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6.決意
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一人で食べるコンビニ弁当は味気なくて、なのに味は濃いから喉ばかり乾く。食べることもどうでもよくなって、ひたすら仕事に打ち込んでいた。
いよいよ身体が悲鳴を上げた時、『私が人に食事を作るなんてかなりレアなことなんだから、ありがたく食べなさいよ』と言って差し出されたパスタ。
あの時、千尋は、無言でパスタを食べる俺のそばに、黙っていてくれた。何をしていたかは思い出せない。テレビを見ていたのかもしれないし、スマホを弄っていたのかもしれない。それでも、ただ、そばにいてくれたことが、なにより嬉しかった。
腹を満たして、丸一日眠って、起きて、千尋の飯を食って。そうしたら、なぜか、それまで誰にも言っていなかったのに、何の躊躇いもなく、言えた。
『別居中なんだ』
詳しいことは言わなかったし、千尋も聞かなかった。
『相手、しようか?』
その言葉に驚きはしたけれど、なぜか軽蔑とか怒りは感じなかった。
仕返ししたかったのかもしれない。
俺を裏切った美幸に、操を立てる義理はないと、自分に言い聞かせたかったのかもしれない。
何より、千尋が欲しくて堪らなかった――。
一度抱いてしまったら、もう離れられなくなった。
悪女ぶってみても、千尋の温もりは優しくて、心地良かった。
『復讐、かしら』
美幸が、言った。
『復讐? 自分と結婚しなかった男へのか』
美幸はフフッと笑っただけで、答えなかった。
俺を見る同僚の目は好奇に満ちていた。
別居解消か、離婚か。
賭けでもされているかもしれない。
千尋に事情を話したくても、それこそ何を噂されるかわからないと思い、やめた。それでも、やっぱり気になって、千尋が一人になるのを待った。
そして、千尋が一人でミーティングブースに移動した後を追った。
そこで、まさか、千尋と長谷部課長の関係を知ることになるとは思わずに。
結局、千尋とは話せないまま、俺は自分のアパートに帰った。
今、千尋の家に押しかけたら、きっと歯止めが利かなくなる。
無理やり押し倒して、長谷部課長も届かなかった千尋の奥の奥に押し入って、俺を刻みたかった。
そんな妄想を抱きながら、彼女に会うわけにはいかなかった。
千尋は美幸のことを気にしてくれているだろうか……?
千尋から連絡があるのではと淡い期待を持ってスマホを眺めていたが、虚しさが募るだけだった。
いよいよ身体が悲鳴を上げた時、『私が人に食事を作るなんてかなりレアなことなんだから、ありがたく食べなさいよ』と言って差し出されたパスタ。
あの時、千尋は、無言でパスタを食べる俺のそばに、黙っていてくれた。何をしていたかは思い出せない。テレビを見ていたのかもしれないし、スマホを弄っていたのかもしれない。それでも、ただ、そばにいてくれたことが、なにより嬉しかった。
腹を満たして、丸一日眠って、起きて、千尋の飯を食って。そうしたら、なぜか、それまで誰にも言っていなかったのに、何の躊躇いもなく、言えた。
『別居中なんだ』
詳しいことは言わなかったし、千尋も聞かなかった。
『相手、しようか?』
その言葉に驚きはしたけれど、なぜか軽蔑とか怒りは感じなかった。
仕返ししたかったのかもしれない。
俺を裏切った美幸に、操を立てる義理はないと、自分に言い聞かせたかったのかもしれない。
何より、千尋が欲しくて堪らなかった――。
一度抱いてしまったら、もう離れられなくなった。
悪女ぶってみても、千尋の温もりは優しくて、心地良かった。
『復讐、かしら』
美幸が、言った。
『復讐? 自分と結婚しなかった男へのか』
美幸はフフッと笑っただけで、答えなかった。
俺を見る同僚の目は好奇に満ちていた。
別居解消か、離婚か。
賭けでもされているかもしれない。
千尋に事情を話したくても、それこそ何を噂されるかわからないと思い、やめた。それでも、やっぱり気になって、千尋が一人になるのを待った。
そして、千尋が一人でミーティングブースに移動した後を追った。
そこで、まさか、千尋と長谷部課長の関係を知ることになるとは思わずに。
結局、千尋とは話せないまま、俺は自分のアパートに帰った。
今、千尋の家に押しかけたら、きっと歯止めが利かなくなる。
無理やり押し倒して、長谷部課長も届かなかった千尋の奥の奥に押し入って、俺を刻みたかった。
そんな妄想を抱きながら、彼女に会うわけにはいかなかった。
千尋は美幸のことを気にしてくれているだろうか……?
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