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Promenade
黒いドレスの呪縛
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「卒業したぞーーっ!」
「勉強からの解放日よー!」
フリードとクロエがホールから出る頃には、ホールのすぐ近くの庭園にかけて、既に多くのガウンが空を舞って庭園を黒く染め上げていた。
苦労を乗り越えた事をお互いに讃えあい、開放感から何十年も前のたった1人の生徒が空へ放ったガウンが、このような伝統になることもあるのだと思うと不思議な光景だ。
「クロエ、卒業おめでとう」
「フリードリヒ殿下もおめでとうございます」
ホールからいくつものガウンを眺めながら自然に足が止まった場所で、私たちは合図のように目線を絡めると、ガウンを青々とした空に向かって放った。
「ふふふふっ」
2人の放ったガウンは風を纏い、芝生に影を作りながらふわりと高く高く飛んでいった。
「一体幾つの魔法を無詠唱で使えるんだい?」
「試してないから分からないけど、簡単な魔法なら詠唱しなくても使える気がするわ」
要は使用したい魔法を詳細にイメージができ、適切に魔力をコントロール出来るかという問題に過ぎない。
「是非秘訣を教えてもらいたいものだ」
「意外と簡単よ。詠唱していた時の魔力の流れを覚えておく事、魔法をどうやって操りたいのか、どういう状態にしたくて使用するのか、詳細にイメージするのよ」
「それを一瞬でやっているのかい?」
「そうね。最初は難しいのかもしれないけど、何でも経験すれば容易に出来るようになるということだと思うわ」
ここ最近は特に魔法を容易に使えるようになっていた。
今朝起きたときには魔力保持量も増えているのではないかと、身体を巡る魔力の多さに疑問を持ったくらいだ。
今ならオレンジの皮を綺麗に剥くこともできそうな気がする。
「そんなことを言えるのはこの大陸でも君だけだろう」
「ならもっと崇め立てられても良さそうなものじゃない。王家から持参金でも取ろうかしら?」
「僕の場合は個人資産だから持参金より自由に君のために使えると思うけど?」
「そうねぇ…まぁ持参金でも個人資産でも、どっちにしろ私のお金じゃないもの。あってもなくても一緒ね」
私たちの足は自然と学園の教会へと向かっていた。
これから私たちは神に結婚の赦しを乞うのだ。
「ちょっと待て!」
「何よ…大声出して」
庭園を抜け、教会へ向かう為に道を曲がったときに急に立ち止まったのでおかしいと見上げると、すでに立ち止まっているにも関わらず、フリードが大声をあげる。
「ちょ…やめてよ…」
エスコートの為にフリードの曲げられた腕に添うように置いていた手を握られ、フリードは正面に来ると、するりとドレスのスリットを上から下へなぞる。
そして太ももに触れたかと思うと、その手を再び上に向けて撫で上げるので、反射的にその手から逃れようと半歩下げようとすると、握られていた手をグイッと引かれてバランスを崩す。
「何でこんなドレスを?」
崩れかけた身体をフリードの体が受け止め、ホッと一息ついてから離れようとしても、腰に手が回されて苦しい程に締め上げられる。
怒りを含んだ凍てついた息が耳に吹きかかる。
「何でと言われても…」
ウラリーの着ていた扇情的なドレスを思い出してなんてとても言えない。
「そんな格好で壇上に上がったのかい?」
「…ガウンを着ていたわ」
腰に触れていた手がするりと下へ落ちて、再びスリットに触れる。
「一段上がるごとにこの脚を晒しながら?」
「ガウンで隠れていたってば!」
鼻先が触れるほど近くにある顔に、ふいっと目だけ逸らす。
「こんな格好は寝室でしか認めないよ」
「そうね、寝室でセクシーなドレスを着ていたらつい手が出てしまうのでしょうね」
寝室という言葉に、敏感に反応してしまう。
どんなに愛を囁いても、到底私の求めているものとは違うのだと思ってしまう。
「あれは君がっ!」
勢いよくフリードがクロエの肩を掴み、顔を上げたところで、ゴホンッと咳き込む声が聞こえてきて、2人は顔を横に向けた。
「これはこれはこんなところにいらっしゃるのは私の待ち人ではありませんか。お邪魔したでしょうか?」
声をかけてきたのは黒いガウンを纏ったサリーだった。
待ち合わせをした覚えはないが、教会方面から歩いてきたようだ。
「そろそろ離れられてもよろしいのでは?」
少し顔を赤らめてもう一度咳払いをされ、クロエは全て見られていたのだと悟りフリードの手を振り払った。
「サリー、卒業おめでとう」
恥ずかしさのあまりクロエもまた顔を赤らめていた。
ラブラブ大作戦とやらのせいにしたくとも、友人を前にすると恥ずかしさの方が増してしまう。
「クロエ様もおめでとうございます。そして、フリードリヒ殿下もおめでとうございます。この佳き日にお会い出来て光栄でございます」
フリードの前なので綺麗にカーテシーをとるサリーにクロエは駆け寄った。
「サリー!プロムまで会えないかと思っていたわ!」
「ふふっ何も聞いてないのですか?」
ふわりと笑ったサリーに応えるようにクロエも一度ニッコリと笑うと、グルリと後ろを向き、フリードを視界に入れると、もう一度ニッコリと笑みを貼り付けた。
「勉強からの解放日よー!」
フリードとクロエがホールから出る頃には、ホールのすぐ近くの庭園にかけて、既に多くのガウンが空を舞って庭園を黒く染め上げていた。
苦労を乗り越えた事をお互いに讃えあい、開放感から何十年も前のたった1人の生徒が空へ放ったガウンが、このような伝統になることもあるのだと思うと不思議な光景だ。
「クロエ、卒業おめでとう」
「フリードリヒ殿下もおめでとうございます」
ホールからいくつものガウンを眺めながら自然に足が止まった場所で、私たちは合図のように目線を絡めると、ガウンを青々とした空に向かって放った。
「ふふふふっ」
2人の放ったガウンは風を纏い、芝生に影を作りながらふわりと高く高く飛んでいった。
「一体幾つの魔法を無詠唱で使えるんだい?」
「試してないから分からないけど、簡単な魔法なら詠唱しなくても使える気がするわ」
要は使用したい魔法を詳細にイメージができ、適切に魔力をコントロール出来るかという問題に過ぎない。
「是非秘訣を教えてもらいたいものだ」
「意外と簡単よ。詠唱していた時の魔力の流れを覚えておく事、魔法をどうやって操りたいのか、どういう状態にしたくて使用するのか、詳細にイメージするのよ」
「それを一瞬でやっているのかい?」
「そうね。最初は難しいのかもしれないけど、何でも経験すれば容易に出来るようになるということだと思うわ」
ここ最近は特に魔法を容易に使えるようになっていた。
今朝起きたときには魔力保持量も増えているのではないかと、身体を巡る魔力の多さに疑問を持ったくらいだ。
今ならオレンジの皮を綺麗に剥くこともできそうな気がする。
「そんなことを言えるのはこの大陸でも君だけだろう」
「ならもっと崇め立てられても良さそうなものじゃない。王家から持参金でも取ろうかしら?」
「僕の場合は個人資産だから持参金より自由に君のために使えると思うけど?」
「そうねぇ…まぁ持参金でも個人資産でも、どっちにしろ私のお金じゃないもの。あってもなくても一緒ね」
私たちの足は自然と学園の教会へと向かっていた。
これから私たちは神に結婚の赦しを乞うのだ。
「ちょっと待て!」
「何よ…大声出して」
庭園を抜け、教会へ向かう為に道を曲がったときに急に立ち止まったのでおかしいと見上げると、すでに立ち止まっているにも関わらず、フリードが大声をあげる。
「ちょ…やめてよ…」
エスコートの為にフリードの曲げられた腕に添うように置いていた手を握られ、フリードは正面に来ると、するりとドレスのスリットを上から下へなぞる。
そして太ももに触れたかと思うと、その手を再び上に向けて撫で上げるので、反射的にその手から逃れようと半歩下げようとすると、握られていた手をグイッと引かれてバランスを崩す。
「何でこんなドレスを?」
崩れかけた身体をフリードの体が受け止め、ホッと一息ついてから離れようとしても、腰に手が回されて苦しい程に締め上げられる。
怒りを含んだ凍てついた息が耳に吹きかかる。
「何でと言われても…」
ウラリーの着ていた扇情的なドレスを思い出してなんてとても言えない。
「そんな格好で壇上に上がったのかい?」
「…ガウンを着ていたわ」
腰に触れていた手がするりと下へ落ちて、再びスリットに触れる。
「一段上がるごとにこの脚を晒しながら?」
「ガウンで隠れていたってば!」
鼻先が触れるほど近くにある顔に、ふいっと目だけ逸らす。
「こんな格好は寝室でしか認めないよ」
「そうね、寝室でセクシーなドレスを着ていたらつい手が出てしまうのでしょうね」
寝室という言葉に、敏感に反応してしまう。
どんなに愛を囁いても、到底私の求めているものとは違うのだと思ってしまう。
「あれは君がっ!」
勢いよくフリードがクロエの肩を掴み、顔を上げたところで、ゴホンッと咳き込む声が聞こえてきて、2人は顔を横に向けた。
「これはこれはこんなところにいらっしゃるのは私の待ち人ではありませんか。お邪魔したでしょうか?」
声をかけてきたのは黒いガウンを纏ったサリーだった。
待ち合わせをした覚えはないが、教会方面から歩いてきたようだ。
「そろそろ離れられてもよろしいのでは?」
少し顔を赤らめてもう一度咳払いをされ、クロエは全て見られていたのだと悟りフリードの手を振り払った。
「サリー、卒業おめでとう」
恥ずかしさのあまりクロエもまた顔を赤らめていた。
ラブラブ大作戦とやらのせいにしたくとも、友人を前にすると恥ずかしさの方が増してしまう。
「クロエ様もおめでとうございます。そして、フリードリヒ殿下もおめでとうございます。この佳き日にお会い出来て光栄でございます」
フリードの前なので綺麗にカーテシーをとるサリーにクロエは駆け寄った。
「サリー!プロムまで会えないかと思っていたわ!」
「ふふっ何も聞いてないのですか?」
ふわりと笑ったサリーに応えるようにクロエも一度ニッコリと笑うと、グルリと後ろを向き、フリードを視界に入れると、もう一度ニッコリと笑みを貼り付けた。
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