ダブル・ミッション 【女は秘密の香りで獣になる2

深冬 芽以

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Mission 2*アプローチ

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 次に目を開けると、気分がすっきりしていた。薬が効いたようだ。

 俺はゆっくりと身体を起こした。



 え――――?



 ベッドにもたれて眠る伊織の姿が目に飛び込んできた。



 なんで……?



「ん……」

 伊織がゆっくりと目を開ける。しばらくそのままの体勢で瞬きをして、突然ハッとしたように顔を上げた。

「やだっ――」

「やだ……って――」

 伊織の言葉が妙に可笑しくて、俺は吹き出してしまった。

「え? 圭?」

「寝惚けてんのか?」

「熱、下がったみたいね」と言うと、伊織が手を伸ばした。

 俺の首筋に触れる。伊織の手はひんやり冷たくて、気持ち良かった。

「微熱ってとこかな。今日と明日休んでれば大丈夫でしょう。ちゃんと薬飲んでよ?」

 パッと手を離し、彼女は立ち上がって腰を伸ばした。



 あ……帰る……?



「うどん、食べる? 桃缶の方がいい?」

 伊織の言葉に、ホッとした。



 まだ、一緒にいたい。



「うどん、食べる。……あ、お前は?」

「帰る途中で何か食べるよ」と言いながら、伊織が鍋を火にかけた。

「帰んの……?」

「え? 帰るよ?」

「一緒に食わねーの?」

「うん」

 あっさりと拒絶されて、心臓が針で刺されたようにチクチクと痛む。

「なんで?」

「食器、ないじゃない」



 は――? 食器?



「この部屋にも彼女、入れてないの?」

「え?」

 伊織が冷蔵庫からスポーツドリンクを出して、俺に手渡す。

「食器は最低限の一人分しかないし、女物も一つもないから」

「ああ……」と言いながら、俺はペットボトルに口をつけた。

「昔っから……圭は彼女をきらさないくせに、一人も家に入れなかったよね。そんなに干渉されたくなかったの?」

 伊織は火を止めて、鍋をテーブルに運んだ。

「彼女がいたら、鍋やどんぶりがあったんだろうけど」

「お前のなら用意するよ」

 俺はベッドから降りて、床に座った。うどんを前に、両手を合わせる。鍋の中に生卵が入っていた。

「いただきます」

 息を吹きかけて冷ましながらうどんを口に運ぶ。美味い。

「懐かしいね……」

「ん……?」

「美味し?」

「ああ。美味いよ」

 俺が答えると、伊織は嬉しそうに笑った。

「そ。ゆっくり食べてね」

 伊織が立ち上がり、バッグとジャケットを手に取った。

「帰んの?」

「うん」

「なんで?」

 俺の問いに、伊織が不思議そうな顔で振り向いた。

「圭? やっぱり病院に行った方がいいんじゃない?」

「……?」

「微熱程度でそんなに気弱になるなんて、おかしいよ?」



 こいつ……!



 伊織は何でも完璧にこなすくせに、自分のことだけはまるきり鈍い。自己評価が極端に低すぎるせいだ。特に恋愛に関しては。父親が三度も離婚をしたせいかもしれない。

 さり気なくアプローチしても気づかないし、あからさまにアプローチすると何か裏があるんじゃないかと警戒する。

 お陰で、伊織が俺以外の男と親しくなることはなかった。

 高校三年の夏までは――。


「買い物とか面倒だから、明日までいろ」

 俺は気を取り直して、言った。

「いや」

 即答された。



 はぁ?



「なんで!」

「……っ――」

 伊織が口ごもって、目を逸らす。



 ああ……、そういうことか……。



「お前にうつすようなことはしねーよ」と、俺はわざとそっけなく言った。
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