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just married
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エイフィルの役場へと戻ったクロエに真っ先に駆け寄ったのはフリードだった。
「大丈夫か!?怪我は?」
「大丈夫よ。魔力もそれ程使ってないわ」
「なら良かった。手紙を見た時は肝が冷えたよ」
抱きしめられて複雑なクロエの頭の先から足の先まで傷が付いていないことを確認する念入りさを発揮したフリードの頬を、クロエは思いっきり引っ張った。
「心配してくれているところ悪いけど、今はフリードの顔は見たくないわ。フリードはこの子の魔力を使わせて」
子猫の入った檻をフリードに渡すと、「にぃーーご」と鳴き声が聞こえた。
「これは魔獣か!?」
「そうみたいね。魔力はそんなに残ってなさそうだけど、他の籠に入れられてるのもそうみたい。あの中に結界を張ってる者がいると思うから、扱いには気をつけてね」
結界を解除されてしまったら、子猫の感情が昂った瞬間前触れもなく攻撃されることになる。
念の為クロエは自分の手で子猫の檻に結界を重ねてかけた。
油断した瞬間にたくさんの命が失われるかもしれない。
そう思えば安全の面だけは他人に任せることは出来なかった。
「クロエ、昨日のことなんだけど…」
「他人の前で話すことじゃないわ。下がりなさい」
クロエはフリードに冷めた目を一瞬向けてダリアの方へ歩き出した。
目の前には魔術師が7人もいる。それに心配した領民達も。
仲違いをしている暇はないのだ。
「待って!昨日のことは事前に伝えてあっただろう?」
「伝えてあったですって?バカなことを。今のあなたは邪魔だわ。その子とイシュトハンに帰っていたら?」
クロエはフリードをイシュトハンへ転移させようと一度腕を上げたが、そのまま目と鼻の先にいるダリアの元へと向かった。
「ダリア姉様!魔導士達、まだ魔獣を探しているようでした。この騒ぎがバレると困ると言っていたからやはり異国の黒幕がいるようです」
「そうなの。ところで…結界の中に入れてくれたのはいいんだけど、このままだと誰も彼らに手を出せないわ。いっそこのまま天日干しして殺す?」
6人の男達はすでにひと暴れした後のようで、すっかり大人しくなっていた。
王国の魔導士達が結界の強度を確かめるかのようにノックしている。
王城のように入り口部分を別の結界で覆っているわけではないので外からも手出しは出来ない。
「イシュトハンの牢屋にでも転送します?」
「結界が張ってある地下牢は空いているかしら?」
「空いている所に転移させるという事でいいですね!」
「あぁ…そうね。可能ならそうしてちょうだい」
ダリアはイシュトハンの牢屋事情までは把握していなかったようで、クロエはイシュトハン邸の敷地内にある騎士塔の地下牢を透視し、空いている適当な牢に6人を転移させた。
牢屋の内側だけに留まらず、地下全体に結界の張られている特殊な空間はさほど広くはない。
魔法を使える者は国民の生活を害してはならない。国民の利となるように努めよ。
それが貴族を含めた魔法使用者を縛る法のたった一つの項目である。
罰は領主の裁量に任せられており、領主の魔力を持ってしても抑えられない魔導士の場合、魔法省の管轄となる。
よって、魔法省と肩を並べる鉄壁の牢となるのが、イシュトハンの地下牢ということになる。
主に結界を張っているのは母のサリスであり、結婚式を終えればクロエが結界を引き継ぐ。
三姉妹の管理する独立したマトゥルス国のどの牢屋からも、脱走者は出ない事だろう。
「あ、こいつも一緒に放り込んでおいて」
ダリアが、ヘロヘロと座ることもできなくなっている茶色いローブと思われる布切れを着た魔術師をクロエの前に置く。
拘束しているのはクロエの魔法だが、男の口にも拘束魔法がかけられていて、呪文が唱えられないようにしてある。
いきなり目の前に現れて手加減ができなかったのか、思った以上にボロボロな姿に、クロエは男に同情してしまった。
いつかフリードにかけたように、治癒魔法を回復魔法のように男に纏わせると、クロエは茶色い布切れを身につけた男を牢屋へと転移させる。
「今の治癒魔法ね?あまり披露しない方がいいわよ」
「え?」
あっという間に目の前から消えた魔導士達の元に向かわせようと、転移させられる魔導士はイシュトハンへと他者を送り出していっている。
命令がなくても統率の取れた動きには、天晴れという他ない。
それをのんびりと見ていたクロエは、髪を靡かせる風に気を取られていた。
「今の治癒魔法は使わないほうがいいと言ったの」
「何故ですか?」
治癒魔法は魔力を注ぎ続けるため魔力消費は確かに大きいが、使うのを躊躇う程ではない。
「触れてなくても治癒できるという事は、範囲魔法も使えるということよ。そうしたら聖女も同然。イシュトハンに人が押し寄せるわよ」
「たしかに出来ないこともないかもしれませんが、私がやってるのは極弱い魔力を纏わせているだけ。何人も全快させるなんて夢のまた夢だわ」
回復魔法なら体力回復や治癒力の増強程度だから範囲魔法で数人を回復させる事は可能だろうが、治癒魔法で大きな怪我を直していくのには多くの魔力を消費してしまう。
「周りにはそんな事は関係ないわ。使えるというだけで求めてしまうものよ。気をつけなさい」
その頃、フリードはカゴの中の猫が人懐っこすぎて、魔力を全然解放せずにヒューベルトとただ猫と戯れあっていた。
「大丈夫か!?怪我は?」
「大丈夫よ。魔力もそれ程使ってないわ」
「なら良かった。手紙を見た時は肝が冷えたよ」
抱きしめられて複雑なクロエの頭の先から足の先まで傷が付いていないことを確認する念入りさを発揮したフリードの頬を、クロエは思いっきり引っ張った。
「心配してくれているところ悪いけど、今はフリードの顔は見たくないわ。フリードはこの子の魔力を使わせて」
子猫の入った檻をフリードに渡すと、「にぃーーご」と鳴き声が聞こえた。
「これは魔獣か!?」
「そうみたいね。魔力はそんなに残ってなさそうだけど、他の籠に入れられてるのもそうみたい。あの中に結界を張ってる者がいると思うから、扱いには気をつけてね」
結界を解除されてしまったら、子猫の感情が昂った瞬間前触れもなく攻撃されることになる。
念の為クロエは自分の手で子猫の檻に結界を重ねてかけた。
油断した瞬間にたくさんの命が失われるかもしれない。
そう思えば安全の面だけは他人に任せることは出来なかった。
「クロエ、昨日のことなんだけど…」
「他人の前で話すことじゃないわ。下がりなさい」
クロエはフリードに冷めた目を一瞬向けてダリアの方へ歩き出した。
目の前には魔術師が7人もいる。それに心配した領民達も。
仲違いをしている暇はないのだ。
「待って!昨日のことは事前に伝えてあっただろう?」
「伝えてあったですって?バカなことを。今のあなたは邪魔だわ。その子とイシュトハンに帰っていたら?」
クロエはフリードをイシュトハンへ転移させようと一度腕を上げたが、そのまま目と鼻の先にいるダリアの元へと向かった。
「ダリア姉様!魔導士達、まだ魔獣を探しているようでした。この騒ぎがバレると困ると言っていたからやはり異国の黒幕がいるようです」
「そうなの。ところで…結界の中に入れてくれたのはいいんだけど、このままだと誰も彼らに手を出せないわ。いっそこのまま天日干しして殺す?」
6人の男達はすでにひと暴れした後のようで、すっかり大人しくなっていた。
王国の魔導士達が結界の強度を確かめるかのようにノックしている。
王城のように入り口部分を別の結界で覆っているわけではないので外からも手出しは出来ない。
「イシュトハンの牢屋にでも転送します?」
「結界が張ってある地下牢は空いているかしら?」
「空いている所に転移させるという事でいいですね!」
「あぁ…そうね。可能ならそうしてちょうだい」
ダリアはイシュトハンの牢屋事情までは把握していなかったようで、クロエはイシュトハン邸の敷地内にある騎士塔の地下牢を透視し、空いている適当な牢に6人を転移させた。
牢屋の内側だけに留まらず、地下全体に結界の張られている特殊な空間はさほど広くはない。
魔法を使える者は国民の生活を害してはならない。国民の利となるように努めよ。
それが貴族を含めた魔法使用者を縛る法のたった一つの項目である。
罰は領主の裁量に任せられており、領主の魔力を持ってしても抑えられない魔導士の場合、魔法省の管轄となる。
よって、魔法省と肩を並べる鉄壁の牢となるのが、イシュトハンの地下牢ということになる。
主に結界を張っているのは母のサリスであり、結婚式を終えればクロエが結界を引き継ぐ。
三姉妹の管理する独立したマトゥルス国のどの牢屋からも、脱走者は出ない事だろう。
「あ、こいつも一緒に放り込んでおいて」
ダリアが、ヘロヘロと座ることもできなくなっている茶色いローブと思われる布切れを着た魔術師をクロエの前に置く。
拘束しているのはクロエの魔法だが、男の口にも拘束魔法がかけられていて、呪文が唱えられないようにしてある。
いきなり目の前に現れて手加減ができなかったのか、思った以上にボロボロな姿に、クロエは男に同情してしまった。
いつかフリードにかけたように、治癒魔法を回復魔法のように男に纏わせると、クロエは茶色い布切れを身につけた男を牢屋へと転移させる。
「今の治癒魔法ね?あまり披露しない方がいいわよ」
「え?」
あっという間に目の前から消えた魔導士達の元に向かわせようと、転移させられる魔導士はイシュトハンへと他者を送り出していっている。
命令がなくても統率の取れた動きには、天晴れという他ない。
それをのんびりと見ていたクロエは、髪を靡かせる風に気を取られていた。
「今の治癒魔法は使わないほうがいいと言ったの」
「何故ですか?」
治癒魔法は魔力を注ぎ続けるため魔力消費は確かに大きいが、使うのを躊躇う程ではない。
「触れてなくても治癒できるという事は、範囲魔法も使えるということよ。そうしたら聖女も同然。イシュトハンに人が押し寄せるわよ」
「たしかに出来ないこともないかもしれませんが、私がやってるのは極弱い魔力を纏わせているだけ。何人も全快させるなんて夢のまた夢だわ」
回復魔法なら体力回復や治癒力の増強程度だから範囲魔法で数人を回復させる事は可能だろうが、治癒魔法で大きな怪我を直していくのには多くの魔力を消費してしまう。
「周りにはそんな事は関係ないわ。使えるというだけで求めてしまうものよ。気をつけなさい」
その頃、フリードはカゴの中の猫が人懐っこすぎて、魔力を全然解放せずにヒューベルトとただ猫と戯れあっていた。
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