嫌われ王子はしてはいけない恋をした。 ~彼と私の1年間~

虹色金魚

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13、この国を出ます。

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 季節は巡って、春めきを見せる3月。



 とうとうユノが隣国へ発つ日がやって来た。



「ユノ様はよく頑張りました。もう私からお教えすることは何もありません。 いいですか? これは私からユノ様への贈り物です。」



 ジャスとユノは2人でたくさんの時間を過ごした例のソファに座っていた。

 もう教えることは無い、なんて言われてしまって、胸に静かな物悲しさが去来する。 ジャスが贈り物、と言って差し出してくれたのは、ジュエリーが入っていそうな、ちょっと大きめの箱だ。それをテーブルに置いたジャスは、ユノの美しい銀髪を撫でた。キラキラ輝くツルスベの銀髪は、ずっと触っていたくなる。

 ユノの準備も終わり、もう馬車に乗るだけ、となっていた。



 一昨日の夜は何故かジャスに抱き潰されてしまい、昨日はベッドの上でダラダラ過ごしてしまった。何も言わなくてもアレコレと世話を焼くジャスが少し可愛く思えてしまい、自分の目はどこかおかしいのか? と一瞬考えたことは、もう忘れているユノだ。



「ジャス先生……、こんな……一生のお別れみたいなプレゼント、嫌です。」



 ユノは自分でも面倒な人間に成り下がっている自覚は、ある。

 だが、ジャスともうお別れだと思うと、胸が痛んで痛んでどうしようもない。涙はもう枯れた、と思っていたのに、また次から次に流れ出てきてしまった。



 ジャスはスワニ帝国の人だが、最後にやらなけるばならない報告や事務処理があって、一緒にスワニへは行けない、ということだった。ユノもその方がいい、と思った。そうしなければ、離れられなくなってしまう。大好きなジャスと生涯の伴侶が待つ場所になんて行きたくなかった。



「あぁ……、この美しいエメラルドまで涙と一緒に溶け出てしまいそうではないですか……。」



 ジャスはユノの顎をクイッと持ち、ハンカチで涙を拭う。



「ほら、この箱を開けてみてください? ユノ様。」



 ヒックヒックとしゃくりあげながら目元を真っ赤にして、ユノは震える指先を何とか動かしてジャスがくれた箱を手に取る。



「開けてみてください。」



 少しの力で開いた箱の中身は……、



「うわぁ……!」



 それは美しいブローチだった。



 湖を表しているのか、青くて複雑な丸い形の土台に、キラキラと輝く2羽の白鳥が嘴をくっ付けてまるでハートのような形になっている。白鳥の目はそれぞれ青と緑で、まるで自分達のようだ、とユノは思った。



 いつの間にか涙も引っ込んでいた。



「これ……。」



 おずおずとジャスを見上げれば、



「私とユノ様の思い出です。 必ずどんな時も身に付けていて、離したりしてはいけませんよ? 約束です。」



 と、ジャスはユノの唇に最後のキスを落とした。









~○~○~○~○~◎~○~○~○~









 スワニ帝国からの華美でない迎えの馬車に、ユノが乗り込もうとしている。これから2週間程の馬車の旅だ。ジャスが付けてくれた白鳥のブローチは胸元で輝いている。絶対にいつも付けておく、と心から誓った。



 帝国へはメイドを2名連れていってよいことになっているが、ユノにそんな人間はいなかった。



「ジャス先生、この1年本当にありがとうございました。」



 ユノはジャスに頭を下げた。



 ジャスとの時間はもう本当に最後だ。



「はい。ユノ様でしたら大丈夫です。」



 いろんな感情を込めてジャスを見上げるけど、ジャスを好きな気持ちも一緒にここに置いて行く。







ーーーーーーーーーーーーーーーー







◎ロイ&グリエド→ひっそりユノを見送る。号泣。



◎「嫌われ王子はしてはいけない恋をした。」は、全部で16話+おまけ話になります。

15日の日曜日までどうぞお付き合い下さい♡


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