【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以

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「そういえば、麻衣。あれからどうだ?」

 ジョッキ半分のビールを胃に溜めて、陸が聞いた。

「一度打ち合わせで会ったけど、何も言われなかった」と、麻衣。

「ホント、助かったよ」

「何の話だ?」と、大和が聞いた。

「それがさ――」

 失礼します、と声が聞こえて、襖が開く。店員が料理を運んできた。

 大根サラダとシーザーサラダ、焼き鳥のアラカルトと、チーズの盛り合わせ、フライドポテトと鶏の唐揚げ、たこわさ、エイヒレ……。

 ひとまず、テーブルいっぱいに皿が並んだ。

 陸がビールを注文する。

 私とあきらはサラダを取り分けて麻衣とさなえに回し、麻衣とさなえは揚げ物を取り分けて回してくれた。

「――で? 麻衣がなんだって?」と、大和が途中になった話の続きを催促した。

「顧客に誘われて陸のホテルで食事したの」

 麻衣が答えた。

「ちょっとしつこかったから、陸に助けてもらったってだけ」

「陸のホテルって高級たかいだろ!? そりゃ、男は期待するわ」

「金持ってんのねー」と、私は大根を噛みながら言った。

「好みじゃなかったの?」

「なんか……嫌な予感はしてたんだよね」と、麻衣が空笑いをした。

「もしかして、また?」

「……」

「麻衣ちゃん、何もされなかった!?」と、さなえが心配そうに聞く。

「大丈夫。レストランを出たところで陸に助けてもらったから」

「――ってか、なんでホテルで食事なんかしたのよ。下心ありありじゃない」

「人目があるし……。陸のホテルだったから、大丈夫かなと思って」

 麻衣が、えへへ、と笑う。

「いや、大丈夫じゃないだろ」と、大和。

「そうだぞ。俺がいない時だったらどうすんだよ」

「そうなんだけどね?」

「なんかあったの?」と、あきらが聞いた。

「麻衣がそんなあからさまな誘いに乗るなんて、珍しいね」

「……後輩の……挑発に乗っちゃった感じ?」

「後輩?」

「前に言ってた、教育係してやってる奴?」

「そ。生意気なこと言うから、つい……」

「つい、じゃねーだろ。そんな挑発に乗って何かあっても自己責任だぞ」と、陸がきつめに言った。

 陸と麻衣は同じ年だからか、大学時代から特別仲がいい。

 陸は男運の悪い麻衣を特別心配しているし、麻衣も陸を信頼している。

 いつか恋愛関係に発展するのではと思っていたけれど、そうならないまま陸は結婚した。

「とにかく! あの男とはもう会うなよ? ここだけの話、あいつはうちの常連だけど、女はいつも違うし、プロを呼んでることもあるらしい」

「プロ?」と、麻衣が聞いた。

「デリヘル嬢とか?」と、あきらも聞く。

「らしい」

「うわ、最低!」と、さなえ。

「麻衣、ダメだよ。二人きりになっちゃ」と、私。

「うん……」

 麻衣が伏目がちに言った。

 麻衣は容姿にコンプレックスを持っている。

 童顔で背が低く、ぽっちゃり体形で、胸が大きい。初対面では、まず十歳は若く見られる。

 そのせいで、大学時代から痴漢されたり、告白されて付き合った男に変態的なプレイを要求されたりして、怖い思いをしてきた。

 男の視線が胸に集中するのが嫌で、襟の開いた服は着ない。一人で夜道は歩かない。防犯ブザーや催涙スプレーは必需品。
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