです。スワニ帝国では今でも基本みんな魔法を使えるのです。 私はちょっと規格外、というか……。 あっ、これは内緒ですよ? ユノ様。」
片目を閉じて口許に人差し指を一本立ててユノを覗き込むジャスは、まるでイタズラが成功したかのようにお茶目でなんなら可愛いとさえ感じてしまうが、ユノは最早言葉も出なかった。
確かにシェールズ国は昔、魔法が身近にあったらしい、という話はかつての教育係から聞いたことがある。しかしまさか目の前でそれを見せられてしまうとは……。
眠る直前の “魔法”という衝撃はかなり強かったが、バスタブの件も何となく理解して、自分なりに納得した。そしてちょっとした秘密を抱えてしまったことに軽く頭が痛くなった。
そんな寝入りだったが。
「よく眠れましたか?」
「……はい、お陰さまで久々によく眠れました……。」
……まるで母がいた時みたいだ。
体は正直らしい。
ジャスは朝日に照らされてキラキラするユノを眩しそうに眺めた。
~○~○~○~○~○~○~○~
「さっそく今日から授業を始めましょう。」
ロイが届けてくれた朝食を共に摂り、座学が始まった。
昨夜に比べてフレンドリーなロイにホッとしながらも、朝からお腹いっぱいになったユノは正直少し眠たくなってきてしまった。
しかし、そこは踏ん張りどころだ。
「ユノ様は学園に通われる前の13歳までは教育係がついていたのですよね。 では、学園で教わること、えー、算術や領地経営、政治、それから、スワニ帝国のことを学んで行きましょう。婚姻は約1年後です。 それまでに出来るだけ全体をフォローしていきましょう。」
「1年後なのですね……。 はい。」
軽く方向性を確認して、ジャスの低くて穏やかな声が響く。婿入りが“1年後”なのには驚いたが、貴族の場合妥当なところか、又は早いのかもしれない。くたびれたソファは消え、いつの間にか品の良いソファに変わっていて驚いた。
文字通りの魔法なのだろう、とユノも理解が早い。
この日の昼過ぎ、畑の師匠のグリエドが訪ねてきた。相変わらずの老紳士ぶりだ。ユノを見て驚きを隠さなかったが、なんとか平静を装い、
「あなたがジャス様ですね。」
グリエドは嬉しそうに皺のある顔をほころばせ、ジャスに挨拶した。
「ロウから伺っております。 我々では指を咥えて見ていることしか出来なかったのです。 どうぞユノ様をよろしくお願い致します。」
深々と頭を下げたグリエドに、ジャスは、
「なにも問題ありませんよ、どうか頭をおあげください。」
と、穏やかに言った。
グリエドはユノの周辺の事情や、厨房の裏事情をずいぶん前に知り、ユノのことをとても心配していた。そこへ隣国スワニ帝国への婿入り。国はいったい何を考えているのかと、眩暈がして倒れそうになった。しかも、ジャスが派遣されてきて、どうなるのかと固唾を飲んだが、ユノの暮らしが豊かになっていることを感じとりグリエドはジャスに心から感謝したのだ。
師匠グリエドの言葉で、畑に育てるものをサラダに使える葉物野菜や、これからの季節に元気に実のなる野菜に絞ることにした。 作物を育てることに楽しさを見出だしていたユノが、「畑仕事を続けてもいいなら、やりたいです。」とジャスに言ったのだ。
もう食べることを心配しなくてもいい……。
師匠の言葉に改めて実感が沸いてきて、ユノはとても心が軽くなった。
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◎グリエド→小さい頃からユノを遠くからひっそり見てきたので、まさかこんなことになるとは、と大変心を痛めていた。気分はユノのおじいちゃん。
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