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3.仮面夫婦
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しおりを挟む千尋が嫉妬なんてするはずないとわかっていた。
一年間、毎晩のように抱いても、千尋の本心は見えないまま。
一年間、毎晩のように抱いて、本気で愛したのは俺だけ。
それでも、少しは気にしてくれるんじゃないかなんて、子供染みた期待を込めて言った。
「来週、妻に会う」
俺が脱がせた白いシャツを素肌に着た千尋は、真っ裸よりも色っぽい。
「そ?」
振り返りもせずに、素っ気ない一言だけ。
相変わらず、可愛くない。
わかっていたけれど、少しは驚くなり、理由を聞くなりしてくれてもいいだろうに。
仕事をしている時は感情むき出しで活き活きとしているのに、俺といる時は感情の一切を隠している。
俺はというと、千尋とは逆で、会社ではデキる男を作っているけれど、千尋の前ではただの甘えたな男に成り下がっていた。
「いよいよ、離婚?」
「いや。妻の妹の結婚式に出なきゃなんねーんだよ」
ようやく振り向いた千尋は、眉間に皺を寄せて難しい顔。
「ぶっさいくな顔」と言って、俺は千尋の鼻を摘まんだ。
すぐさま、手を払いのけられる。
「ヨリを戻すなら、もう――」
「――んなわけねーだろ」
「じゃあ――」
「なんだよ。そんなに俺と別れたいのかよ!?」
目を逸らされ、腹が立つほどショックだった。
俺は腕を頭の下で組み、寝転がった。
「どっちの家族も別居を知らないからな」
「一年以上も別居してるのに?」
ここで驚くか。
この一年、妻に関して話したことはなかった。聞かれなかったし、言いたくもなかった。
「お互いに忙しいから、揃って実家に行くこともなかったしな。黙っていれば気づかれないもんだ」
「年末年始とかも?」
「ああ。あいつは一人で帰ってるみたいだけどな。俺はとにかく忙しくて予定が合わなかったってことになってるらしい」
俺の生家はもうない。
生まれ育った家は七年前に売られ、両親は父方の祖父母の面倒を見るために道外に引っ越した。
だから、実家といっても祖父母の家だし、帰ってもくつろげるわけでもなかった。
「ふぅん」と、千尋は気のない言葉を返した。
「結婚式はどこ?」
「岩手」
「美味しい冷麺食べたい」
「買って来てやるよ」
「いい。比呂がいない間に食べに行くから」
「うわ。冷てぇ」
俺は千尋の腕を掴み、引き寄せた。ベッドに膝をついた千尋の腰を抱き寄せ、キスをした。
「ちょ――」
千尋は俺の肩を押し退けようとしたが、そうはさせなかった。唇の隙間に舌を滑り込ませながら、数秒前に掛けたボタンを外していく。
「もうっ――! やめ――」
いつも、最初は抵抗する。
けれど、すぐに諦め、自ら俺の首に腕を回す。その瞬間が、好きだ。
それからの一時は、素直に俺を求めてくれる。
「千尋……」
シャツの隙間に顔を埋め、まだ少し汗ばむ肌を味わう。文字通り、期待に胸を膨らませて色ずく先端を避けて、舌を這わせ、吸いつく。
「ん――っ」
もどかしさに腰を揺らし、俺の腰に跨ると、千尋の足の間に硬くなったモノが納まった。前後に腰を揺らされると、擦れて気持ちいい。
「そんなに擦ったら、挿入るぞ?」
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