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成長

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ティファニーが産まれてから王都のワーデン家では日々笑い声が聞こえていた。
ブロッサムというミドルネームにつられるようにティファニーの周りは笑顔が咲き乱れているようだった。


しかし、その一方で、シュゼインはジャクリーンにティファニーを会わせることを拒んでいた。
復讐のつもりならこんな嫌がらせはしない。
本当にただの嫌がらせのつもりで5年間のワーデン家への立ち入りを禁止していたのだ。
まだ罰を与えるには自分には力があまりにも足りない。
そう考えていた。


「シュゼインも小さい頃、泣いても笑っても笑窪が出来て見ていて飽きなかったわ。懐かしい」


イリアは王都のアルベルトの屋敷へ新作を渡しに行った帰りにシュゼインのまだ帰らないワーデン家へ訪れていた。
イリアの訪問は事前に知らせてはいるが、アルベルトは不在だ。それを分かった上でいつも新作を渡しに行く。
イリア・ロベールのファンだと言ったカリーナへ届けたいからだ。
そしてシュゼインも学園に通っていて不在だということは分かっていたし、シュゼインも不在の中の訪問を快く了承してくれていた。



「シュゼイン様もきっと可愛い幼少期だったんでしょうね」


ステファニーと2人、眠るティファニーの顔を見る。
思わずシュゼインへの行いを忘れてしまいそうな温かい気持ちで溢れてしまっていた。


「ステファニー、あなたは幸せ?」



娘の幸せを願わない親はいないだろう。
しかしステファニーの顔はもうずっと、子供を身篭る前に見せていた、弾けてしまうような笑顔をイリアに見せることはなかった。
それを仕方のない事だと認める自分は酷い親だろうかとつい考えてしまうのだ。


「えぇ。シュゼイン様は優しくしてくださいます。それに屋敷の者も。私の名前からティファニーと名付けてくれて、これ以上の幸せはありません。でも、その幸せが…私をずっと苦しめるのです」



全てを言い終わる前にステファニーの顔はくしゃりと歪み、まつ毛の隙間を涙が流れる。


「そう。それでもその苦しみからは逃げてはいけないのよ。あなたの幸せと引き換えにあなたがシュゼインやハイランス嬢に与えたのは、その程度の苦しみではないのだから」



ステファニーを抱きしめ背中を叩く。
子供を産んだばかりとは思えないほど、彼女の背中は小さかった。
幸せに微笑む陰でステファニーはずっと自分を攻め続けていくのだろう。
まだシュゼインとの生活は始まったばかりだ。



「あら、ステファニーが泣くからティファニーも泣いてしまったわ。子供の前で親が泣くものではないわね」



イリアはティファニーを抱き上げるとぐずぐずと泣くその頬に出来た窪みに指を添える。
小さな小さな笑窪。ティファニーもきっと、カリーナのように花が咲くように笑うようになる。
ステファニーの罪の証でもあるが、ティファニーの罪は何一つない。この子の幸せは守らなければならない。
例え父親を無くしても、母親を無くしても。
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