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14.指輪を外していなくても
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しおりを挟む二日後の十九時。
私は亘の指示通り、札幌駅から徒歩三分のタワーマンションに来ていた。数年前に着工した際にはテレビでも話題になり、昨年完成した三十五階建ての億ション。
エントランスで番号を入力すると、応答もなく自動ドアが開いた。それから、何基もあるエレベーターから、亘の部屋に繋がる一基を探し、ボタンを押した。瞬時に扉が開く。
もっとゆっくり降りてきて欲しかったが、迅速な対応が任務の大きな箱は、私を最上階まで運ぶのも早かった。
「来たな」
玄関で待ち構えていた亘の顔は、ガーゼで覆われていない部分は赤紫に腫れていた。
「可愛い婚約者と鉢合わせとか、ごめんなんだけど」と、私はエレベーターを降りて足を止めた。
「そんなヘマするかよ。ここは瑠莉も知らない」
「随分値の張るラブホテルね」
「そうだ。腰を振りながら見る夜景は最高だぞ」
亘はいやらしく口元を緩ませ、眼球だけ部屋に向けた。
吐きそうだ。
いっそのこと、亘の顔に吐いてやりたい。
私は奥歯を噛みしめて、踏み出した。
玄関を入ってから、亘はベラベラとマンション自慢を始めたが、全く頭に入ってこなかった。
どうでもいい。
こんな男に抱かれるのかと思えば、億ションだろうとごみ捨て場だろうと違いはない。
体育倉庫だろうと。
亘は、ドカッと革張りのソファに腰を下ろすと、その振動が顔の傷に響いたのか片目を細めた。小さく舌打ちをして、テーブルの上の煙草を咥える。
「火」
手を伸ばせば届く場所にライターがあるにも関わらず、亘は私を見て言った。
私は無言でライターを手に取り、腰をかがめてライターを亘の煙草の先に近づけた。
ぼっとオレンジ色の炎が上がり、ジュッという紙が燃える音と共に、煙草の先端が焼けた。
「次からは跪け」
亘はソファの背にもたれ、大袈裟な動作で足を組む。
「しゃぶる時以外、跪かないって決めてるの」
夜景を見ながら、言った。
「なら、しゃぶれよ」
亘は組んだ足を下ろした。
私は肩に掛けたバッグの持ち手をギュッと握った。
「私がしゃぶったところで、この騒ぎをあんたの力でなかったことには出来ないと思うけど?」
「じゃあ、俺のの代わりに自分の指をしゃぶって、あの男がクビになるのを見てろよ」
「……出来るの?」
「老いぼれどもくらい、どうにでもなる」
「若造の言いなりにるかしら?」
「どうしてか、うちの重役は年頃の娘の父親が多い。夜景とスイートと次期社長が大好きな、股の緩い娘の、な」
クククッと気色悪い含み笑いに、唾を吐きたい衝動を堪える。
「重役の娘に足を開かせておきながら、結婚するのは取引先の娘?」
「社長夫人になれるかもなんて身の程知らずな夢を見せてやったんだ、感謝して欲しいくらいだな」
「で? ハメ撮りでもしたの? それをネタに父親たちを脅す?」
「聞き訳がなければ、それも仕方ねぇな」
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