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1.似ていて異なるもの
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身体の相性はいいと思う。
性格的にも。
不倫、だからかもしれないけれど。
私たちは、この部屋以外の場所では会わない。同僚としてでも、二人きりで食事をすることはない。
二泊以上はしない。基本的に、泊まりは週末だけ。長くても金曜から日曜まで。
毎日は会わない。ズルズルと同棲のような状態にはしたくないから。もちろん、合鍵も渡さない。だから、私が会いたくない時は、ドアは開けない。
私は今までもそうやって不倫を繰り返してきた。
比呂ほど長く付き合った男はいなかったから、ここまでのルールを自分に課したことはなかったけれど。
正直、一年も関係が続くとは思っていなかった。
子供のいない夫婦の別居期間は、さほど長くない。と、思う。互いに譲れない財産でもあれば別だろうけれど。
だから、結婚して三年で子供もいなかった比呂が、一年半も別居生活を続け、未だに離婚していないことが不思議だ。
だからと言って、関係を続けている私自身も。
離婚に向けた話し合いをしている風もない。詳しくはわからないけれど。
別居を続けても離婚には踏み切れない理由があるのかもしれないけれど、聞いたことはない。
ただ、別居し始めた頃の比呂は、同僚という立場から見ていても痛々しかった。とにかく仕事に打ち込んでいた。仕事以外のことを考える時間を作らないように、いつ寝ているのかと心配になるほどだった。
お陰で、私まで比呂のペースで付き合わされるハメになった。
半年ほど、怒涛の毎日を過ごし、ついに比呂がダウンした。しかも、私と二人で残業していた金曜の夜に。
やつれきった同僚を放置することもできず、私は自分のマンションに連れて行き、食事を作った。確か、きのこの和風パスタ。
久しぶりにコンビニの弁当以外を食べた、と言って、比呂は軽く二人前を平らげた。
そして、比呂は私の家のソファで、寝落ちた。死んだように、とはこのことかと思うほど、深い眠り。私が寝て起きて、食事の支度をしても、洗濯機を回しても、起きなかった。
比呂が目を覚ましたのは翌日の夜。
私がお風呂から出ると、ソファで横になったまま、目を見開いていた。
その後、話をした。そして、比呂が別居中だと知った。
理由は聞かなかったけれど、原因は奥さんにあるのだと感じた。
『離婚……することになるだろうな』
そう呟いた比呂の目は、悲しみより怒りに満ちていた。
だから、誘った。
『相手、しようか?』
比呂は驚いた顔で、『はっ?』と聞いた。
私は笑って、『なんてね』と冗談にした。
そこで終わるはずだった。
けれど、終わらなかった。
『相手、してよ』
そう言って私を抱きしめたのは、比呂。
『奥さんと別れるまで、ね?』
そう言ってキスをしたのは、私。
性格的にも。
不倫、だからかもしれないけれど。
私たちは、この部屋以外の場所では会わない。同僚としてでも、二人きりで食事をすることはない。
二泊以上はしない。基本的に、泊まりは週末だけ。長くても金曜から日曜まで。
毎日は会わない。ズルズルと同棲のような状態にはしたくないから。もちろん、合鍵も渡さない。だから、私が会いたくない時は、ドアは開けない。
私は今までもそうやって不倫を繰り返してきた。
比呂ほど長く付き合った男はいなかったから、ここまでのルールを自分に課したことはなかったけれど。
正直、一年も関係が続くとは思っていなかった。
子供のいない夫婦の別居期間は、さほど長くない。と、思う。互いに譲れない財産でもあれば別だろうけれど。
だから、結婚して三年で子供もいなかった比呂が、一年半も別居生活を続け、未だに離婚していないことが不思議だ。
だからと言って、関係を続けている私自身も。
離婚に向けた話し合いをしている風もない。詳しくはわからないけれど。
別居を続けても離婚には踏み切れない理由があるのかもしれないけれど、聞いたことはない。
ただ、別居し始めた頃の比呂は、同僚という立場から見ていても痛々しかった。とにかく仕事に打ち込んでいた。仕事以外のことを考える時間を作らないように、いつ寝ているのかと心配になるほどだった。
お陰で、私まで比呂のペースで付き合わされるハメになった。
半年ほど、怒涛の毎日を過ごし、ついに比呂がダウンした。しかも、私と二人で残業していた金曜の夜に。
やつれきった同僚を放置することもできず、私は自分のマンションに連れて行き、食事を作った。確か、きのこの和風パスタ。
久しぶりにコンビニの弁当以外を食べた、と言って、比呂は軽く二人前を平らげた。
そして、比呂は私の家のソファで、寝落ちた。死んだように、とはこのことかと思うほど、深い眠り。私が寝て起きて、食事の支度をしても、洗濯機を回しても、起きなかった。
比呂が目を覚ましたのは翌日の夜。
私がお風呂から出ると、ソファで横になったまま、目を見開いていた。
その後、話をした。そして、比呂が別居中だと知った。
理由は聞かなかったけれど、原因は奥さんにあるのだと感じた。
『離婚……することになるだろうな』
そう呟いた比呂の目は、悲しみより怒りに満ちていた。
だから、誘った。
『相手、しようか?』
比呂は驚いた顔で、『はっ?』と聞いた。
私は笑って、『なんてね』と冗談にした。
そこで終わるはずだった。
けれど、終わらなかった。
『相手、してよ』
そう言って私を抱きしめたのは、比呂。
『奥さんと別れるまで、ね?』
そう言ってキスをしたのは、私。
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