ダブル・ミッション 【女は秘密の香りで獣になる2

深冬 芽以

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Mission 2*アプローチ

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 金曜日。

 伊織の言った通り、熱が出た。

 T&Nの忙しさを引きずったままにSIINAに来たせいかもしれない。伊織と再会してから、彼女の夢ばかり見るせいかもしれない。伊織が合コンで男たちと飲んでいるかと思うと、眠れなかったせいかもしれない。



 情けないな……。



 俺は休むと会社に電話した後しばらく、スマホを眺めていた。

 アドレス帳を順に確認して、必要のない番号を消していく。一度寝ただけの女、十日付き合っただけの女、三か月付き合っただけの女……。名前だけ見ても顔も思い出せない女がほとんどで、虚しくなった。百件以上あった番号が十数件ほどに減り、そこに伊織の番号がないことが、弱った今の俺をさらに弱らせた。

 飲まず食わずで寝続けて、夕方になって冷蔵庫が空っぽだと気がついた。



 腹減った……。

 けど、買い物に行く体力ねーな……。

 桃の缶詰……食いてぇ……。



 一時間ほど天井と睨み合いをして、俺は身体に鞭を打ってシャワーを浴びた。近くのコンビニに行くために着替えて、玄関で靴を履きながら床に倒れ込んでしまった。



 マジでキツイ――。



 ピンポーン……。

 インターホンが鳴っても、俺はすぐに起き上がれなかった。

 訪ねてくる人間に心当たりがなかった。

 俺は女にこの家を教えたことがない。我が物顔で出入りされるのが嫌だった。


 ピンポーン……。

 再びインターホンが鳴る。

「誰?」

 寝ころんだまま、気まぐれに聞いた。

「圭?」

 起き上がる体力もなかったはずなのに、伊織の声を聞いたら驚くほどすんなり立ち上がることが出来た。

 鍵のつまみを回し、ドアを開ける。

 伊織が大きな買い物袋を持って立っていた。

「大丈夫? やっぱり体調悪かったんだね」

 俺は伊織の腕を引いて中に入れ、ドアを閉めた。都合の良い夢を見ているのではと不安になり、伊織を抱き締めた。

「ちょ……圭!」



 本物だ……。



「圭! すごい熱!」
 
 伊織に寄りかかっていないと立っていられないほど、身体は悲鳴を上げていた。

「中に入って! 寝て!」

 伊織に連れられてベッドに戻り、俺は倒れ込んだ。



 合コン……行かなかったのか……?



「ちゃんと食べて薬飲んだ? 病院は?」

「行ってない……」

「……だと思った」

 伊織は呆れ顔でジャケットを脱ぎ、ビニールの袋の中身をテーブルの上に並べる。スポーツドリンクのキャップを開け、俺に差し出す。

「とりあえず水分取って」

 伊織が背中にクッションを当ててくれて、俺は楽に身体を起こせた。

 冷たい液体が喉を流れるのが、気持ち良かった。

 強制的に冷却剤を額に貼られる。

「薬を飲む前に少しは食べて?」

 伊織が次に差し出したのは桃の缶詰。しかも、俺が好きな白桃。

「はい」と言って、伊織が白桃を刺したフォークを俺に持たせようとした。

「食べさしてくんないの?」

 こんな甘えたことを言った自分に、驚いた。

「はっ?」

 伊織も驚いていた。それから、顔を赤らめて白桃を俺の口に運んだ。



 やべぇ……。

 押し倒したい――。



 実際に押し倒す体力がないことが悔やまれる。

 桃を食べ終え、薬を飲むと眠気に襲われた。

「うどんを作っておくから、明日食べてね。スポーツドリンクと缶詰も冷蔵庫に入ってるから」

「帰んの……?」

「うどんを作ったらね」と言って、伊織が台所に立つ。

「鍋なんか……ねーよ?」

「そうだろうと思って買って来たわよ」



 帰したくない……。



 熱と眠気には勝てず、俺はゆっくりと目を閉じた。
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