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決別する二人
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二人はしばらく見つけあった後、トーマスがエマの手を握った。
ーーこのままトーマスと結婚するのもいい気がする。
彼は王立騎士団という花形の騎士。田舎町で育ったエマにとっては、これ以上ない相手。それに、彼は非の打ち所がないほどに穏やかで優しい人だ。
彼女はふと遠くを見つめ、心の中で思いにふけっていたが、突然、ジャンがその視界を遮るように現れた。
「エマ…本当に君だな?」
エマはジャンの声に驚き、彼をジャンだと認識すると、驚きと戸惑いに包まれた。彼女は口ごもりながら、言葉を探した。
「ジャン…なんでここにいるの?」
エマはそう聞いたことを後悔した。彼の後ろには、煌びやかに着飾ったすでに見慣れた女性がいたのだ。
彼女の目には深い悲しみが宿り、トーマスは握っていた手が震えているの気がついた。
「エマ、彼は知り合いなのか?」
トーマスも、目の前の二人が噂の身分差カップルなのだと気付いていた。だが、エマとジャンの関係には思い至るところはなかった。エマから彼の話は聞いたことがない。
「うん…同じ村で育った…幼馴染のジャンよ」
「ただの幼馴染なんかじゃないだろう!?」
ジャンはエマの腕に手を添えて、エマと視線を合わせるように腰をかがめた。
「前に君を見かけてから、ずっと探していたんだ。手紙も返ってこなくて心配していた。でも、君が他の男性と…」
エマはジャンの言葉を遮り、彼の腕を払い除けた。
「ジャン、私は…私は自分を守るために新しい道を選んだの。お互い、今は別の道を歩んでる。だから、もう心配しなくても良いの。私にも彼がいるから」
エマはトーマスの手を握り返し、涙を浮かべた目でトーマスを見つめた。
ジャンの目にも涙が浮かび、彼女の言葉に心が揺れ動いた。エマの言葉を受け取ることはどうしても出来なかった。
「トーマス、行きましょう」
二人は互いに感じる思いを胸に秘めながら、別れるしかなかった。
ジャンは手を繋いで寄り添って去る二人の背中に目を疑い、胸が激しく痛み始めた。彼の手力を込めて握り締められ、唇からは声を押し殺したため息が漏れた。
ーーなぜ…なぜこんなことが…。
彼の瞳には失望と苦悩が宿っていた。エマとの再会は彼にとっての希望と喜びだったが、今目の前で起きている光景はその希望を打ち砕くものだった。
そのとき、ジャンの視線が伯爵令嬢に引き寄せられる。彼女もまたエマと一緒にいる姿を目撃しており、気まずそうな表情を浮かべながら近づいてきた。
「ジャン。どうしてそんなに驚いているの?」
「エマが…エマが他の男と…」
アデリーナはジャンが失恋したのだと悟った。
「ジャン、可哀想だけど…現実を受け入れた方がいいと思う。エマはもう過去の人。受け入れないとあなたの心はただ傷つくだけじゃないかしら?」
ジャンは絶望と混乱の中で言葉を失い、自分の心がキシキシと痛むのを感じた。彼は再会の喜びと失われた愛の痛みの間で揺れ動き、エマとの関係がどのように変わるのか、不安で仕方がなかった。諦め切れるはずもない。
◇ ◇ ◇
エマと一緒にいた男は、王立騎士団の制服を着ていた。ジャンがいつか袖を通したいと思っていた騎士服を間違えるはずがない。
それが分かれば、調べればエマが侍女として働いていることはすぐに分かった。
ジャンはエマに対して熱心に接近しようとするが、彼女は距離を置く態度を崩さない。彼女はジャンへの感情を封じ込めていた。
ジャンはエマのもとへ向かった。王立騎士団の門で、エマを呼び出したのだ。
彼は微笑みながら彼女に話しかけた。
「エマ、少し時間を割いてくれないかい?君と話がしたいんだ」
エマは彼の視線を避け、少し戸惑いながら答える。
「ジャン、私は仕事に忙しいから…今は話す時間がないわ」
ジャンは彼女の言葉に少し困惑した表情を浮かべた。
「でも、エマ、私たちの関係を修復したいんだ。このまま誤解されたまま別れるなんて無理だ…」
エマは彼の言葉を遮って言った。
「私たちの関係はもう過去のことだと思っていたわ。ジャン、あなたと伯爵令嬢の関係を見てきたわ。仲が良さそうに見えたわよ」
ジャンの表情が驚きと戸惑いに変わった。
「エマ、それは誤解だよ。伯爵令嬢との関係はただの仕事上のもので、噂は噂にすぎない」
エマは苦い笑みを浮かべながら言った。
「でも、私はこれからも遠くから見ているだけよ。あなたの心には伯爵令嬢がいるんでしょう?私の存在はどんどん薄れていくわ」
ジャンはエマの不安を理解しようと必死になった。
「エマ、それは違うんだ。私にとって、ただ唯一君が大切な存在で、私の心の中にずっといる。本当に伯爵令嬢との関係は仕事上のもの。今までの絆を壊すものではないんだ」
エマの目には少しだけ揺れが見えたが、彼女は距離を保とうとしていた。
「私はもう心を傷つけたくないの。だから、あなたとの関係を遠くに置いて、他の人との結婚を目指すつもりなの」
ジャンはエマの言葉に絶望を隠せなかった。ジェシーからの手紙は事実だったことにショックを受けた。
「エマ、君が他の人と結婚するなんて…それは僕にとっては耐えられないことだよ。君を失うなんて考えられないんだ」
エマは固く口を結んで、ジャンに背を向けたまま言った。
「それが私の選択だわ。ジャン、私たちの過去の思い出は大切だけど、もう過去のものだと思っているの」
ジャンは心が揺れ動くのを感じながらも、エマの決意に抗うことができなかった。彼は深い悲しみを抱えながら、立ち去る彼女を見送ることしか出来なかった。
エマの心には、トーマスが根を張り始めていた。それでも、ジャンは大切な幼馴染には違いなかった。
ーーこのままトーマスと結婚するのもいい気がする。
彼は王立騎士団という花形の騎士。田舎町で育ったエマにとっては、これ以上ない相手。それに、彼は非の打ち所がないほどに穏やかで優しい人だ。
彼女はふと遠くを見つめ、心の中で思いにふけっていたが、突然、ジャンがその視界を遮るように現れた。
「エマ…本当に君だな?」
エマはジャンの声に驚き、彼をジャンだと認識すると、驚きと戸惑いに包まれた。彼女は口ごもりながら、言葉を探した。
「ジャン…なんでここにいるの?」
エマはそう聞いたことを後悔した。彼の後ろには、煌びやかに着飾ったすでに見慣れた女性がいたのだ。
彼女の目には深い悲しみが宿り、トーマスは握っていた手が震えているの気がついた。
「エマ、彼は知り合いなのか?」
トーマスも、目の前の二人が噂の身分差カップルなのだと気付いていた。だが、エマとジャンの関係には思い至るところはなかった。エマから彼の話は聞いたことがない。
「うん…同じ村で育った…幼馴染のジャンよ」
「ただの幼馴染なんかじゃないだろう!?」
ジャンはエマの腕に手を添えて、エマと視線を合わせるように腰をかがめた。
「前に君を見かけてから、ずっと探していたんだ。手紙も返ってこなくて心配していた。でも、君が他の男性と…」
エマはジャンの言葉を遮り、彼の腕を払い除けた。
「ジャン、私は…私は自分を守るために新しい道を選んだの。お互い、今は別の道を歩んでる。だから、もう心配しなくても良いの。私にも彼がいるから」
エマはトーマスの手を握り返し、涙を浮かべた目でトーマスを見つめた。
ジャンの目にも涙が浮かび、彼女の言葉に心が揺れ動いた。エマの言葉を受け取ることはどうしても出来なかった。
「トーマス、行きましょう」
二人は互いに感じる思いを胸に秘めながら、別れるしかなかった。
ジャンは手を繋いで寄り添って去る二人の背中に目を疑い、胸が激しく痛み始めた。彼の手力を込めて握り締められ、唇からは声を押し殺したため息が漏れた。
ーーなぜ…なぜこんなことが…。
彼の瞳には失望と苦悩が宿っていた。エマとの再会は彼にとっての希望と喜びだったが、今目の前で起きている光景はその希望を打ち砕くものだった。
そのとき、ジャンの視線が伯爵令嬢に引き寄せられる。彼女もまたエマと一緒にいる姿を目撃しており、気まずそうな表情を浮かべながら近づいてきた。
「ジャン。どうしてそんなに驚いているの?」
「エマが…エマが他の男と…」
アデリーナはジャンが失恋したのだと悟った。
「ジャン、可哀想だけど…現実を受け入れた方がいいと思う。エマはもう過去の人。受け入れないとあなたの心はただ傷つくだけじゃないかしら?」
ジャンは絶望と混乱の中で言葉を失い、自分の心がキシキシと痛むのを感じた。彼は再会の喜びと失われた愛の痛みの間で揺れ動き、エマとの関係がどのように変わるのか、不安で仕方がなかった。諦め切れるはずもない。
◇ ◇ ◇
エマと一緒にいた男は、王立騎士団の制服を着ていた。ジャンがいつか袖を通したいと思っていた騎士服を間違えるはずがない。
それが分かれば、調べればエマが侍女として働いていることはすぐに分かった。
ジャンはエマに対して熱心に接近しようとするが、彼女は距離を置く態度を崩さない。彼女はジャンへの感情を封じ込めていた。
ジャンはエマのもとへ向かった。王立騎士団の門で、エマを呼び出したのだ。
彼は微笑みながら彼女に話しかけた。
「エマ、少し時間を割いてくれないかい?君と話がしたいんだ」
エマは彼の視線を避け、少し戸惑いながら答える。
「ジャン、私は仕事に忙しいから…今は話す時間がないわ」
ジャンは彼女の言葉に少し困惑した表情を浮かべた。
「でも、エマ、私たちの関係を修復したいんだ。このまま誤解されたまま別れるなんて無理だ…」
エマは彼の言葉を遮って言った。
「私たちの関係はもう過去のことだと思っていたわ。ジャン、あなたと伯爵令嬢の関係を見てきたわ。仲が良さそうに見えたわよ」
ジャンの表情が驚きと戸惑いに変わった。
「エマ、それは誤解だよ。伯爵令嬢との関係はただの仕事上のもので、噂は噂にすぎない」
エマは苦い笑みを浮かべながら言った。
「でも、私はこれからも遠くから見ているだけよ。あなたの心には伯爵令嬢がいるんでしょう?私の存在はどんどん薄れていくわ」
ジャンはエマの不安を理解しようと必死になった。
「エマ、それは違うんだ。私にとって、ただ唯一君が大切な存在で、私の心の中にずっといる。本当に伯爵令嬢との関係は仕事上のもの。今までの絆を壊すものではないんだ」
エマの目には少しだけ揺れが見えたが、彼女は距離を保とうとしていた。
「私はもう心を傷つけたくないの。だから、あなたとの関係を遠くに置いて、他の人との結婚を目指すつもりなの」
ジャンはエマの言葉に絶望を隠せなかった。ジェシーからの手紙は事実だったことにショックを受けた。
「エマ、君が他の人と結婚するなんて…それは僕にとっては耐えられないことだよ。君を失うなんて考えられないんだ」
エマは固く口を結んで、ジャンに背を向けたまま言った。
「それが私の選択だわ。ジャン、私たちの過去の思い出は大切だけど、もう過去のものだと思っているの」
ジャンは心が揺れ動くのを感じながらも、エマの決意に抗うことができなかった。彼は深い悲しみを抱えながら、立ち去る彼女を見送ることしか出来なかった。
エマの心には、トーマスが根を張り始めていた。それでも、ジャンは大切な幼馴染には違いなかった。
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