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第一部
オーロラスター
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「ステラ、この後少し散歩しないか?」
夕食を終えた後、暖かい暖炉の前でゆっくりしていると、部屋にデイヴィッドが訪ねてきた。
「わざわざ寒いところに?」
「少し窓を見てごらん」
デイヴィッドは私の手を取って勝手知ったる自分の部屋のように私を窓辺に連れて行った。
「空を見て」
デイヴィッドが屈みながら上を向いているのを見て、私も彼と同じように屈みながら窓の外を見ると、そこには空で揺れる緑の光のベールが見えた。
「すごい…何あれ…」
初めて見る光る夜空に、うっとりと見入ってしまった。ゆっくりと風に揺られるように動くベールは、ドレスの裾の繊細なレースが風でゆっくりと揺らめくように優雅に見える。
「オーロラだよ。偶然目に入って、ステラと見ようと思って。外の方がきっと綺麗に見える」
デイヴィッドのエスコートで外に出ると、部屋からよりもよりハッキリと光を感じ取ることができた。緑色だけではない。青やピンクや黄色、スカートの裾なんかではなく、虹がカーテンのように空を覆っていた。
「本当に綺麗…」
「観光シーズンには見られないらしい。ステラと見られてよかった」
「えぇ…連れてきてくれてありがとう。昼間のこと、気分悪くしたでしょう?ごめんなさい」
デイヴィッドが一日、露天の店主の男のことで気分を悪くしたのではないかと思っていた。でも話を蒸し返すのも気が引けていたが、一緒に見られてよかったと言われて居心地の悪さを感じていた。本当にそんなことを思っているのだろうか?と考えてしまう。あれが試験なら公爵夫人としては失格の烙印を押されたことだろう。もっと違うやり返しも出来ただろうと思うと、自分の不甲斐なさを感じていた。
「昼間のこと?私を置いて王と2人きりで会ったことか?」
思っていたよりも優しい声が落ちてきて、デイヴィッドと目が合うと、デイヴィッドは不思議そうな顔をしながら私の分厚い腰に腕を回して、私は彼の腕の中にすっぽりとおさまった。
「ううん。気にしてなかったならいいの」
私もデイヴィッドの背中に腕を回した。エーテリアでの事件から、こうやって抱きしめられたことはなかった。だから、それがとても嬉しく感じてじんわりと幸福を味わいたかった。
「今日はステラをもっと好きになった日だと思う。他の人が知らないステラを知れて私は嬉しかった」
「どこでそんなことを思うことがあったの?」
いつものようにたくさんのキスが降ってきて、ようやく私たちは仲直り出来たのだと実感した。本当に昼間のことは気にしてはいないようだ。
「全部。私にはない視点で世の中を見ていて、ステラから見た世界はどんなだろうともっと君を知りたくなった」
「わ…私も…デイヴィッドは私では考えつかない方法で生きてるんだなって思ってる。私にはないものに持ってる貴方が…好き」
話をする気があるのかないのか、お構いなく顔中にキスを浴びせて、それでも好きだと言えば待っていたかのように唇を重ねてくる。そうなったらもう降参するしかない。
「今日はデイヴィッドの部屋で寝てもいい?」
「それはまた私を試しているのか?」
「私がデイヴィッドと寝たいの。こんな分厚い上着を脱いで抱きしめ欲しい。デイヴィッドの体温も感じないんだもの…」
この国は本当に寒い。お酒で体を温めるのも理解できる程だ。デイヴィッドの鼻先は少し赤くて、頬に触れるたびに冷たいと感じる。多分私の鼻も同じように赤くなっているのだろう。
「私も…ステラの熱を感じたい。唇だけじゃなくて全身で」
そう言うと、デイヴィッドは丸々とした私を持ち上げて部屋に連れて行くと、何枚も重ねて着ていた服を一枚一枚脱いでいった。
「この国に住めば寒さを理由に部屋に閉じこもれるな…」
「一年中?」
「ふっ…そうだな。毎日君と寝る理由が出来る。朝も昼も夜も、暖かい肌を重ねて寒さを忘れられるかもしれない」
デイヴィッドの温かい唇が再び私の唇に触れて、彼の手は私の手を撫でた。肌が触れるとデイヴィッドの体温が冷めた私を包んで温めるようで心地よかった。
「今すぐ結婚したい…今すぐここに神父を呼ぶ許可をくれ…」
次の日の朝、デイヴィッドはまた今すぐ結婚したい病に犯されていた。デイヴィッドの体温でグッスリと眠った私は、眠れなかったらしい彼の腕の中から中々解放されなかった。
「そろそろ服を着させて…」
「今日ここで結婚してくれると言うなら…披露宴だけ後であげよう…神の誓いはどこでも出来る」
布団の中で私を後ろから抱きしめたまま、首筋から顔を上げることのないデイヴィッドの息を肩に感じる。披露宴もだが、結婚式を盛大に行うことに大きな意味があったはずなのだが、もうそんな些細なことはいつもどうでも良くなってしまったようだ。
「朝食の時間よ。呼びにきちゃうわ」
「そんな野暮なことをするほど仕事の出来ないやつは雇わないさ」
結局、お昼前まで攻防戦を繰り返して、スノーランドに滞在中は四六時中求婚され続けた。だが、今回は本気で了承させたいらしく、本当に神父を呼ぶ手配を始めたので「そんなことするくらいなら抱けばいいじゃない!アホなの?」と大声で叫ぶ羽目になった。
私の側から一時も離れようとしなくなったいつも通りの彼を見て、クロエは言った。
「そろそろ帰らない?一緒にいる騎士達が可哀想だし…」
その言葉を聞いて私はすぐさま荷物をまとめた。公爵家に帰れば、彼には仕事がある。気も紛れるはずだ。そうしてまだ休暇中だとゴネるデイヴィッドを無理やり引き連れて帰ると、故郷はとても暖かく感じた。王国は春本番の社交シーズン真っ盛りだ。
夕食を終えた後、暖かい暖炉の前でゆっくりしていると、部屋にデイヴィッドが訪ねてきた。
「わざわざ寒いところに?」
「少し窓を見てごらん」
デイヴィッドは私の手を取って勝手知ったる自分の部屋のように私を窓辺に連れて行った。
「空を見て」
デイヴィッドが屈みながら上を向いているのを見て、私も彼と同じように屈みながら窓の外を見ると、そこには空で揺れる緑の光のベールが見えた。
「すごい…何あれ…」
初めて見る光る夜空に、うっとりと見入ってしまった。ゆっくりと風に揺られるように動くベールは、ドレスの裾の繊細なレースが風でゆっくりと揺らめくように優雅に見える。
「オーロラだよ。偶然目に入って、ステラと見ようと思って。外の方がきっと綺麗に見える」
デイヴィッドのエスコートで外に出ると、部屋からよりもよりハッキリと光を感じ取ることができた。緑色だけではない。青やピンクや黄色、スカートの裾なんかではなく、虹がカーテンのように空を覆っていた。
「本当に綺麗…」
「観光シーズンには見られないらしい。ステラと見られてよかった」
「えぇ…連れてきてくれてありがとう。昼間のこと、気分悪くしたでしょう?ごめんなさい」
デイヴィッドが一日、露天の店主の男のことで気分を悪くしたのではないかと思っていた。でも話を蒸し返すのも気が引けていたが、一緒に見られてよかったと言われて居心地の悪さを感じていた。本当にそんなことを思っているのだろうか?と考えてしまう。あれが試験なら公爵夫人としては失格の烙印を押されたことだろう。もっと違うやり返しも出来ただろうと思うと、自分の不甲斐なさを感じていた。
「昼間のこと?私を置いて王と2人きりで会ったことか?」
思っていたよりも優しい声が落ちてきて、デイヴィッドと目が合うと、デイヴィッドは不思議そうな顔をしながら私の分厚い腰に腕を回して、私は彼の腕の中にすっぽりとおさまった。
「ううん。気にしてなかったならいいの」
私もデイヴィッドの背中に腕を回した。エーテリアでの事件から、こうやって抱きしめられたことはなかった。だから、それがとても嬉しく感じてじんわりと幸福を味わいたかった。
「今日はステラをもっと好きになった日だと思う。他の人が知らないステラを知れて私は嬉しかった」
「どこでそんなことを思うことがあったの?」
いつものようにたくさんのキスが降ってきて、ようやく私たちは仲直り出来たのだと実感した。本当に昼間のことは気にしてはいないようだ。
「全部。私にはない視点で世の中を見ていて、ステラから見た世界はどんなだろうともっと君を知りたくなった」
「わ…私も…デイヴィッドは私では考えつかない方法で生きてるんだなって思ってる。私にはないものに持ってる貴方が…好き」
話をする気があるのかないのか、お構いなく顔中にキスを浴びせて、それでも好きだと言えば待っていたかのように唇を重ねてくる。そうなったらもう降参するしかない。
「今日はデイヴィッドの部屋で寝てもいい?」
「それはまた私を試しているのか?」
「私がデイヴィッドと寝たいの。こんな分厚い上着を脱いで抱きしめ欲しい。デイヴィッドの体温も感じないんだもの…」
この国は本当に寒い。お酒で体を温めるのも理解できる程だ。デイヴィッドの鼻先は少し赤くて、頬に触れるたびに冷たいと感じる。多分私の鼻も同じように赤くなっているのだろう。
「私も…ステラの熱を感じたい。唇だけじゃなくて全身で」
そう言うと、デイヴィッドは丸々とした私を持ち上げて部屋に連れて行くと、何枚も重ねて着ていた服を一枚一枚脱いでいった。
「この国に住めば寒さを理由に部屋に閉じこもれるな…」
「一年中?」
「ふっ…そうだな。毎日君と寝る理由が出来る。朝も昼も夜も、暖かい肌を重ねて寒さを忘れられるかもしれない」
デイヴィッドの温かい唇が再び私の唇に触れて、彼の手は私の手を撫でた。肌が触れるとデイヴィッドの体温が冷めた私を包んで温めるようで心地よかった。
「今すぐ結婚したい…今すぐここに神父を呼ぶ許可をくれ…」
次の日の朝、デイヴィッドはまた今すぐ結婚したい病に犯されていた。デイヴィッドの体温でグッスリと眠った私は、眠れなかったらしい彼の腕の中から中々解放されなかった。
「そろそろ服を着させて…」
「今日ここで結婚してくれると言うなら…披露宴だけ後であげよう…神の誓いはどこでも出来る」
布団の中で私を後ろから抱きしめたまま、首筋から顔を上げることのないデイヴィッドの息を肩に感じる。披露宴もだが、結婚式を盛大に行うことに大きな意味があったはずなのだが、もうそんな些細なことはいつもどうでも良くなってしまったようだ。
「朝食の時間よ。呼びにきちゃうわ」
「そんな野暮なことをするほど仕事の出来ないやつは雇わないさ」
結局、お昼前まで攻防戦を繰り返して、スノーランドに滞在中は四六時中求婚され続けた。だが、今回は本気で了承させたいらしく、本当に神父を呼ぶ手配を始めたので「そんなことするくらいなら抱けばいいじゃない!アホなの?」と大声で叫ぶ羽目になった。
私の側から一時も離れようとしなくなったいつも通りの彼を見て、クロエは言った。
「そろそろ帰らない?一緒にいる騎士達が可哀想だし…」
その言葉を聞いて私はすぐさま荷物をまとめた。公爵家に帰れば、彼には仕事がある。気も紛れるはずだ。そうしてまだ休暇中だとゴネるデイヴィッドを無理やり引き連れて帰ると、故郷はとても暖かく感じた。王国は春本番の社交シーズン真っ盛りだ。
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