【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以

文字の大きさ
72 / 147
10.妻の愛人

しおりを挟む


『美幸との離婚の手段くらい用意してる』

 千尋にそう言った翌日。

 俺はスマホで調査会社を検索し、浮気調査に強い会社に目星をつけて、三社ほど電話をかけた。

 一社は依頼が多くて、調査結果を出すまでに三か月から半年はかかると言われた。

 一社はすぐに調査にかかれるが、連絡手段はメールのみで、報告書もメール。費用は行動調査五日で、着手金として三十五万円を振り込み、書面と写真での報告書を作成の後、二十万円を振り込むと報告書が送られてくると言う。

 もう一社もすぐに調査可能で、時間があれば面談した上で料金を見積り、クレジットカードの使用も出来ると言う。

 俺は三社目に、面談の予約を入れた。



 調査員は三名、俺の対応をしてくれたのは、越野哲太こしのてつたという四十代前半の男性だった。

 初回の面談時の手順なのだろう。

 名刺を渡され、名刺が本物である確認として免許証を見せられた。それから、守秘義務についての説明と、確認書にサインを求められた。

 事務所はビルの一室だが、一階にはコンビニと花屋が入っていて、全体の雰囲気は明るい。事務所の入口もガラス戸で閉塞的な印象はない。入ってすぐの六畳ほどの部屋が打ち合わせブースになっていて、入口からは見えないようにパーテーションで仕切られている。

 ドラマや映画でよく見る探偵事務所とは大違いで、少し驚いた。

「依頼内容の確認として、録音させていただきます。ご希望でしたらコピーをお渡ししますし、調査終了後に消去いたしますので、ご安心ください」と言いながら、越野さんは一メートル角のダークな木目のテーブルの中央に、レコーダーを置いた。

「はい」

 俺が頷くと、越野さんがスイッチを入れる。赤いランプが点灯し、録音が開始された。

「まず、依頼内容と理由をお伺いします。内容によっては依頼をお断りする場合がありますことを、ご了承ください」

「はい」

「では、依頼内容をお伺いします」

「妻の行動調査です。端的に言えば浮気調査ですが、浮気の事実は確かなので、証拠写真と、相手についての調査をお願いします」

 越野さんは、手元のクリップボードの用紙に、俺の言葉を記入していく。

「奥様の浮気が確か、という理由は?」

「本人から聞きましたから。それが理由で二年ほど前から別居しています。が、妻が離婚に応じないので、確かな証拠が欲しいんです。できれば、相手の男性と話がしたいとも考えています」

「有川さんは離婚をお望みなんですね?」

「はい」

「奥様が離婚に応じない理由はご存じですか?」

「相手にも家庭があり、自分が離婚しても結婚できるわけではないから、と言っていました。離婚して、親兄弟を失望させたくない、とも」

「なるほど。では、相手の男性と話がしたい、というのは?」

「妻の説得を頼みたいからです」

「相手の男性に、不倫相手の離婚を説得しろ、と?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

網代さんを怒らせたい

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」 彼がなにを言っているのかわからなかった。 たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。 しかし彼曰く、これは練習なのらしい。 それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。 それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。 それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。 和倉千代子(わくらちよこ) 23 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 デザイナー 黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟 ただし、そう呼ぶのは網代のみ なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている 仕事も頑張る努力家 × 網代立生(あじろたつき) 28 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 営業兼事務 背が高く、一見優しげ しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く 人の好き嫌いが激しい 常識の通じないヤツが大嫌い 恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?

処理中です...